『新しいひかり、それは金色の泣きたくなるほど温かいひかり』



 そっと起き上がる。
 裸の肩から滑り落ちたシーツの音が耳にかかるほど、今ニールを取り巻く空間は静かで平穏だった。左手に触れた熱源を見下ろすと、白いシーツから零れだす金色にニールは目を細めた。白み始めた早朝の柔らかな光に照らし出されたグラハムは寝息をたてたまま、目を醒ます気配はない。その寝顔の健やかさに、思わず笑みが浮かぶ。微かに赤みを掃いた滑らかな頬に金色の長い睫毛が影を落とす。滑らかなだが、決して柔らかいだけではない肌は日に焼けていて、こうして目を閉じて強烈な自我と強い石の具現化たるあの常葉色の瞳を隠しているだけで、実年齢より随分幼く見えた。まったくこんな顔して、自分より年上でなおかつ泣く子も黙るユニオンのエースパイロットというのだから…世も末だ。しかし子供っぽい顔から少し目を下げると目に入ってきた首筋に綺麗に浮かび上がる骨格、その傍らに赤い噛み跡を見つけて、途端に恥ずかしさが込み上げた。
 昨夜…といってもほんの数時間前だが…堪らなくなって無意識に噛みついてしまった。加減する余裕もなくて、でもまさかこんなに濃く痕が残るなんて、悪いことをした。それにしても、(ちったぁ、痛そうな顔しろよ)ニールは内心で呟いた。俺はもう快感で訳わかんなくなってんだから、お前が教えてくれなきゃ分からないだろう。それでも、あの瞬間、グラハムも痛みを忘れるほど夢中だったのかと思えば、申し訳なく思う反面、嬉しくもある。



新しい年をアンタと迎えられて良かった。

それは疑いようの無い本心だった。

こうして一つづつ新しい日々を、願わくば、また君と迎えられますように。

これは俺の一番の願いだ。

だが同時に、それが叶う可能性のとても少ない願いだということも分かっていた。

そしてニールはグラハムの頬にキスをした。

その時、
「…何故、泣く?」
金色の睫が震えて、常葉色の瞳があらわになった。それはまだ半分眠っているのだろうか、目覚めている時の強い輝きはないけれど、代わりに僅かに潤んで堪らない甘さを湛えてニールを見つめた。
優しく涙を拭われて、ニールはその手に頬を擦り付けた。

「一年で一番新しい朝に、何を泣くことがある」

ニールはどう答えていいか迷ったが、真っ直ぐに射抜かれて、息を飲んだ。
「何を特別に思うことがある。来年もその次も、これから君はいつも私の隣で新しい年を迎えることになるのに?」
思いがけなく自分の考えを見透かすように反対の言葉を宣言されて、ニールは目を瞠った。コイツは時々ありえないほど鋭い。それも大抵隠しておきたい時だからたちが悪い。
「…お前な…来年なんて何の保証もないだろう」
それこそ二人が生きているかどうかも分からない…世界中を敵に回した施設武装組織のパイロットと、世界の警察を自負するユニオンのエース、互いに戦場に身を置く者として、どちらかが死んでいる可能性も低からずあるのだから。それどころか、こうして共に過ごすこと自体がありえないことで…ひょっとしたらこれが最後になるかもしれない。そう思うからこそニールは今この時が代えがたいほど大切に思える。
だから多分、この涙は嬉し涙だ。
「ニール」
名を呼ばれて俯くと、唐突に腕をつかまれて強く引かれた。全く予想していなかったニールはそのまま体勢を崩して、気付いたらその逞しい胸に抱きこまれていた。
「君のその奥ゆかしさが私はとても愛しい。だが同時にとても歯がゆくもあるのだよ。強く願い続ければきっと願いは叶うと、私は信じている。だが、願わなければそれは単なる願望で終ってしまうのだ。だから、願い続けれなければならない。だから、私は欲しいものには常に貪欲にあろうと決めているんだよ、欲しがらなければ何も手には入らないから」

触れるほど近くでそんなことを言われて…ニールは顔が熱くなるのを抑えられない。

「君にはもっと欲しがってほしい」
この噛み跡のように、そうグラハムは笑った。


恥ずかしさが頂点に達して、ニールはそれ以上何も言わせないために、グラハムの唇をキスで塞いだ。



A happy new year!!

今年もまたよい年でありますように。



2009.01.02

2009年もよろしくお願いいたします。