「夏だな」 「そうですね、夏ですねシロウ」 「でも、夏と言う感じがしないな」 「それはどうしてでしょうか」 「暑さをそれほど感じないから、かな」 「…そんなことはないでしょう。温度計を見てみると37度あります」 「げ、そりゃ高い」 「さっき買い物の途中で停車中の自家用車に触れたのですが、ものすごく熱くなってました」 「なんでまたそんなことを」 「深い意味はありません」 「いや、そんなことないだろ」 「ありません」 「意味もなく車に触れるなんて考えられないだろ」 「シロウ、私はまだ世の中をよく知らない。何事も経験が大事だと思う」 「…この世界で半年以上暮らしていて今更そんなこと経験しても意味ないことだって分かるだろ」 「いいえ」 「…セイバー」 「なんでしょうか」 「どんな目的があって、車に触れたんだ?」 「何を意味の分からないことを。意味などあるわけがないでしょう」 「だって今自分で「何事も経験」と言ったじゃないか。何か目的があって車に触ったんだろ?」 「…鋭いですねシロウ」 「誉めても質問は止めないぞ」 「…シロウ、手ごわくなった」 「で?」 「意味などないと言ったでしょう」 「それで納得すると思うか?」 「納得しようがしまいが関係ない。私は事実を述べただけです」 「なるほど。で?」 「…む。やりますねシロウ」 「で?」 「…シロウ。ですから」 「で?」 「…………」 「で?」 「…なんでもありません」 「で?」 「…くっ」 「で?」 「……たまご」 「え?」 「たまご…」 「た、たまご?」 「…たまごを…」 「卵って、あの卵か?ニワトリが産む」 「…テレビで以前…」 「?」 「…テレビで以前「熱した鉄板に生卵を落とすと目玉焼きが出来る」と聞いていたもので…」 「…………それを、試してみようと?」 「…私はお腹が空いていたんです。シロウは忙しそうだった。そして私は料理が分からない。だから…」 「い、いくらなんでも車のボンネットで目玉焼き作ることはないだろ」 「他に思いつかなかったんですっ」 「…………今度菜園でも作るか。それならセイバーも何もしなくても食べられるだろ」 「…シロウ」 「だからそんなみっともないこと、しないでくれ…」 「……分かりました。シロウがそこまでしてくれるというのなら」 「…英霊ともあろう存在が車のボンネットで目玉焼きなんか作ろうとしないでくれよ…」 「背に腹は変えられません」 「……やれやれ」 「シロウ。お願いがあります」 「なんだよ」 「鶏を飼ってもらえませんか。そうすれば卵も鶏肉も手に入ります。ちゃんと育てて間引くから安心してください」 「…………やれやれ」
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