ひとりじゃない











温かい布団の中で長曽我部に抱き寄せられ、
愛おしむように髪を梳かれる

温かく大きな手が優しく髪に触れるのが心地良く
目を細め、長曽我部の厚い胸板に顔を埋めた

「三成は可愛いなぁ」

くつくつと笑う声が降ってきて、抱き寄せる腕に一層力が込められる
息苦しさを感じるが決して嫌だとは思わない
むしろ愛しさが募り、頬が弛んでしまう

「…酔狂だな」

「ただの事実だ」

肌に寄せられる唇と感じる熱に安堵する
必要とされているのだと、同じ感情を共有出来ているのだと思える
それがひどく心地良い

「長曽我部、もっと触れ」

「やけに積極的だな
…嫌いじゃねぇぜ、そんなあんたもよぉ」

楽しそうに笑う長曽我部のぎらりと光る瞳に射抜かれる

太い首に腕を回し引き寄せれば、
噛み付くような口付けが息をつく間も無いほどに何度も何度も繰り返される

「んっ、ふっ…」

「ったく、いつまで経っても慣れねェなぁ」

酸欠で朦朧としながら優しく微笑む長曽我部を見つめた

「…ここらにしとくか、明日は早ぇしな」

「…ああ」

明日、と口にした時に見えた憎しみと悲しみ

長曽我部の腕に頭を乗せ、温かな胸に額をつける
確かな鼓動と体温を、逃がさないように抱きしめた

「…家康を殺すのは私だ」

何も答えることは無く、長曽我部が強く強く抱きしめてくる
静かに漏らされた震えるため息に、無性に胸が苦しくなった

「死ぬなよ、三成」

答えられる言葉が無いから、返事をすることは出来なかった
ただ、長曽我部を抱きしめる力を強めることしか出来なかった

きつく抱き合い、違う温度を感じた
違う悲しみを抱え、違うことを思っている

それでも、家康を憎む瞳は私と同等のものだ

心から許しがたいと思う者の瞳だ

長曽我部の人柄は家康に似ている
家康が熱く燃える太陽ならば、長曽我部は温かな陽光だ
誰かと共に笑い、泣き、怒ることの出来る者だ
だが、家康の光がこの身を焦がし焼き尽くすものであるのに対し
長曽我部の光は温かく包み込んでくれる

許されているような、そんな気がする

目的は違えど集った仲間
形部は不幸を降らすため
真田は武田信玄のため
毛利は中国のため

それでも、家康を討つという目的は変わらない

ただ、長曽我部だけが同じ憎しみを持っていてくれて良かったと思った

家康を憎むのが私だけではなくて、良かった

長曽我部の体温に身をゆだね目を閉じる
私よりも随分高い温度に溶けてしまいそうだと思った





明日は、関ヶ原での戦が始まる






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