※一部に男性同士の露骨な生描写が見られます。18歳以下の方は閲覧しないで下さい。

『 福の神さんいらっしゃい 』

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「ならば、ご免」

 グラハムに膝の上に乗りあげられ、がっちりと固定されてしまうと、動け無いのを良いことに彼はスウェットを下着ごと膝まで下ろす。すると、覆いのなくなった刹那自身が勢い良く飛び出した。それを見て、グラハムが嬉しそうにニヤリと笑った。
「ほー、元気がいいな」
「違う、これは…」
 お前のせいでこうなったんじゃない。コレは単なる生理現象で、擦れば男なら誰だってこうなるものだ。それ以上でも以下でもない。そう内心言い訳しつつも、刹那は恥ずかしくて、顔が熱くなった。グラハムを振り払おうと脚をばたつかせるが、膝を押さえ込まれてしまったため適わない。
 ヒヤリと、太股に冷たい指先が触れ、内腿の敏感な肌に吐息が掛かってて鳥肌がたった。そちらを見ると、金色の長い睫毛越しに、深いエメラルドグリーンがコチラを窺っている。その獲物を狙うような鋭い視線に刹那はくぎ付けになった。まるで宝石のようだと思った。安っぽい室内灯の明かりを受けて、まるで宝石のように光っている。もしくは、木漏れ日を透かす若葉のように。どちらも刹那は生まれてこの方実際に見たことはないけれど、何故だか彼の瞳はそんな夢の中の綺麗なものを連想させた。このまま魅入っていられればいいのに。が次の言葉を聞いてやっぱり只の変態だと後悔した。
「なかなかの逸物」
 なんてことを言うのだ、あまりのギャップの激しさに抵抗しようと力んでいた上半身から力が抜けて、勢いよくベッドに後頭部をぶつけてしまった。黙っていれば可愛いのに…残念過ぎる。
 しかしグラハムはそんな刹那にお構いなく、刹那のナニを見て、薄い唇から赤い舌を覗かせ舌舐めずりをしてみせた。濡れたせいか魚の鱗のように滑って光り、赤さが増した唇が、美味しそうだ、と言った気がして怖気が走った。喰われる…!と身をすくませた時だった。フワリと空気をはらんだ金髪が股間に埋まる。
「……ッ」
 尖端に濡れた温かいものが触れた。最初は軽くつつく程度だったのが、次第に大胆になりザラザラとした全面で、アイスキャンディを舐めるみたいに下から上へと舐め上げる。
 最初は何が起こったのか理解できず、漸く舐められた、と分かった時には唇で一番先の尖った部分が割れ目に触れて、これまで経験したことがない強い快感に襲われ息を飲む。ぞわぞわと下半身から痺れが広がり、太股の筋肉が痙攣する。そんなところを舐められたのは始めてだった。他人の手で触られたことも無いのに…舐められて気持ちいいなんて信じられない。
 赤い唇がグチグチと音をたてながら上下するのに合わせて濡れた棹が出たり入ったりする。濡れた音の原因は相手の唾液か、それとも刹那のモノか。
 息を飲んで快感を耐えていると、不意にグラハムが顔を上げた。
「気持ちイイかい?」
 そう聞かれても答えられる訳もない。が、白い頬が鮮やかなピンク色に色づき、細い顎を唾液が伝う様は酷く嫌らしくて、更に熱が上がった。
 コレはマズイことだ。正体不明の男に部屋への侵入を許し、のみならず身体の自由まで奪われ、今の刹那はグラハムにされるがままだ。身体の一番敏感で弱い部分を握られて(文字通りに!)好きな様に快感を煽られる。今や刹那自身は限界まで硬く勃起して、タラタラと先走りを溢していた。ココまできたらあとはもう出してしまうほかない。
 ティエリアに知れたら、マイスター失格、と叱責されるに違いない。それほどの失態だ。まさしく、万死に値する。
 が一番問題なのは、自分がこの状況を楽しみ始めていることだ。
(本当に、容姿だけはいいんだよな)
 鮮やかな蜂蜜色の金髪に碧眼というだけで誰もが目を奪われるだろうが、その蜂蜜色の金髪を汗ばんだ浅黒い肌に張り付けて一心不乱にしゃぶりつく様はとても被虐心を煽られる光景だった。柔らかい口腔に尖端に擦るたび、強い快感が襲う。時々、喉の奥まで先端が届くのが苦しいのか、きつく眉を寄せて大きな緑色の瞳から零れそうなほど涙を浮かべられては、無理やりやられているのはこっちなのに…自分がいじめているような気分になって、胸が疼いた。
「…っ、やめろ…」
 そうこうするうちに、刹那も限界に来ていた。もう少しすればイケる…あと少し強く吸うか扱いてくれればイケるのだが…グラハムは相変わらず出し入れするだけで、柔らかい唇で擦る中途半端な刺激しかくれない。そんな生殺し状態に、刹那は我慢できず下から突き上げた。苦しげな呻き声にも構わず数度奥まで突きこんで、そしてついに、思い切り喉奥で欲望を解放した。
「…ん、んむっ…」
「す、すまないっ」
 グラハムが苦しげにえずくと、つうっと赤い唇から白い欲望の残滓が零れ落ち、真っ赤な服を汚した。
 信じられない、と茫然とする。男の口でイってしまった。しかも最後は自分からねだるように動いていた。サンタクロースの格好をして部屋に押し入る不審者を相手に、口でイってしまうなんて…それは確かにそういうことをヤッている最中ではあったが…それにしたってあまりに節操がない。こんなことではガンダムになれない、と酷く落ち込んでいるうちに、ショックのあまり言葉も無い刹那をよそに、グラハムは平然と言い放った。
「ふふふ、早かったな」
 その顔でそう言うセリフを吐くな、さっきのときめきを返せ、と全力で怒鳴りたかったが、出来なかった。唇を塞がれたからだ。
 さっきまで自分のを咥えていた口だと思うと、嫌悪感が湧いてくるが、しかしグラハムの舌はやっぱり温かくて優しく絡みついてくる。気づくと刹那も舌を絡めていた。それだけでなく、もっともっと深くへと、角度を変えて吸いついていた。気持ち良さに意識が朦朧とする。霞み懸ったようなふわふわとした心地に恍惚としながら、同時に恐怖も感じた。
 このまま流されてはいけない。刹那は必死に思い出そうとした。ガンダムのこと、目を吊り上げて怒るティエリアの顔、しかしそれもグラハムの手が再び下腹部に伸びて、起立に触れた途端霧散した。
 気づくと天井が見える。再び乗りかかられて、今度は足を持ち上げられた。股間が丸見え。自身とそのさらに奥まで丸見えになる体勢に震えが走った。
「少年、君は誠に美しい…滑らかな肌に、赤銅色の涼しげな瞳。まさに東洋の神秘、砂漠に浮かぶ蜃気楼のように儚げな唇、そして鋼のように逞しいこの起立…堪らん、堪らんよ、少年。私は我慢弱い男なのだ」
 このままではヤられる…今度こそ本当の恐怖に背筋が凍りつく。
「なに、心配いらない。最初は少し痛いかもしれないが、直に良くなる。さぁ、私の手の内でさらに美しく花開くがいいっ…!」
 だからその顔でそういうセリフを吐くなと、そう突っ込む間もなく、先ほどまで咥えられていた刹那自身のさらに奥、とても口に出せないといか自分でも見たことのない部分に細い指が触れた。
 ヤられる…このままでは間違いなく。恐怖が全身を覆った。まずい、本当にまずい。危機感で全身が強張った。つまりコレは戦争だ。だったら、
(ヤられる前にヤる。)
 腹を決めれば刹那は迷わなかった。ぐっと両腕と腹筋にに力を入れて、相手をひっくり返した。不意を突かれてきょどっているグラハムの腹に乗りあげた。



「え…なに…?」



 赤い上着を首元までたくし上げると、傷ひとつないミルク色の肌が現われ、刹那の視線をくぎ付けにする。血管が青く透けて見えるほど白く、薄い皮膚は爪で破けてしまいそうだ。そっと手のひらで触れると吸いつくように温もりを返す。そのまま見上げるようにして表情を窺うと、グラハムは目を閉じて耐えるような顔をしていた。嫌なのかと思うとチクリと僅かに胸が痛むが、しかし手を動かすと唇は淫らにほころび、顔を真っ赤にして小さな声を漏らす。撫でられて感じているのだろうか。刹那はそこに色づく赤い果実を舐めあげた。
「ひっ…やぁっ」
 途端に上がった高い声に、現金な自身は再び硬度を増した。これならいける。自信を持った刹那は更に強く吸いついた。
「ふぁ…だ、ダメ、だ…少年」
 今度は右手で、グラハムの下半身をまさぐる。目測で伸ばした指先が、柔らかな下ばえに触れた。湿って指に纏わりつくのを掻きわけてその先へと指を伸ばす。既にそこは熱く立ち上がって、先走りに濡れていた。

「欲しいモノをくれると言ったな」

「ちょっと待ちたまえ、それははダメだっ、ダメだと言った」

「だったら、アンタをもらう」

 刹那は先ほどグラハムが触れた場所、最も奥まったすぼまりに先走りで濡れた指を宛がう。堅くしまっているが、薬指に力を入れると濡れていたせいか思っていたより抵抗なく入った。これならいける。もともとそういうものなのか、それともグラハムが特別なのか他に比べる経験のない刹那には分からない。しかし入るなら好都合だ。ゆっくりと抜き差ししながら指を増やしていくと、入口がきゅうきゅうと締め付けて、温かくてきつくて堪らない。早く、早く、身体が急かすまでに、グラハムの両足を抱え上げ、熱く滾った自身を宛がった。
「ぁあああっ、ああ、ひぁ」
 そして一気に挿入する。
 熱に浮かされ、夢中で腰を動かしていると、グラハムが高い声で鳴いた。顔では涙と唾液をボロボロこぼし、全身をピンク色に染め上げた様はとても淫らで、それでいて強く抱きしめたくなる。最初は自分の快楽だけを追っていた刹那だが、いつしか彼を気持ちよくしたいと思うようになった。だから一際高い声を上げる場所を集中して突き上げる。彼の一挙手一投足、喘ぎ声、仕草全てに神経を傾けた。そうしていると任務とか世界とか戦争とか、そういうことから遥か遠く離れた世界へ流されていくみたいで、こんなワンルームマンションの一室の、ベッドの上の温かい布団の上が、それこそ世界の全てのような。卑小なスケールに縮んでいく。縮んでいくことで細胞の一つ一つまでリアルに感じられるような、繊細に鋭敏に感覚が全てになって、目の前がちかちかと白く輝いた。いつの間にか帽子が落ちて自由になった金髪がシーツの波に広がって、白く輝いた世界の中、真っ赤な服を着た鮮やかな金髪の男は、白い光を纏った天使のようにだと思った。

「何故、俺のところに来たんだ?」
 神など決して信じない、綺麗な願い事も欲しいモノも何もないのに。するとグラハムは一瞬だけ不思議そうに瞬いてからにこりと笑う。
「…君が欲しいモノないと思い込んでいたからっ……」
 そして鼻の頭にキスが降る。
「私は、そんな子供のほうが、気になるのだよ…」
 予想外に優しいキスだった。もう黙れ、そういうと、今度は刹那から唇にキスをして、少し喋り過ぎな口を黙らせた。刹那はつくづく思った、彼は黙っている方がいい。

 その後、調子に乗って抜かずに二回、最後は二人とも気絶するように眠りに落ちた。ぼんやりとした意識の中で、携帯にメールの着信があって、後で確認したら時刻は午前2時を過ぎており、ロックオンからの"あけましておめでとう"メールだった。つまりは繋がったままで年を越したということになる。なんというか、数時間前までは予想だにしなかった展開に正直頭と身体がついてこないが、それはまぁ良しとする。気持ち良かったし、どのみち鬱々とした倦怠感に落ち込んでいたところだ。結果的には救われたと言ってもいいのかもしれない。しかし。
 翌日、腰が痛くて動けないというのでベッドを貸してやった。原因のほぼ八割くらいは自分にあると自覚している(でも残りはグラハムのせいだと思う。隣に聞こえるのではないかと心配になるくらい派手に喘いでいたし、最後には自分から動いていたのだから)、それについては猛省した。気づけば昼になり、前日に沙慈から貰ったそばを二人で食べた。そして腹が満たされて気持ち良くなったところで、もう一度抱き合った。一度やってしまえば、二度も三度も同じこと、抵抗感も薄らいだ。
 がしかし。
 ココまで許した覚えはないぞ…刹那は目の前の光景に軽い目眩と強い憤りを感じていた。

「さぁ、いい加減に起きたまえ、駅伝が始まってしまうぞ」
 ゆさゆさと布団ごと揺さぶられて、刹那はしぶしぶと目を開く。カーテンは全開で部屋には明るい朝の陽射しがさんさんと振り込んでいた。爽やかな朝。対照的に身体は重い。もっと寝ていたくて、頭まで布団に潜り込もうとするが、今度は布団ごとはぎ取られた。温く温かな暗闇はなくなり、暴力的なまでに朝日が目に飛び込んでくる。
「…なんで、お前が…まだいるんだ?」
「サンタクロースだって正月休みくらいあるのだ」
「だからって、何でここにいるんだ??それに、それは俺の服だ」
 すると愚問だ、とグラハムが笑った。
 思わず見ほれるほどいい笑顔で、刹那は半ば布団に埋もれたままで目を細める。
「休日にまで仕事の制服とは無粋極まる」
「アレは制服だったのか…しかし、仕事に行かなくていいのか?」
「クリスマスは終わった!来年の12月まで休養期間だ!」
 とその時、ピンポーンとチャイムが鳴った。刹那とて布団から出たくないのにはわけがある。それは服を着ていないからだ。このままでは出られない、着替えるかそれとも無視するか…迷っているうちにグラハムが動いた。
「待てっ」
 出るな、と叫んだがもう遅い。既に玄関へ駈け出したところで、刹那の静止も無視してドアを開けてしまった。正月三箇日に此処に来るような人間は一人くらいしか思い当たらない。その唯一の心当たり、沙慈にどう説明すれば不自然でないのか、考えてみるがいくら考えても不自然な説明しか浮かばなくて…思いついてから動こう…そう腹をくくって、ゆっくりと支度を整えていると、グラハムが声をかけた。

「刹那、お隣さんがお節のおすそ分けに来てくれたぞ!」
 シャツを着てから、ついでに昨日のシャツを洗濯しようと思いついて、脱ぎ散らかしたものを片付けると、ふと奇妙なことに気がついた。ズボンはあるが…シャツがない。そういえば…グラハムの格好を思い出し、ガタン、と慌てて服を着た刹那が飛び出した。すると思った通りだ、最悪な展開に目眩がした。
「刹那…」
「最低」
 顔を真っ赤にした沙慈と、汚いモノでも見る目で睨みつけられて振り返る。そこには刹那の上着だけを羽織ったグラハムがいた。当然彼の方が背が高いから刹那の服では小さくて。前は全開だし、下半身は太股の付け根まで剥き出しだ。白い肌にはところどころ赤い跡が、外光に赤く浮きだしている。
「…っお前、なんで下履いてないんだ?!」
「少年のが小さくて入らなかったのだ、心配無用下着は履いている」
「そういう問題じゃないっ」
「と、とりあえずお節置いていくよ。容器は返さなくていいから。あと、その…これはちょっと僕が口を出すことじゃないと思うんだけど…」
 バスルームは止めた方がいいんじゃないかな、声が響くし、その沙慈のセリフに血の気がさっと引いてた。
「き、聞こえていたのか?」
 その問いに、ルイスは無言の一瞥を、沙慈は曖昧な笑みだけを残して、そして二人は立ち去った。三人が会話を交わしている間中、グラハムはお節の入った容器を嬉しそうに掲げて、これが漆塗りか、とため息をついている。その横で刹那は思わず頭を抱えて蹲っていた。なんだって、新年早々こんな理不尽な苦境に立たされなければならないのか。出来ることなら沙慈のことを追い掛けて、全部誤解だ間違いだ、自分とこの変態は何の関係もない。ただの通りすがりにたかられただけだから、全部こいつが勝手にやったことなのだと、真実を伝えたい。だが同時にヤることをヤっているのも事実だし…沙慈はともかく、あのルイス・ハレヴィがその辺を聞き逃すとは思えない。そんなことまで説明しなければならないとしたら、それこそもう二度とガンダムに乗れない…それくらいこの状況は刹那にはハードルが高すぎる。
 コレも全部、一週間遅れでやって来た変なサンタクロースのせいだ。可愛さ余って憎さ百倍、憎しみをこめて睨みつけるも、当のグラハムは、
「さぁ、刹那。お節を食べて駅伝を観ようではないか!」
 無駄にいい笑顔で、早く早くと急かしてくる。

全く無邪気なものだ。こいつがサンタクロースなんて、子供のためにプレゼントを運ぶ本人がよっぽど子供っぽいではないか、そう考えた時、はたと気づいた。いつの間にか自分はこの男に馴染んでいた、受け入れ始めていたらしい。
 変な男だ。
 だが嫌ではない。
 刹那は自分の中に生れ始めた新しい感情に戸惑いつつ、抗いがたく感じていた。


「初売りでこたつでも買おうか」


 日本の正月は、少し怠惰だが、温かい。

+end+



2010.1.5