(雑談編) ソメイヨシノの誤解
 ソメイヨシノ(Cerasus × yedoensis)は、緑の若葉が出る前に、木全体を覆うように淡紅白色の花をつけます。その起源には謎が多く、従来から様々な説がありましたが、最近の遺伝子解析による研究の結果、ソメイヨシノの起源はエドヒガンザクラ(母種)とオオシマザクラ(父種)の交配によって、生まれたものであるということがわかりました。
 栽培の歴史は新しく、江戸(染井:現在の東京都豊島区)の植木屋が、はじめ「吉野」の名で売り出したものとされています。後に奈良の吉野山のヤマザクラと混同しやすいので、明治33年に染井吉野という名前に改められました。花は3、4個集まって咲き、香りはなく、花弁は5枚の一重咲きです。一般に桜と言えば、ソメイヨシノをさすのが常識的です。それだけ全国に多く植えられ、名所があり、人々になじみも深いからなのでしょう。
(ソメイヨシノはクローン植物)
 クローンといってしまえば、あまり良い印象がありませんが、ソメイヨシノは、クローン植物なのです。「えッえ~」という声が聞こえてきそうですが、ソメイヨシノという栽培品種は、自然に増えることができません。種子で増やすと親の形質を必ずしも子に伝わることがないため、ソメイヨシノというすぐれた形質を残し増やす方法は、接木もしくは挿し木などの栄養繁殖の方法をとらざるおえなく、結果クローンとなってしまうのです。
 ソメイヨシノは、人の手を介さない(接木などで増殖)と生存することが出来ない品種だといえます。美しい花を咲かせ、たくみに人々の心をとらえた結果、人と共存の道を選んだ桜なのでしょう。百年もほっておくとソメイヨシノはこの世からなくなってしまうのです。
 ※桜の品種のほとんどは、ソメイヨシノと同様に栄養繁殖により保存され今日まで残っています。
(ソメイヨシノは不稔性か・・・)
 ソメイヨシノは不稔性との誤った記述を見かけます。必ずしも種子が出来ないことはなく、ソメイヨシノ以外の桜の種、品種が近くにあった場合、よく実ります。これは、桜の自家不和合性というもので、同一固体(自身)の花粉で受粉しないシステムです。クローンであるソメイヨシノはすべての花が同じものとなるのでソメイヨシノばかりだと受粉することがないわけです。では、ソメイヨシノとそれ以外の桜を植栽すれば、全てのソメイヨシノが結実するかといえばそういうわけにいかず、同じ時期に開花する他の桜とソメイヨシノを並べて植えても真横にあったものでも結実せず少し離れた場所のソメイヨシノが見間違うほど種子をならせる場合があるなど一概には言えません。結実にはポリネーター(花粉媒介者)の存在やソメイヨシノがそもそももつ不稔性花の発現数によるものと考えられますが、ソメイヨシノが不稔性だとするのは間違いです。ちなみにソメイヨシノの種子から出来た桜はソメイヨシノでなくなることは、前段のとおりです。
 ※私の経験から種子をならせる個体は毎年同じものです。開花期特にハナアブの仲間が多く飛来します。
(クローン植物なるがゆえに)
 毎年、桜前線が発表されます。クローン植物なるがゆえに、遺伝子が同じなので条件が整えば一斉に開花します。また、言い換えれば、世界でも類を見ない、全国津々浦々に配した生物気象観測レーダーと言えるでしょう。しかし、最近、異常に開花が早い年があります。地球温暖化の影響か?と危惧しております。
 あと数十年もすれば入学式には、満開の桜を見ることもできないのではと思うとさびしい限りです。
(ソメイヨシノ寿命60年説)
 ソメイヨシノ寿命60年説というのがあるのを皆さんご存知でしょうか。ソメイヨシノは、寿命が短い桜だと言われています。前述のようにソメイヨシノは、片親がエドヒガンザクラですが、このエドヒガンザクラ、実は、大変長命で、全国には樹齢千年級のものが数多く存在します。長命の桜から誕生したソメイヨシノが薄命とは皮肉なものです。
 しかし、ソメイヨシノ寿命60年説に異議を唱える方もいらっしゃいます。青森県弘前市では、樹勢回復に熱心に取り組まれた結果、多くのソメイヨシノの樹勢回復が成功しています。また同市には、日本最古の樹齢百年をこえるソメイヨシノがあります。
 弘前市の例から考えるとソメイヨシノは、けっして短命ではないといえる証左ではないでしょうか。要は若返りのために常に新しく根を更新してあげるこれが大事なんですよね。
 地道な樹勢回復と適切な管理作業こそが人の寿命をも凌駕するソメイヨシノを育て上げるポイントだと思います。
 技術的な話は後半をご覧下さい。
(最初は1本だったソメイヨシノ)
 私達に美しい花を見せてくれるソメイヨシノ・・・最初は1本から始まったソメイヨシノも、現在では人の手を介して日本全国に無数に増え広がりました。人との共存を選んだソメイヨシノは、人の手による、また、新たな新天地をまっているのです。老木になってしまったら、若木として蘇えらせることをためらうべきではないと考えます。例えば、道路拡張などで無くなってしまう年老いたソメイヨシノがあるとします。それらを無理に移植して他の地へ残してあげるよりは、結果として新しい植え場所があるのなら、若い苗木を植え換えてあげるほうが、ソメイヨシノという品種を守っていく意味では必要なことだと思います。
 そう・・・全国に無数にあるクローン植物ソメイヨシノは、実は1本の木から殖えたものなのです。
 植え替えてあげる場合は、出来るだけソメイヨシノが大好きな条件で、そして、伸び伸びと育つ場所に植えてあげましょう。そして、いたみ寿命がくれば、植え替えてあげる。それが、ソメイヨシノと上手に付き合う方法ではないかと考えます。

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