好 き











大切な人によく似ていた

最初の理由はそれだけだった



「雲雀さん、お茶飲みませんか?」

「…暇なの?」

ため息を吐く姿にももう慣れたものだ

時間が出来る度に、用事も無いのに足を運んだ
不機嫌だった顔も今ではただのあきれ顔に変わった

「いえ、雲雀さんと休憩しようと思って」

「僕は暇じゃないんだけど」

そう言いながらも書類を書く手を止めてくれる

忙しいんだ、と言う雲雀さんに、じゃあ暇になるまで待ってます、と言って二時間粘った甲斐があるというものだ
あの時はイライラする雲雀さんに咬み殺されるかと思った

「今日はどら焼きを持って来ました」

「…緑茶を淹れてくるよ」

雲雀さんの淹れてくれるお茶はとても美味しい
前にそれを褒めた時に当たり前だよ、と言われてからは心の中で思うだけにしているけれど

「それ飲み終わったらさっさと帰ってくれる」

「はい」

熱い湯呑みを抱えて返事をする
まぁ、いつもの事


サラサラと揺れる黒髪
伏せられた瞳

黙っていれば見惚れてしまう程格好いいのに、勿体無いと思う

「雲雀さんは綺麗ですね」

思ったままにそう言って笑えば、またため息を吐かれた

「…褒め言葉のつもりなら、間違ってるよ」

「そう思ったから言っただけです。気に障ったなら、ごめんなさい」

「別に。ただ、男相手に綺麗って言うのはあまり褒められた気はしないからね」

「でも、雲雀さんは綺麗ですよ」

「ふぅん」

興味無い、とでも言いたげにお茶を飲む姿はやはり綺麗だと思う

「雲雀さんと居ると落ち着きます」

「僕が師匠に似てるんだっけ?」

本当によく似ていた
懐かしい気持ちになる

でも、それだけでこんなにも会いたいと思ったりはしない

「そうですね。それだけじゃありませんけど」

「…前から思ってたけど、君は変わってるね」

「…褒め言葉のつもりなら、間違ってますよ?」

「間違って無いよ。褒めて無いからね」

意地悪く笑う雲雀さんにため息を吐いた

湯気を立てる湯呑みに口をつける
まろやかな甘みと微かな苦みに安心する

こんなに戦うのが好きな人が、こんなにも優しい味のお茶を淹れることが出来ることにいつも驚く

「私、雲雀さんが好きだから会いに来てるんです」

「知ってるよ」

いつもと変わらないテンション

昨日、夕飯の話をした時みたいだなぁと思った
今日の夕飯は焼き魚ですよ。
知ってるよ。

「…恋愛感情としての好きですよ」

「知ってるよ。僕はそこまで馬鹿でも鈍感でもないからね」

何でもないことのようにサラッと言われてしまった
別に、今日こそは伝えよう!とか思っていた訳では無いけれど、あまりにもフラットだ

「確かに、鈍い雲雀さんて想像出来ませんね。想像でもちょっと笑えます」

「…他に言うこと無かったの?君は案外失礼だよね」

不機嫌そうに眉をしかめる雲雀さんに睨まれる
でも、実際笑える姿しか想像出来なかったのだからどうしようも無い

「すいません」

「別にいいけどね」

何事も無かったかのように二人でまったりとお茶を飲む

静かに流れる時間は好きだ
好きな人と一緒だともっと嬉しい
好きな人もそんな時間が好きだともっともっと嬉しい

「雲雀さん」

「何?」

「明日もお茶しに来ていいですか?」

「そこは会いに来ていいとか言えないの?」

あきれたようにため息を吐かれる
今日だけでもう三回目だ
きっと今までの分を数えたらすごい数になるんだろう

「じゃあ、明日も会いに来ていいですか?」

「…馬鹿にしてるの?」

「まさか」

「…君のそういうとこにはもう慣れたけどね」

雲雀さんとの会話は楽しい
たまに咬み殺されそうな発言をすることも
沢田さんにそう言ったら青ざめた顔で心配されてしまったけれど

「明日は何がいいですか?」

「…豆大福」

何だかんだ言いながら来る事を許してくれる雲雀さんは優しい
分かりにくい優しさかもしれないけれど、私はそれを知っている

「それじゃ、お邪魔しました」

「ねぇ」

扉に手をかけた所で呼び止められる

「返事は聞かなくていいの?」

振り向けば不敵に笑う雲雀さんと目が合った

「はい。雲雀さんが嫌いな相手と毎日お茶を飲んでくれる訳ありませんから」

にっこり笑ってそう言えば、楽しそうに笑われる

「やっぱり君は変わってるね」

「だからそれは褒め言葉じゃありませんて」

「褒めて無いからいいんだよ」

雲雀さんのこんな顔、強い相手と向き合った時しか見たことが無い

もっと穏やかに笑う所も見てみたいけれど、それはまた今度のお楽しみだ

あんなに楽しそうに笑ってくれただけでも珍しいのだから

「また明日、雲雀さん」

「好きだよ、イーピン」

だからなんでこんなにフラットなんだろう
マイペースにも程がある

「知ってます」

せめてもの仕返しとばかりに同じように返してみた
変わらず楽しそうに笑う雲雀さんには勝てる気がしない

扉を閉めればとても静かだ
いつもと変わらない昼下がりみたいに



明日の為に美味しい豆大福の売ってるお店を探してみよう

そう考えるだけで頬が弛んだ






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