雪の花
はらはらと空から舞う雪に触れれば体温からその冷たさは溶けて消えた
まるで自分の末路を見ているようで歯がゆさを覚えた
それでも、何度も手を伸ばして淡雪を手のひらに乗せた
何度も何度も溶けては消えるそれらを眺めた
それでもまた手を伸ばしては、手のひらの上で冷たさが消えていった
この行動に何の意味も無いと分かりきっている
僕はただ、自分が生き残る未来を見たかっただけかもしれない
そんなことをふと思って、拳を握り締めて苦笑した
自分の命が永くないことは分かっている
どうしようもないことだと理解している
それでも、雪と自分を重ねて夢を見ている自分に笑えただけだ
「半兵衛」
背後から掛けられた秀吉の声に振り向けば閉じ込められた腕の中
痛いほどに熱い温度にこんなにも冷え切っていたのかと気が付いた
「何をしているんだ?」
僕の冷たい指先を包み込み、白い息を吐きかけながら静かに秀吉の声が響く
「…こんなに冷え切っているのに、
雪に触れれば溶けて消えてしまうんだと思ってね」
早く中に入らないと秀吉まで冷えてしまうと思いながら、手を握る温度が心地良くて離せない
大きな体で僕を包み込む秀吉の温かさに、もうすこしだけこのままで居たいと思う
「ああ、中に入ろうか
ここに居たら秀吉まで冷えてしまうよ」
そう言いながら手を握り合ったまま動かない体
僕を抱きしめたまま動かない秀吉
「…こんなに冷たくなるまで外に居たら体に障る」
「…うん、中に戻ろう」
それでも、二人で空を見上げたまま動けない
ここに居たいと思う僕の心を、秀吉は分かっているんじゃないかと思う
はらはらと舞い降りる雪が秀吉の手に溶けて消えていく
それを見ながら、僕の最後もこうであればいいと願う
どうか最後の瞬間に見えるのは秀吉の姿がいいと願う
「ねぇ秀吉、春になったら一緒に桜を見に行こうか」
「ああ」
「一緒にお団子でも食べよう」
「…我が茶を点ててやろう」
「ふふ、本当かい?
秀吉の点てるお茶は美味しいから、すごく楽しみだ」
次の季節の約束をして、明るい未来を想像して笑って、それで何が変わるわけじゃない
この残り短い命が増えるわけなんて無い
ただ、過ぎていく時間を恐れているだけだ
「…秀吉と見る桜は、きっと美しいんだろうね」
秀吉の胸に背中を預けて目を閉じれば、寒さなんてもう分からない
こんなにも温かさで包まれている
「半兵衛」
秀吉が手を伸ばして庭に生えた木の枝を一つ手折った
雪の乗ったその枝を差し出して、僕の手に握らせた
「…雪にも形がある
桜ではないが、半兵衛にはこの花がよく似合っていると思うぞ」
細かな雪の粒はよくよく見れば花びらのような形をしていた
溶けては消える儚い花びら
それでも、確かにある形
誰にも気付かれることなど無くても、存在してる
「我はとても、美しいと思う」
「…ありがとう、秀吉」
秀吉が美しいというのなら、それでいいような気がした
儚く消える運命でも、秀吉が優しく微笑んでくれたから、それでいいと思える
「そろそろ中に入ろうか
秀吉の手も冷たくなってきてしまってる」
「ああ」
とりあえず今は、桜の下で秀吉の点ててくれたお茶を飲むのが僕の唯一の楽しみだ
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