凶王軍は今日も平和です











「やれ暗よ、まるでどぶ川の泥土の様な臭いがしよるぞ。おお臭い、鼻がひん曲がるわ」

「…あんな穴蔵で毎日毎日動きっぱなしじゃあ臭くもなるってもんだろうよ」

「ぬしの米粒大の頭では湯編みをすることも思いつかなんだか。間抜けとは不憫なものよなァ」

「刑部、おまえさんが嵌めてくれた枷のお陰でなあ、湯に浸かっても洗えないんだよ!」

「ヒッヒヒッ、愉快愉快。その枷はぬしを好いておるのよ」

「そんなわけあるかぁ!人をおちょくるのも大概にしろ、刑部!」

「そう声を荒げずともぬしの言いたいことは分かっておる。ほれ、この鍵が欲しいのであろ?」

「あっ、か、鍵っ!おまえさんが持ってたのか!」

「誰がその枷を嵌めたのか覚えておらぬのか?われが嵌めたのだから鍵を持つのもわれに決まっておろ。ぬしの頭は憐れな程に鶏なのだなァ。三歩歩けば忘れよる。ヒヒッ」

「ぐぬぬぬっ…さっさとその鍵をよこせ!」

「んん?何ぞ言ったか?われには鶏が喚く声しか聞こえぬぞぉ?」

「刑部!その鍵を渡せぇっ!」

「おっと、そう猪の様に突っ込むな。もし鍵が曲がって、錠が開かなくなりでもしたら困るのはぬしであろ?ん?」

「くっ…」

「形部、何をしている」

「いやなに、間抜けな穴熊と戯れていただけよ」

「ぐぬぅ…」

「…。軍義の時間だ。行くぞ、刑部」

「あいわかった」

「刑部っ!鍵だけ置いていけ!」

「あいにくわれは忙しい。その暇さえ惜しいのだ。まぁ幸いぬしは鶏頭ゆえ、すぐに忘れようて、ヒヒッ」

「くっ、刑部めぇ…!」

「煩いぞ官兵衛」

「元はと言えばおまえさんのせいだぞ三成!」

「貴様が秀吉様の座に弓引こうとしたからだ。身の程をわきまえろ」

「ぐぅぅ…」

「では、そろそろ行くか三成」

「ああ。…それから官兵衛、風呂には入れ。ひどい臭いだ。豊臣軍の名に泥を塗ってみろ、貴様を千に刻んでやる」

「ヒヒッ、真にその通りよ」

「……くっそおおぉ!覚えてろよ、刑部ゥ!」



「…楽しそうだな」

「うむ。混ざりたいとは思いませぬが…」

「ああ。見てるだけで十分だ…」

「あれほど愉しそうな大谷殿を見るのは初めてござる」

「まあ、三成たちも来るみたいだし先に行くか幸村」

「そうでござるな、長曽我部殿」

「今日も平和で何よりだぜ」






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