美しい手
三成の手が触れる
いたわるように、優しい手つきで包帯を巻いていく
見られることへの恐怖
触れられることへの恐怖
三成に病が移るかもしれないという恐怖
だが何度断ろうと、私がやるの一点張りで諦めた
この男は言い出したら聞かないのだ
「形部の手は美しいな」
「…何を言うかと思えば、この手のどこが美しいのだ?われにはさっぱり分からぬぞ?」
「全てだ」
「…さようか」
嬉しそうに目元を弛ませる姿を見ていたらそれ以上何も言う気にならなくなった
どこまでも柔らかい表情を浮かべるのだ
本当に嬉しそうに、われに触れるのだ
「形部、私は形部を好いている」
「………さようか」
もう何度このやり取りをしているのだろう
そろそろ両の手の指では足りなくなってきた位だろうか
われは男だ
先は永くは無い
そう言ってのらりくらりとかわしてきたが、一向に止める気配が無いのでこれもまた諦めた
三成を嫌っている訳ではないのだ
好きだと言ってもらえるのは嬉しく感じる
だがしかし、われは患い者だ
友でいることさえ拒む者が多い中、三成だけはずっと変わらない態度だった
それが嬉しくも、不安だった
長くわれの側にいれば病が移るやも知れぬ
それだけは避けたかった
だが、何度来るなと言ったところでこの男は聞きもしない
病位移せばいいとさえのたまう
あまりの言葉に唖然として、もう全てを諦めた
「三成、そろそろ手を離しやれ」
「私に触れられるのは嫌か?」
「ぬしに病が移ってはかなわぬと何度も言っておろ」
「移せばいい。だからもう少し触れていたい」
「…あい分かり申した」
いったいわれのどこに三成に好かれる要素があったのかとんと検討も付かぬ
だが、三成のこんなに嬉しそうな顔が見れるのならどうでもいいような気がした
皆の前では険しい顔の三成が、穏やかな顔でいること
それはわれにしか見せぬ顔であること
われに臆せず触れること
好きだと言うこと
その全てが、温かくわれを包む
「…三成、そろそろ手を離しやれ」
「…分かった」
「見たところ、眠れておらぬのであろ?さようにひどい隈などこしらえおって」
「…眠ることに興味など無い」
「だが眠らなければ体が持たぬ。しばし横になっていけばよい」
「…あぁ」
素直に手を離し、われの言葉に頷く姿は子供のようだ
子供にしては図体も大きく態度も不遜すぎるが、それもまた愛らしい
「形部、膝を貸せ」
「…ほんにぬしは甘えたよなァ」
膝に乗った頭を撫でてやればすぐに静かな寝息が聞こえてくる
安心しきったような寝顔
目を閉じた横顔はいつもより幼く見える
守りたい、と思う
側に居たい、と思う
「…われも、ほだされたものよ」
膝に感じる重さと温かさ
それは信頼と友愛と恋情の感覚
悪くは無い
三成がもたらすものは、われには酷く心地よい
優しさも、幸も不幸も、われの内に満ち満ちる
外から聞こえる鳥のさえずりが三成を起こさねばいい
三成のサラサラとした髪を撫でながらそんなことを思った
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