「祐一、初詣に行くよ」 「俺はパスだ」 「駄目だよ。水瀬家では全員で初詣に行くのがしきたりなんだから。そんなのは認め られないよ」 「ごめんなさいね祐一さん、そういう決まりなの」 「そういうことなら一緒させていただきます」 「わ。わたしとお母さん相手じゃ態度が全然違う」 「家長の言うことに居候が逆らえると思うか?」 「うー、納得いかないよ」 「とりあえず名雪」 「…なに?」 「晴れ着似合ってるぞ」 「……ありがと、祐一」 「…どうしたんですか祐一さん。疲れた顔して」 「…いや、神社は近くにあるって言われたから、もっと近くにあるのかと思っていた もので」 「え?近いじゃない」 「歩いて20分もかかるようなところは近いとは言わん」 「そうかなあ。近い方だと思うよ。ねえお母さん」 「そうね。近いわよね」 「…暮らしていた環境の差はこういうところで出てくるんだよなあ」 「ほら祐一、見えてきたよ」 「…さすがに賑わってるな」 「この辺りじゃ一番大きな神社だからね」 「知り合いに出くわしたりしないだろうな。ありそうで嫌だぞ」 「少なくても香里に会う心配はないよ。家族旅行って行ってたからね」 「そうか、それなら安心だな。俺の他の知り合いも出かけているらしいからな」 「心置きなくお参り出来るね」 「じゃあ早速お参りを済ませてしまいましょう」 「祐一は何をお祈りしたの?」 「内緒だ」 「それは駄目だよ。ね、お母さん」 「そうね。何をお祈りしたのかも言うのが決まりごとですから」 「…どんな決まりごとですか、それは」 「祐一が今言ったこと、わたしが10年ぐらい前に言ったことだよ」 「…女の子は秘密を多く持ちたがるものだからな」 「それで祐一さん、どんなお祈りを?」 「…さすがに誤魔化されませんか」 「はい祐一、言って言って」 「月並だけど、「可愛い恋人とそのお母さんと一緒に1年何事もなく過ごせるよう に」だよ」 「わっ、祐一がとても恥ずかしいことを言ってるよ」 「言わせたのは名雪だろうがっ!」 「嬉しいよ、祐一」 「…女ってずるいよな。で、名雪は何を祈ったんだ?」 「えへへ」 「笑って誤魔化せると思うなよ」 「言うのが恥ずかしいんだよね」 「決まり事だ、恥ずかしくても言わなければならないんだぞ」 「うー、わかってるよ」 「名雪は何をお祈りしたのかしら?」 「…祐一の子供が欲しいなって」 「…アホかっ!」 「わたしは本気だよ」 「本気って、あのなあ」 「わたしの夢は18歳で子供を生むことだもん。つまり今年中、しかも二月までには どうにかしないとじゃないと間に合わないんだよ」 「…マジか?」 「頑張ってね、祐一。ところでお母さんはどんなお祈りをしたの?」 「俺はスルーか?今年中に子供出来るのは決定事項か?」 「私は名雪に双子を生んでもらって、その子を私が育てることね」 「駄目だよ、そんなことしたらわたしの子供なのにお母さんのことを「おかあさ ん」って呼んじゃうじゃない」 「…そうなってもおかしくないところがすごいよな、秋子さんの場合…」 おしまい
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