※一部に男性同士の露骨な生描写が見られます。18歳以下の方は閲覧しないで下さい。
※ 劇場版のネタバレを含みます。
※ 2期最終回から劇場版までの話です。



『 ノクターン―飛翔する用意はできていた 』

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 そのあとのことは半分夢の中にいるようで、未だにこれはいつも自室で耽る自慰行為の妄想なのではないかと疑ってみる。しかしこれはまぎれもない現実だ。見覚えがあるモーテルの一室は確かに昨日から刹那が泊まっている部屋だった。
 狭い部屋で室内にはセミダブルのベッドが一つとテーブルセットが一組。グラハムは最初ベッドに腰掛けようとするが躊躇してソファーに座った。だがまたすぐに立ち上がる。その間刹那は入り口付近に立ったままその様子を観察した。グラハムは冷蔵庫を開けて中を物色する。「大した酒はないな」「あの酒、持ってくればよかった」「君も何か飲む……」などとうろうろしている。グラハムに近付いて、至近距離で見つめあう。
「いらない」
 動揺するグラハムの腰に腕をまわして引き寄せた。彼が息を飲む気配を感じながら、暫く見つめあう。恐る恐る頬に触れる。柔らかい弾力に弾かれるが、すぐに元に戻す。今度はさらに注意深く触れる。中指の先が瞼の下の柔らかい膨らみに達した。眼球の丸みに沿って軽く押すと、グラハムは眼を閉じた。それに誘われて顔を寄せる。最初に触れたのは額だった。鼻骨へ下がり瞼へ触れる。すると眼窩の筋肉が痙攣した。ちくちくしてくすぐったい。米神から髪を掻きわけていくと柔らかい癖毛が爪の隙間に絡んでいく。軽く引っ掛かるのは爪が伸びているせいだ。こんなことになるなら切っておけばよかった。柔らかな皮膚は爪でさえ傷ついてしまいそうだ。
 グラハムの方が少し背が高いので、刹那は僅かに踵を浮かせて顔を寄せた。口づけながらシャツの中に手を入れて、直に湾曲し突き出た頸椎の棘をたどる。
 刹那はそこで一旦顔を離した。暗がりでも刹那の視界にはグラハムの顔がしっかり見える。戸惑いと驚きの視線が刹那を射て、刹那にはグラハムの瞳に映る自分の必死な表情まで観てとることができた。金茶色の長い睫毛に覆われた緑色の球体は、ネコのように瞳孔を開かせて、直截な陽光の下よりも暗い。しかし潤んでいてずっと生き物の匂いを感じさせた。
 刹那は安心させようと僅かに口角に力を込めた。上手く笑えただろうか。多分、失敗だと思う。グラハムが眉を寄せて微妙な顔になったから。
 傷つけたくないのは本当だった。
 だが、傷つけない訳にはいかないと最初から分かっている。だから近付かないと決めていたのに触れてしまった。もう後戻りはできそうもない。油断すると暴走しそうな欲を抑えようと離れたが、するとグラハムの顔がいっぱいになってさらに欲が増した。どうしようもなくて、手のひらの中に彼の頭部を閉じ込めて、額を合わせて目を閉じて溜息を吐いた。触れるとグラハムの身体は確かに興奮を伝えていた。グラハムが口を開いた。
「凛々しいなぁ、少年。……その前に、シャワーを浴びていいだろうか?」
 嫌だという権利はない。だが手放しがたくて渋っていると、中々手放そうとしない刹那に焦れたのか、グラハムの方から軽く鼻頭に口づけてきた。その言葉が意味することに気付いて、思わず問うた。
「……本当に、いいのか?」
 するとグラハムは、もう一度今度は唇にキスして答えた。
「こんなことでガンダムのパイロットが手に入るならいくらでも」
 高ぶっていた全身からさあっと血の気が引いていく。結局、彼が追いかけているのはガンダムであって自分ではない。モビルスーツを降りてさえ、彼にとって自分はガンダムと一体であって、それゆえにグラハムにとって価値がある、それが自分の存在価値なのだと言われた気がした。グラハムにそう言われると何故だか酷く胸が痛んだ。先ほどとは違う痛みだ。心が引き裂かれるかと思うほど、根底から揺さぶられて打ちのめされる。そんなことは分かっていたはずだ。グラハムが執着するのは刹那ではない、ガンダムだ。だから彼がこうして拒まないのも刹那がガンダム・マイスターであるからだ。憎しみを欲情にすり替えているのだろう。歪んでいる、と思う。だがそうさせたのは刹那でありガンダムなのだ。
 刹那は歯を食いしばった。
「そうか」
 ならば自分も、好きにさせてもらう。刹那はグラハムを抱えあげると肩に担いだ。
「……なにをする?」
「シャワーを浴びたいんだろう」
「そうだが……待て、こっちは準備も……」
「俺がしてやる」
「断固辞退するっ」
 そういって暴れるが知ったことじゃない。どうせ傷つけるんだ、だったらとことん傷つけてもう二度と俺に近付けないようにする。
 バスルームのドアを開け、グラハムをバスタブに下ろした。

 はぁはぁと荒い息を突いて、グラハムは滑り込むようにバスタブに蹲った。嫌がって暴れたせいで、さっきまで滑らかだった背中は、引っ掻き傷と打身で赤くなっていた。シャワーコックを捻り湯を掛けて、石鹸の泡と汚れを全て洗い流してしまう。そうして身体を裏返して、ショックで視点が定まらない彼の頬を今度は優しく撫でた。酷いことをした。顔にシャワーは掛かっていないにもかかわらず、頬が僅かに濡れている。泣いたせいだ。これから先の行為のためには必要な作業だが、グラハムにとってはショックだったのだろう。途中、刹那が指を後ろに差し入れたあたりで泣いて嫌がった。自分で強要した行為の結果であるにも関わらず、泣き顔をみて心が痛む。そんな醜悪な偽善者の仮面のうちで、そんな初心な反応に喜んでいるのも確かだった。
 好きだ、という代わりにキスをする。舌を絡め合わせて、唾液を送り込むと、苦しいのか喉を仰け反らせて呻いた。それを無視して、今度は直接グラハムの欲望の印に指を絡めた。そこは力なく項垂れていた。残念だが仕方がない。大きな水滴が降り注ぐ中、再び唇を合わせる。何度目かも分からない口づけに次第に舌が痺れてくる。長いキスの間に、唾液が絡み合う音が妙にはっきり浮き上がって聞こえて、この行為の意味を忘れされてくれた。
 グラハムの皮膚は薄くて、爪でひっかけばすぐに傷ができそうで怖いと思った。グラハムの上体を起して向きを変えると、肩から胸、上腕と脇腹に掛けての無残な傷跡が顕わになって、刹那はその傷跡の中心部、形が分かりにくくなっている胸の突起に舌を這わせた。グラハムが息を飲むのを確認してから今度はもう少し強く抓った。ちゃんと感覚はあるらしい。今度は肩が引くりと震える。感じさせたくてもう片方の乳首も指で抓った。そうするとグラハムは顎を仰け反らせて短い悲鳴を吐いた。言葉では通じなくても、身体は正直だった。感じやすく思いのままに反応する身体に溺れていく。シャワーの温度に当てられてグラハムの匂いが強くなった気がする。両手で胸を弄りながら、同時に徐々に顔を下げて行く。腹筋の割れ目に舌を添わせて徐々に下降していくと、まったく日焼けしていない乳白色の肌の中に淡い金茶色の繁りが目に入った。そこに鼻を入れて、匂いを嗅いでみた。すこし汗に近いが異なる独特の匂いがする。次には舌で生え際を掻きわけたが、すぐにグラハムがいやだと首を振るので、顔を上げ耳を噛んでみた。耳たぶは他の皮膚より柔らかい。ふにゃりとした甘い菓子のようだと思った。
「拒まなかったのはアンタだ、グラハム・エーカー」
 もう遅い、こうなったらとことん後悔すればいい。そして二度と自分に関わらないように、憎めばいい。出来れば戦闘からもこのまま遠ざかってくれればいいが。しかし無理だろうな、と刹那は思った。
「何故、あの軍人に即答しなかった?」
 グラハムが息を乱しながらやっとの体で答えた。
「……カタギリは軍人ではない、科学者だ」
 はぐらかすな、と責めるとグラハムは首を振る。
「君には、関係ないことだ」
「関係ない訳があるか、アンタが躊躇するのは俺のせいだろう?」
 鋭い目で睨まれた。ぞくりと背筋に震えが走る。
「俺に負けて、エースのプライドを圧し折られた。そこから未だに立ち直れない」
「知った風な口をきくっ……!君に私の何が分かると」
 分からないさ、アンタの気持ちなんて。アンタも分からないのだろう?
 刹那はグラハムの太股に手を掛けた。そして一気に押し開く。するとゆるく立ち上がり始めたものが顕わになった。目が離せなくなる。そのまま刹那が先端に口づけると、頭上でグラハムが息を詰めた。舌を出して先端を含む。フェラチオをするのは始めてだったが、抵抗はなかった。同じ男のものなのに、人種が違うからだろうか、グラハムのものは色が薄くて綺麗だと思った。
 両足に力が籠り抵抗する力が強くなるが、さらに強い力で押し返し、なお深く迎え入れる。質量を増すそれに息苦しいが、吐き出さず口の中で舌を動かす。
「……放せっ、……ふぅ……」
 次第に短い嬌声に漏れ始め、気分が高揚してくる。夢中になってしゃぶりながら、今度は下の袋にも手を掛けた。先端から根元まで飲み込みながら、さらに休まずに攻め続けた。唇で竿をこすって、先端を舌で愛撫する。次第に溢れだす先走りに、口の中にグラハムの味が溢れて、零れた唾液が糸を引いて、淡い下生えに落ちた。
「くっ……ん、ぁあっ」
 ちゅくちゅくと濡れた音を立てながらしゃぶり続けた。グラハムの限界も近い。それでも刹那は離さない。
「……放してくれ……もぅ、ダメだっ」
 最後の言葉は掠れてほとんど聞き取れなかった。同時に咥内で熱が弾けた。



 終わりは呆気なく訪れた。重い液体が喉の奥まで達して、苦しい。が刹那はそれを飲み込んだ。
「そんなもの、吐き出したまえ」
 その様子を茫然とみるグラハムが手を伸ばす。その手を掴んで引き寄せる。
「もう全部飲んだ」
 グラハムはずるずると背中を浴槽に埋めながら、仰向いた顔を反対の手で覆ってしまった。刹那は手の甲に口づけを落としてから、手を持ち上げると手首の内側の柔らかい皮膚にも口づけた。強く吸うと赤い跡が残る。彼の裸の皮膚はどこも白くて跡が残りやすいのだろう。思いのほか簡単についたキスマークに気を良くしてさらに上へと進んでいく。肘の裏、上腕、脇の下。そこまで来てさすがにグラハムが嫌がった。
「……信じられない」
 僅かに震える声に、そうだな、と刹那は頷いた。グラハムのだと思うと、存外平気なもので自分でも驚いた。今度は脇腹へ舌を這わせる。自分の跡がない場所がないように、全身を舐めてやりたいと思った。しかし興奮して堅く張り詰めた自身がそれを許さなかった。
 まだ荒い息を零す口元に軽くキスを落とすと、今度は更に奥へと指を伸ばした。そこはかつて一度だけ繋がったことのある場所だ。その時の経験からいって、何か潤わすものがなければ傷つけてしまう。どうしたものか……おもむろに、刹那はその場所へと顔を寄せた。その意を察したのか、足を閉じようとするグラハムを許さず、太股をしっかりと固定してしまう。そして右足を肩に掛け、覗きこむようにしてそこへ顔を寄せる。これでもう隠すものはなくなった。根元から陰毛の茂みを超えてそのさらに奥、窄まった秘所に視線が吸い寄せられと、先ほど綺麗にしたそこは、赤い内部を僅かに晒しているが、まだ堅く窄まっていた。だが恐れずに指を入れる。同時に、唇からたっぷりと唾液を乗せた舌を差し入れた。
「駄目だ、そんなところ……汚い……」
 汚くなんかない、その証明にさらに奥まで舌を差し込む。狭くて熱い体内に、嫌が応でも興奮が増した。ココに入るのだ、自分が。ココに全部吐き出したい。欲望が際限なく高ぶって目眩がする。激しく舌を抜き差しするたび、頭上から、グラハムの短い悲鳴が聞こえてくる。
「……ひっ、やめ、てくれ……やぁ、ぁっ」
 辞めろと言われても止められない。舌と同時に人差し指も差し込んだ、そしてゆっくりと前後に動かしながら体内の感触を確かめる。熱くてきゅっと締めつけてくる。少し動くようになったので、今度は中指も入れた。同時に入り口を少し開いて、付け根まで挿入すると、中で指を曲げられる程度には解れてきた。もう少し、もう少し……刹那の熱も限界に近い。汗のせいで、背中に絡みつくグラハムの踵が滑る。
 もう我慢できなかった。
 ひっくり返して背中から挿入した。
「ひ、ぁあああっ」
 強い抵抗があったので一瞬怯むが、止められず、無理やり先端を押し入れると後はするりと進んだ。
「グラハムっ」
 熱い体内に押し入ると、思い描いたそれより遥かに強烈な快感が全身に走った。
 そのあとはもうぐちゃぐちゃだった。腰を掴んで、闇雲に突きあげて体内を犯しては出て行くを繰り返す。途中体勢を変えて、正面から抱きしめた。しかしバスタブは狭すぎて抱き合ったままだと動けない。状態を起してグラハムの腰を持ち上げると、折りたたむようにして打ちつけた。グラハムのものも限界まで立ち上がって再び先走りを零し始めている。もう駄目だ、と思った時、刹那は力いっぱい細い身体を抱き締めた。胸を合わせるとグラハムの鼓動を直に感じて、二人のリズムが重なった。全身くまなく彼の体温を感じて、そこでグラハムが果てた。さらに強く締め付けられて、刹那も耐え切れず爆発する。
 全てを中で吐き出して――漸くそれ以外の感覚が戻ってくる。
 いつのまにかシャワーは止まっていた。
 そのまま茫然と息を荒げる。二人の荒い息だけが狭い個室に籠る。刹那は逝った直後のグラハムを見下ろした。
 脚を広げたまま、グラハムは荒い呼吸を晒していた。上気した胸で肋骨が忙しなく上下動を繰り返す。その下で白い残滓が胸元の傷にまで飛び散っていた。さらに奥、刹那が全てを吐き出した場所は更に濃い白い液体に濡れて赤い穴が引くついているように見えた。刹那は人差し指をアナルに入れた。そして中で指を折り曲げて、先ほど出したばかりの精液を掻きだした。体内にあったせいか、それはまだ生温かかった。掻きだしたそれが纏わりつく指でグラハムの頬を撫でる。擦り付けるように強くこする。
 好きだといいそうになったので、キスをした。キスで己の口を塞いで、せめて聞こえなくても彼の体内に沁み入ればいいと思った。



 端末が午前0時を告げている。
 終わりが近付いている。
 日付が変わる頃にはこの部屋を出る。それはグラハムと出会う前から決めていたことだ。
 少し眠っていたらしい。目が覚めて、窓のブラインドを透かして漏れ込むネオンの薄明かりに、勿体無いことをした、と刹那は思った。
 日付けが変わって数十秒。
 刹那は横たわっていたベッドを見下ろした。 裸の脚の左側に感じる温もりを確認する。刹那が起きあがったせいで、シーツが捲れあがって裸の胸まで露わになってしまったのに気づいて、小さく舌打ちが零れた。
 目を覚ましてしまうかもしれない……
 昨日、抱き続けて、結局気絶するように眠り込んでしまったから、2時間程度しか睡眠をとっていない。グラハムの肩にシーツを掛けてやりながら、白い肌に無数に散らばる赤い花びらのような痕を確認し、さらに眉をひそめる。キスマークなんて可愛いものじゃない。擦り傷や咬み痕まである。無理をさせてしまった。
 刹那は、恐る恐るグラハムの髪に手を伸ばす。枕の上でくるりとはねている毛先に指先が触れたところで、グラハムの唇から小さな声が漏れたので、慌てて引っ込めた。
 起こしてはだめだ、と自分に言い聞かせる。
 無理をさせてしまったのは自分だ。彼の意識はいま泥のように重く沈んでいた。こんなに近くにいても、何も感じない。それだけ深く眠っているのだろう。刹那は罪悪感を感じると同時に、ほっと息をつけるような気がした。極力触れないように細心の注意を払って、グラハムの真横、正面に顔がくるように横たわる。刹那はじっとグラハムをみた。イノベーターになって感覚が鋭くなったせいか、暗闇でもはっきり見える。重なり合った睫の長さも判別できた。その下の皮膚が赤らんで晴れているのは、涙の跡だ。ずいぶん泣かせてしまったから。
 このまま、夜明けまでこうしていたいけれどそれは出来ない。
 目が覚めれば、刹那はこんな風に間近で彼の顔を眺めることなんてできないだろうから。それにあと一つやり残したことがある。
 砂丘のようなグラハムの背中、左肩の肩胛骨の内側に指をはわせた。そして跡も残さないキスを一つ落とした。グラハムの心臓は確かに脈打っている。いま刹那が触れているすぐ下に。彼の拍動を肌で感じて、刹那はもういいと思った。そして、小さな機械を取り出した。先端から強い電流が流れるスタンガンだ。刹那はそれを肌にグラハムの肩胛骨の下に置し当てた。そこにはすこし引きつったような跡が残っていて、僅かばかり不自然に盛り上がっている。そこに彼の脈拍を記録して送信するマイクロチップが入っているはずだった。敏感な刹那の指はその盛り上がりの下に他とは違う僅かに堅い感触を確かめることができた。刹那とグラハムを繋ぐ唯一の鎖だった機械だ。それも、いま刹那がスタンガンのスイッチを入れれば無に帰すのだ。高圧電流が小さなチップの回路を焼ききるだろう。そうすれば実質機械は消滅する。簡単なことだった。こうして触れ合っている今、すべては刹那の意志に委ねられている。機械を押し当てる右手が僅かに震えた。

「起きろ」

 刹那はグラハムの耳を隠す金色の髪を歯で噛んで掻き上げた。覚醒を促す呼びかけに、長い腕がシーツを張った。それを確認して耳元で囁く。
「……グランドキャニオンへ行きたいんだろう?」

++ continued...



2010.12.28