懺悔の言葉
真っ青に澄んだ海色の瞳。
清々しく澄みきったその瞳が、真っ直ぐに小生を見ることに怯える。
小生の罪悪感を見透かされているようで、どうにも居たたまれない気持ちになる。
西海の姿が見えれば隠れるように逃げ惑う。
小生は、西海の鬼が恐ろしいのだ。
「なぁ黒田さんよぉ、アンタどうして逃げるんだ?」
うららかな陽射しの差す庭で、訝しげな顔をした西海に呼び止められた。
ぎくりと身を強張らせ、口元にひきつった笑みを張り付ける。
「た、たまたまだろ!小生は別に、逃げも隠れもしちゃいないさ」
「…ふぅん、そうかい」
そう言いながら西海が困ったように笑う。
西海の笑みが見透かしたように感じてしまい、
小生はやはり、その顔を見ることが出来ずに俯いてしまう。
「なぁ黒田さんよ、同じ軍になったんだ、
何の縁か知らねぇが折角だから仲良くしようぜ」
タハッと声を上げ、西海が人懐こい顔で笑う。
同性から見たって、男前で懐が深いアニキ肌だ。
険しい顔はその名の通り鬼のようだというのに、
無邪気に笑う顔は驚くほどに幼く、好感が持てる。
人を疑うこともなく、仲間と思えば迷うことなく助けに向かう。
──権現に、よく似ていると思う。
権現が意識的にやることを、西海は無自覚に成す。
きっと、本当に性根の良い男なのだろう。
(……小生は)
ふとほつれた思考の糸が、考えたくない方向に向かうのを感じた。
考える事を恐れて目をそらしてきた事が、目の前の西海によって引きずり出される。
(………小生は、この男を)
「な、よろしく頼むぜ」
にこやかに笑い差し出された手のひら。
大きく、傷の多い、温かそうな手のひらだ。
「……っ」
ぎゅっと拳を握り締め、震える唇を噛み締める。
「……生憎だがな、小生はこの枷を外してもらわにゃ握手の一つも出来やせんよ」
「ははっ、大谷から鍵貰うのは大変そうだ」
顔をくしゃくしゃにして、おかしそうに西海が笑う。
まるで日溜まりのようなその笑顔。
「……じゃあ、小生は用事があるんでね」
「ああ、じゃあこれからよろしくな黒田さん」
ひらひらと手を振り、西海の背中が遠ざかる。
そのことに安堵の息を漏らし、その背が見えなくなるまで見送った。
目を閉じればありありと思い出せる。
硝煙の匂いと海風でべた付く肌を。
怒声と悲鳴と助けを求める声を。
晴れ渡った空のなんと清々しかったことか。
果てまで広がる海のなんと雄大だったことか。
この心の、なんと重く暗く救いのなかったことか。
自分の為以外で初めて人を手にかけた。
戦だから仕方ないさとうそぶいても、
何の目的もなく小生が彼らを手にかけたのは事実で…。
脅されていた。
それがどうした。
命を奪う理由になるのか。
「……………西海ぃ」
皆が寝静まった夜半に西海を見た。
酒瓶を片手に、縁側で一人きり座り込んでいた。
ひどく酩酊しながら掠れた声を上げていた。
『………すまねぇ、野郎共』
そうして歯を食いしばって、涙を零した。
何度も床板に頭を打ち付けて、謝罪の言葉を口にした。
「……小生は、お前さんの大切を傷付けて奪った張本人さ」
日溜りのような笑顔で手を差し伸べて、
優しい言葉、温かい言葉ばかりを口にする。
嬉しかった。温かかった。
そんな彼を傷付けたのだ。
ひどくひどく、夢に見るまで、忘れることすら出来ぬほど、
傷付けて傷付けて傷付けた。
(小生には、謝る資格すらありゃあしないじゃないか……)
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