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いつもいつも傷だらけで
それでも着いて行く後姿が悲しかった
手に入ることは有り得無いのだと突きつけられているようで苦しかった
振り返ることは無いのだと知ってから、対等になれるようにと努力した
僅かにでも視界に入れる存在であろうとした
「何て言うか、いつ見ても傷だらけだな」
「…うるせぇぞぉ」
不機嫌そうに横を向く
そんな姿さえ愛おしいと思った
光を浴びてキラキラと輝く銀髪
透けるように白い肌
その中にある歪な赤
「…綺麗だ」
殴られでもしたのか、赤黒く変色した目元
「スクアーロは、綺麗だな」
「頭でも湧いたかぁ?」
気色悪いと吐き捨てる言葉も、嫌そうに細められた瞳も
「酷い言われようだなぁ」
俺に向けられている
今は、俺だけのものだ
「でも、本当に綺麗だと思ったんだ」
そう笑って見せれば馬鹿にしたように笑う
「そんなんだからテメェはいつまでたってもへなちょこのままなんだぁ」
「これでもいちファミリーのボスだぜ?」
「ハッ、部下がいなけりゃへなちょこのままだろぉがよぉ」
背を向けて歩き出すスクアーロの背中を見つめる
真っ直ぐに背筋の伸びた、迷いの無い背中
俺が正真正銘のへなちょこだった頃から何も変わらない背中
己の目標と信念の為に、前を向き続ける強さ
「う゛お゛お゛ぉい!何してんだぁ、さっさと行くぞぉ!」
あきれたように振り返り、掛けられる言葉
「っ、おう!」
振り向いて貰えると思わなかった
追いつくまで、先に行ってしまうと思っていた
剣帝を倒しに行くと息巻いていたあの日のように
ザンザスに従うと言ったあの日のように
あの時とは、取り巻く環境も、立場も変わってしまったけれど、変わらないスクアーロは行ってしまうと思っていた
「置いてくぞぉ、へなちょこぉ!」
俯いて見送るだけだった自分
何も言えなかった自分
「待ってくれよ、スクアーロ!」
隣を歩けるようになるなんてあの頃は考えもしなかった
少し後ろを付いて行く俺を苛立った顔で見ていた
「腹減ってんだぁ、行くぞぉ」
「あぁ」
楽しそうに笑うスクアーロが好きだ
傲慢にでも、不敵にでもない笑顔
たまにしか見せてはくれないけれど
「えーと、確か店はあっちの方?」
「…俺に聞くなぁぁ」
うんざりしたようにため息を吐かれる
「多分あっちだ」
「へなちょこがぁ、テメェの勘は当てになんねぇんだよ」
「大丈夫だって!」
「久々のオフだってのに先が思いやられるぜぇ」
今日が終わればまたザンザスの元へ帰ってしまう
またお互いに忙しい日々が続くのだろう
それでも、来てくれた
忙しくても、傷だらけでも、来てくれた
それが嬉しい
嬉しいんだ
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