追憶
半兵衛様が笑いながら私の髪を撫でてくださるのを、
とても甘く幸せな夢心地でぼんやりと眺めました
夕陽に照らされて滲んだ輪郭が、
雲のようにふわふわと柔らかそうな髪が、
すみれ色の穏やかで優しい瞳が、
あまりに綺麗で泣きたくなりました
「三成君は美しいね」
いいえ、いいえ!美しいのは半兵衛様です!
そう思っても、言葉にすることは出来ませんでした
楽しそうな笑みを浮かべる半兵衛様に触れられる度、
もう私などいつ死んでも構わないような気がしました
「素直で、勤勉で、そしてとても優しい子だ」
そっと目を伏せる半兵衛の頬に、
長いまつげの影が落ちるのを言葉もなく見詰めました
なにか一言でも声を漏らせば、
その瞬間にこの時間が終わってしまいそうで恐ろしかったのです
「君のような子がいてくれて、僕も秀吉も鼻が高いよ」
秀吉様の名を口にすると、柔らかく目元がゆるむのが好きでした
切なく、優しく潤むその瞳に見詰められたいと渇望しました
「……ねぇ三成君、いつも頑張っている君にご褒美をあげるよ」
どこか悲しそうなお顔をされて私を見詰める半兵衛様に、
ぎゅっと心の臓を鷲掴みにされたように息が詰まりました
「言ってごらん、君の望みを」
半兵衛様の白く細い指が私の頬を包み、
その指先の温かさにクラクラと目眩がするようでした
「……っ、半兵衛様」
力の加減も出来ず、強く掴んでしまった腕を放すこともできませんでした
それでも優しく微笑む半兵衛様の瞳を見詰めていると、
もう、私の理性も自制心もボロボロと崩れ去り、
野生の獣のように本能的な欲望が頭をもたげるのです
「私は、半兵衛様が欲しいです………」
「………いいだろう
今だけは、君の全てを許そう
三成君、僕を蹂躙する許可をあげるよ」
柔らかく微笑む半兵衛様の瞳に、誘うように色付いた唇に、私は打ち砕かれたのです
プツリ―――と、糸が切れるような音が聞こえた気がしました
視界が赤く染まって、地がグラリと揺れたような気がしました
それらの感覚は戦場で高揚した時に何度か経験したことがありましたが、
戦場の比ではなく頭に血が昇り、心の臓の鼓動が大きく大きく頭に響きました
「………ッ」
半兵衛様の小さな唇にむしゃぶりつきました
抵抗も無く、口を開けてくださった半兵衛様の舌に舌を絡ませ合い、
息が続く限りその狭い口内に舌をねじ込みました
早急に、強引に衣装を剥ぎ取り、さらされた肌を貪りました
舐め、吸い、噛みつき、純白の肌が私の手で汚れていくことに、
浅ましい優越と経験したこともない程の興奮を感じました
半兵衛様が眉をしかめ、肌が汗ばみ、瞳が歪むのを目にする程に、
劣情は燃え上がり、私に巣くう醜悪な獣は鼻息も荒く笑っていたのです
半兵衛様の足を高々と掲げ、惜し気もなく開かれた秘所を眺めました
美しい、としか思いませんでした
きっと他の者が相手だったなら、違うことも思ったかもしれませんが、
半兵衛様のそこは一切の穢れなく、私にはこの世の何よりも神秘的に思えたのです
半兵衛様の雄を口に含み、何度も舌を這わせました
その度に身を震わせ、短い息を吐き出し、潤んだ瞳が私を見るのです
私などの拙い舌技で半兵衛様がお喜びになっているのかと思うと、
触れてもいない私の雄はそれだけでもう達してしまいそうでした
玉を舐めれば甘く高い声を上げ、私の頭に置かれた手にぎゅっと力が入りました
半兵衛様の反応を確かめながら、私は執拗なまでに何度も愛撫を繰り返しました
ですから、私の手と口だけで半兵衛様が達してしまわれた時は、
この上ない至福を感じて、身も心も、最上の歓喜に打ち震えたのでした
細い腰を捕まえ、先走りでぬるぬるとした私の雄で固く閉じた穴をこすれば、
もどかしそうに自ら腰を揺らし、切なげに眉をしかめるのです
互いの雄と雄を擦り付けながら半兵衛様の穴に指を差し入れれば、
その中は熱くうごめき、きつく締め付けてくるのでした
指が二本ばかり入った頃に、もう私は我慢がきかなくなり半兵衛様の中へと押し入りました
半兵衛様の中はひどく狭く、私の雄をきゅうきゅうと締め付けました
私は頭の中が真っ白になり、ただ獣のように腰を振り続けました
半兵衛様の額に張り付いた髪や、時折噛み締められる唇、
ぎゅっと閉じられた瞳などに私は激しく欲情していました
互いに荒い息を吐き出しながら、しかし言葉はありませんでした
そうして私は、半兵衛様の中に薄汚い欲望を吐き出しました
情事が終わってからも、どうにも離れがたく雄を抜くのをためらっていました
そんな私の心情を見抜いていたのか、
半兵衛様が困ったように笑いゆっくりと私から離れていかれました
互いに会話もなく、黙々と着流しを身につけました
「……半兵衛様、申し訳ありません
慣れておらず、ご無体を強いてしまいっ」
「三成君」
畳に額を擦り付けるように下げた頭を撫でられ、
恐る恐る顔を上げれば、半兵衛様はいつものように笑っておいででした
「……さよなら」
「…………」
優しく微笑む半兵衛様の前で、私はただ深々と頭を下げることしか出来ませんでした
それが、私と半兵衛様のたった一度きりの情事でした
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