三成の冷たい唇が触れる。
そのままねじ込まれた舌は、歯列をなぞり、俺の舌を吸い上げる。

(体は冷たいのに、中はこんなに熱いのか……)

頬を染めた三成が切ない顔をしながら、俺を蹂躙していく。
頭の奥が痺れるような感覚に眩暈がする。
三成が触れたところから体中に痺れが広がって、
頭の中はぐちゃぐちゃになり、反射のように体は興奮していく。

(ああ、嫌だ、嫌だよ三成…。やめてくれよ、三成……)

(気持ちいい、もっと、もっと三成に触れたい……)

(だめだ、俺はきたないんだ……。三成までよごれてしまう……)

まとまらない思考が涙に変わり、ぼろぼろと目の端からこぼれていく。
喉が焼けつくように熱く、時折りヒュウと空気の通る音がする。

嬉しい、気持ちいい、幸せ。
悲しい、嫌だ、ごめんなさい。

もう何を伝えればいいのかも分からなくなる。
このまま快楽に身を任せて飲み込まれてしまいたい。

俺の上にまたがって、唇をむさぼる三成はやはり美しかった。

「はっ……、こたろ………」

開いた口から覗く舌から俺の唇へと銀の糸が繋がっている。
泣いたせいか三成の目元が赤く染まっている。

嫌だと頭で思うのに、そんな三成を見るだけで浅ましくも俺は男なのだと思い知る。

(俺は人じゃないのに、体は人と変わらない……)

(俺がされてきた”きたない”ことを、俺は三成にするんだろうか?)

(それとも三成が”きたない”ことをするんだろうか?)

(でも、三成はきたなくない。三成は、きれいだ……)

俺の上にまたがっている三成にも、俺の体の反応が伝わっているかと思うと、
もうそれだけでいっそ死んでしまいたい気分になる。
何もかも投げ捨て逃げ出してしまいたくなるが、
それで取り残された三成を思うと体は鉛のように重く、動くことはなかった。

「好きだ、小太郎………」

俺の手を取り、そのまま三成の頬へと手が添えられる。
俺の手のひらに頬をすり寄せ、愛おしげに唇を寄せる三成が可愛くて仕方がない。

この沸き立つ激情のままに三成を押し倒してしまいたい。
俺の汚い心も体も、三成だけで埋めてしまいたい。
俺の全部が三成だけのものになればいいのに。

(でも、だめだ。俺は、よごれているから……)

俯き、首を横に振って拒否の意を示す。
それでも三成の手が俺の手を放してくれることはなかった。

(ああ、それが嬉しいなんて、俺は何て愚かしい馬鹿だろう……)

三成が俺の指を口に含む。
指の一本いっぽんを舌でなぞり、愛撫される。
熱い舌が指に絡まり、吸われ、甘噛みされる。

口を離した三成が一つ息を吐き、真っ直ぐに俺を見る。

「私に触れろ。命令だ」

怒っているような、泣くのを堪えるような顔で三成が命じる。
それにぶんぶんと首を振り、その度に俺の涙が飛び散った。

「っ……、頼む、小太郎。私に触れろ………」

私を、小太郎のものにしてくれ……

耳元でささやかれたその言葉に、唇を噛みしめる。
二、三度首を振り、添えられてある三成の指をぎゅうと握りしめる。

『…………三成、好きだよ』

真っ直ぐに三成の目を見て口を動かす。
視界が歪んだままだから、きっと俺はまだ泣いているのだろう。
それでも、俺の言葉に三成が安堵したように泣き笑いになるのが見えた。

指先で三成の頬をなぞり、髪に触れる。
細く、銀に輝くその髪を撫で、三成に口付ける。
触れるだけのそれを繰り返し、ゆっくりと舌を差し入れていく。
慣れていないのか、ぎこちなく舌を絡ませる三成が愛おしい。
口付けはそのままに、空いている左手で着流し越しに三成の肢体をなぞっていく。
三成は俺の手が触れる度に体をビクつかせ、息を止める。
三成の反応全てが可愛くて、愛しくて、優しくしたいと思う。

(俺はきたない……。体だけじゃない、心も、こんなに汚くて醜い生き物なんだ……)

理性も自制も、三成のたった一言で崩れ去るような弱い俺だ。
泣きながら嫌だと思っていても、触れる指を止めることも出来ない俺だ。
こんな汚い体で、三成に触れてしまっている下劣な男だ。

(俺は本当に、三成を汚したくないのに………)

その想いは嘘じゃないのに、
三成に触れたいという欲求も本当で、
相反する意思と心が自分自身でも手におえない。

(三成、好きだ…。もっと三成に触れたいんだよ………)

三成の肩口に額を付けて息を吐く。
そのまま三成の腰に腕を回し、その細い体を抱き締める。

「小太郎、愛している……」

俺の頭を抱き締める三成の鼓動が聞こえる。
ドクドクと早い鼓動が、自分のものなのか三成のものなのか分からなくなる。
それが心地良いと思う自分に驚く。

『俺も、三成を愛してるよ』

額と額を重ね合わせて笑い合う。
抱き締め合う腕の力が自然と強まった。

『三成が、何よりも大切だよ』

「………小太郎、泣くな」

俺の目の端をこぼれていく涙を三成が舐めとる。
次々とこぼれていく涙は、全て三成の口内に消えた。

『三成………俺は、汚いんだ……』

「小太郎は汚くなどない。
それでも汚れていると思うのならば、思う様に私を汚せばいい」

『嫌だ。三成を汚したくなんかないよ』

「汚れていようといまいと関係ない。
………私は、小太郎が欲しい。それだけだ」

(三成は、綺麗で強くて、ひどい人だ……)

三成の口を自分の口で塞ぎ、そのまま三成を押し倒す。
手早く帯をほどき、はだけた胸元から手を差し入れる。

首筋を、鎖骨をなぞり、胸の飾りをゆるく触る。
それだけで体を震わせ、息を詰める三成に口元だけで笑ってやる。

怯えたような、困ったような顔の三成の耳を口に含む。
耳の形をなぞるように舌を這わせ、耳の穴をぐちゅりと舐め上げる。
震える息を吐きだし、俺の着流しをきつく握る三成を抱き締め、
無防備なその肢体を確かめるように何度も何度も愛撫する。

胸の飾りを舌で転がせば控えめな甘い声を上げる。
浮いた肋骨を触ればすすり泣くように息を詰める。
美しく割れた腹を撫で、舐め上げれば体を震わせる。

下帯を取り払い、雄々しくそそり立つ三成自身に舌を這わせれば、
三成は荒い息を吐き、ぎゅうと目を閉じて快感に身をゆだねる。

先走りでぬらつく三成の雄を丹念に舌で愛撫する。
鈴口に舌を差し入れ、裏筋を舐め上げ、口をすぼめて軽くしごく。

「こっ、こたろ………」

熱に蕩けた顔で、三成が俺に手を伸ばす。
その手を掴みせがまれるままに口付けを交わす。
何度も舌を絡ませ、互いに荒い息を吐き合い、また舌を絡める。

「───小太郎が、欲しい」

真っ直ぐに目を合わせて、泣き出しそうな三成が言う。

目の前が真っ赤に染まったような気がした。



「ッ、ぁっ、ぅあッ!」

俺の律動に合わせて声を漏らす三成の額に口付けを落とす。
初めて男を受け入れる三成のそこは、
入念にほぐしたにもかかわらず生娘のように血を流している。

「んッ、こ、たろっ、ああッ」

涙をにじませ、三成が何度も俺の名を呼ぶ。
嬉しいと、死んでもいいと言って笑う。

「アッ、こたろっ、好き、だ……」

(俺も、三成がすごくすごく好きだよ)

「ッ!あ、アアッ!出る、ッ……!!」

こたろ、小太郎、と泣きながら三成が性を放つ。
それと同時にぎゅうと締った三成の中へと、俺も性を放った。

”きたない”ことをしたというのに、三成は綺麗なままだ。
俺のきたないすらも飲み込んで、一番一番綺麗なままだ。

(三成はなんて美しい生き物だろうか………)

俺の真っ黒なきたないまで塗り替えてしまう、無敵の白。

荒い息を吐く三成の頬へ俺の涙が落ちるのを見ていた。



事後処理をして、笑い合い、二言三言言葉を交わした。
何を言ったのかは覚えていない。
ただ、三成が笑っていたからそれでいいのだと思う。

静かな寝息を立てる三成の横から抜け出し、一人あてどもなくふらふらと歩く。
大きな月の浮かぶ小さな池のほとりに座り、水面に映る自分の顔をぼんやりと眺めた。

泣き腫らした赤い目元。
苦しげに歪んだ顔。

(きたない……)

綺麗な綺麗な三成に触れても、俺はずっと汚いままだ。
汚い汚い俺が触れても、三成の美しさは変わらなかった。

(ああ、でも、俺は………)

触れてしまった。美しい三成に。汚い俺が触れてしまった。

(よごしてしまった。よごしてしまったんだ……)

清廉なままの三成。
美しい刃のような三成。

ぽたり、ぽたりと落ちた涙が水面を揺らしていく。
ぐしゃりと歪んだ俺の顔は、ひどく醜い。

(三成、三成、俺はきたないんだ………)

救いようもないほどに。
もう綺麗だった頃を忘れてしまうほどに。

(どうしようもなく、きたないんだ……)

声のない声を震わせ、吠えた。
懺悔の祈りを、後悔の呪詛を吐いた。

(よごしたくなんかなかった……)

笑っていて欲しかった。
ずっとずっと、綺麗なままでいて欲しかった。

(俺は、三成が好きだよ………)






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