私たちは、国の上告理由にどう反論したか
弁護団 原 章夫(長崎)

 最高裁判所では、地方裁判所や高等裁判所のように法廷(口頭弁論)は開かれません。それまでに調べてきた事実を前提に、法令の解釈・適用に誤りがないかを書面上審理するのが、最高裁の役割とされています。 そこでは、まず、国がその主張(言い分)を上告理由書にまとめて提出しなければなりません。それに対する私たちの反論が今回提出した上告理由反論書です。

 それは、本文281ページにも及ぶ大部なものですが、その半分近くが第一部「被爆の実相」の記述で占められているのは特徴的です。私たちは、裁判所を被爆者の立場に立たせるためには、裁判官が被爆の実相を知ることが不可欠の前提と考え、一審以来一貫して被爆の実相を明らかにすることに裁判のポイントを置いてきたのです。また、被爆の実相は、国の論理の非科学性を暴くものでもあります。即ち、国は、DS86という被曝線量の計算方式を松谷さんにあてはめれば、松谷さんの被曝線量は数ラドにすぎず、それでは人体に影響が表われるはずがないという主張を繰り返していますが、国のこの論理によっては表われるはずのない急性放射線障害(脱毛、下痢など)が、遠距離被爆者にも現実に表われているのです。
 第二部は、主に法律論です。そこでは、被爆者は原爆放射線と障害との関係を厳密に証明しなければならないとする国側の上告理由の中心的な主張に対して、そういう被爆者の証明の負担が軽減されなければならないことを明らかにしています。
 第三部は、主に科学論です。そこでは、国が唯一の拠り所とするDS86が、決して国側の主張するように正確なものではないこと、他の様々な事情から原爆放射線の人体に与える影響を考えなければならないことを明らかにしています。
 最後に、第四部で、松谷さんの障害に原爆放射線が影響していることを、上告理由に反論して明らかにしています。
 上告理由書は、私たちの主張の到達点です。読みとおすのは大変だと思いますが、第一部だけでもまとめて読めば、きっと新しい発見があるはずです。それは、これからの運動の出発点になるものでしょう。