またね
ずっと側に居た
それが当たり前だと思っていた
頼り、甘え、困らせてばかりいた
「ねぇ旦那、俺様は旦那の影だ
旦那を守って死ぬ為に存在するんだよ」
何度も怒られ、呆れ顔でため息をつかれた
「旦那が生きる為に、俺様は死ぬんだ」
菓子を作る後ろ姿や戦場での血に濡れた姿
「その為に、今まで生きてきたんだ」
優しく慈愛に満ちた瞳や厳しく諌める冷徹な瞳
「こんなこと言うと旦那は怒るけどさ、結局忍は人じゃない
ただの道具なんだよ」
困ったような笑顔も、戸惑いに揺れる眼差しも
「道具にあるのは性能の良し悪しだけで、心は必要無い」
怒りに歪められた表情も、悲しげな視線も
「生まれた時から、そう教え込まれて生きてきたんだ」
こんなにも沢山知っている
たくさんの顔を見てきた
たくさんの言葉を交わした
たくさんの時間を共有し、分かったつもりになっていた
だが某は佐助の覚悟も、想いも、何も分かってはいなかった
「人の命は平等じゃない
人にすら成れない忍には、人の価値なんてないんだ」
悲しくてたまらない
佐助の言葉を聞きたくない
「ねえ旦那、俺様次は人に生まれてくるからさ」
あまりの苦しさに胸が押し潰されそうだ
少しずつ体を削られていくようだった
「また、旦那の側に居させてね」
当たり前だ、とどんなに思っても、喉はかさついて声も上げられない
「忍使いの荒い上司だったけど、俺様武田に居られてよかったよ」
涙で歪む視界に笑う佐助の姿
「だからさ、もう泣かないでよ」
「…っ」
信じたくなかった
佐助が居なくなるなんて、考えられなかった
「…旦那、」
「死ぬな、佐助ぇっ」
「旦那」
「嫌だ!もう何も聞きたくない!すぐに医師を呼んで」
「大将!」
強い言葉、強い眼差し
その息はとても細い
「…いやだ」
「…ごめんね」
「…いやだ、嫌だっ!」
「うん、ごめん」
優しく、何度も謝られる
そんな言葉が聞きたい訳ではない
謝られる度に諦めろと言われているようで、辛さは増していくばかりだ
「ごめんね、旦那」
「…すまない、佐助」
「…なーにが?俺様湿っぽいの嫌いだからさ、最後くらい笑ってよ」
おどけて言う佐助の言葉に精一杯応える
「…うむっ」
「あははー、不細工だなぁもぉ。男前が台無しじゃない」
今まで尽くしてくれた礼を、詫びを、気持ちを、せめて望むままの最後を届けたい
「こんな穏やかな最後になるなんて思ってもなかった
やっぱ日頃の行いがいいと違うねー」
笑いながら、悔しそうに眉根を寄せる
「…ごめんな、旦那」
「…いや、今までよく尽くしてくれた
不甲斐ない主で、すまないっ」
「…俺様ってば、幸福者だねぇ
ほんともう、どうしようかな」
佐助の目の端を涙が伝う
「死にたく、ないなぁ」
困ったように笑う佐助の手を握る
何も言えなかった
「ね、俺様今度はちゃんと人に生まれて来るからさ、
だからまた、旦那の側にいさせてよ…」
「ああ、約束だ」
「…ん、ありがと」
静かに目を閉じる佐助は思っていたよりも幼い顔立ちで、
寝顔を見たこともなかったことに気が付いた
満たされたように笑う横顔に涙が落ちる
もう何も言うことのない佐助が悲しい
知らないことが沢山あった
知りたいことが沢山あった
もう知ることの出来ないそれら
動かない佐助を抱き締めて、ただ涙を溢した
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