馬場家住宅 (ばばけじゅうたく) 重要文化財



 松本市南部の内田地区に豪農の民家「馬場家住宅(通称”馬場屋敷”)」があります。内田地区は鉢伏山の麓に広がる農村地帯で、標高690mの高台にあるために北アルプスの山並も望める素晴らしい景観を持つ場所。この馬場屋敷は西側に豪壮な表門が開かれているのですが、その眼前は秋になると一面のコスモス畑に変わり、美しいビューポイントに花を添えます。

 

 馬場家は元々武田家の家臣でしたが、武田家滅亡後に帰農して1582年(天正10年)頃にこの地に移り住み、近郷の開発を始めました。江戸期には広大な農地を持ち藩主とも繋がりの深かったこともあってか、建物は藩主を迎え入る為に格式を重んじた荘重な造りで、豪農の民家と言うよりは武家屋敷に近い内容を有しています。建物は全て江戸末期に建てられた物で、主屋は1851年(嘉永4年)の建造。桁行18.8m、梁間16.4m、屋根は鉄板葺きの切妻造りに一部二階建ての構造で、正面棟上に「雀おどし」と呼ばれる棟飾りをのせた本棟造りと呼ばれるこの地方独特の様式。敷地全体の建物が全て国の重要文化財に指定されています。

 

 内部は田の字型にゲンカン・ザシキ・オエ・カミオエと各部屋が並び、カミオエの奥にコザシキとヨジョウ、オエの奥にネマ、それにドマとカッテによる構成。この中でザシキは格調高い意匠で統一された貴賓室の様相を持っていて、床脇に書院や違い棚を配し、さらに床と違い棚との間に狆潜りを設けて竹と筍の彫刻を入れた風雅な趣を漂わせています。
 ザシキとゲンカンはそれぞれ10畳間で続いており、その間の欄間にも唐松・宿り木・雀の透かし彫りが施された豪華版。ザシキの西側にはイリカワと呼ばれる畳廊下があり、ここは中門を通じて藩主が庭から訪問する際の腰掛場にされていた模様で、ザシキ同様に廊下とは思えない凝った意匠が施されています。天井は緩くアーチ上に曲げられ、杉戸には梅の絵を入れたもので、細部にわたるまで気品に満ちた空間を作り出しています。

 

  

 一方生活空間だったオエと呼ばれる建物中央部の15畳の部屋は、ドマ・カッテ・ゲンカン・カミオエ・ネマのいずれの部屋にも抜けられる交差点のような繋ぎの空間になっており、面白いことに天井中央に気抜けの天窓が開けられています。奥にあるネマにはオエから隠れるように箱階段が設けられ、非常時用に二階から外部へ逃げられる仕掛けがとられています。
 そのオエの北側に21畳分の広い土間に15畳分の板の間のカッテが作られ、カッテには囲炉裏が切られてあります。各部屋は天井板が嵌めてあるのですが、このドマは吹き抜けになっており、太い梁による重厚な木組みがよくわかります。

 

 

 敷地の南面は端正な坪庭が作られていて、主屋内部の座敷に座って様々なフォルムに刈り込まれた生垣を眺めているだけでも、はたしてこれが農家の家なのかと感嘆せずにはいられません。南東部には池も作られ、その奥小高く上がった場所に、生垣に隠れるようにして茶室もあります。地方の豪農の文化面の高さを窺い知る事が出来ます。

 

 

 主屋の東側には渡り廊下で文庫蔵があり、さらに離れて奥蔵と隠居屋が建てられています。いずれも幕末の弘化年間から元治年間にかけての建造。

 

 敷地面積は約1万3千u(4千坪)の広さを誇りますが、その半分は屋敷林とも呼ぶべき豊かな森。遠方から見ても田園に浮かび上がる鬱蒼とした緑の島の如く。屋敷前田には馬場家の祠が祀られていて、その背後には樹齢800年の大欅が植えられており、松本市の特別天然記念物に指定されています。秋のコスモス畑越しに見られる風景は、この土地の豊かな環境を代弁しているように見られます。

 



 「馬場家住宅」
   〒399-0023 長野県松本市大字内田357-6
   電話番号 0263-85-5070
   開館時間 AM9:00〜PM5:00(入館は4:30迄)
   休館日 毎週月曜日 祝日の翌日 12/29〜1/3