いつものことさ
「よお、毛利」
「安芸の地に足を踏み入れるな下賤な海賊風情が」
「はははっ、そう言うなって
いい土産があるんだ、とりあえず茶くらい出せよ」
「……南蛮の菓子もあるだろうな」
「おう、当ったり前だろぉが
お前あれ気に入ってたもんな」
「ならば良い、しばし待て」
女中が運んで来た茶に口を付け、目の前に座る毛利を眺める
真っ直ぐに伸びた背筋
鋭く冷ややかな目元
サラサラと揺れる癖の無い髪
「さっさと菓子を差し出せ、長曽我部」
「ははっ、ほんと気に入ったんだな」
言葉も分からぬままに身振り手振りで作り方を聞いた
何もかもが違う中で、懸命に覚えた
ただ、お前の喜ぶ顔が見たかった
「………ふむ」
「美味いか?」
「……………悪く無い」
「はははっ、素直に美味いって言やぁいいだろうが」
「美味いなどと言っておらん!
我は悪く無いと言ったまでよ!
言葉も理解できぬか、姫若子!」
「ひっ、姫若子は関係ねぇだろ!」
「ふん!」
他の奴にはきっと分からない
目の端が嬉しそうに弛んでいることも、
纏う空気が柔らかく穏やかに変質することも
きっときっと、俺だけにしか分からない
「…ったくよぉ」
「して、土産とは何だ」
「結局気になってんじゃねぇか」
「黙れ!早く出せ!」
不機嫌そうに声を荒げる毛利に、
苦笑しながら箱に入った土産を差し出してやる
「ほらよ」
「……履き物、か?」
箱から取り出した”ぶぅつ”を不思議そうに眺め、
不満そうに、微かに目を細められる
「きっとお前に似合うぜ?」
「……新しい菓子では無いのだな」
「…毛利お前、どこまで食い意地張ってんだよ」
「ぅ、うるさいわ!
用が済んだらさっさと立ち去らんか!!」
「いてっ!ちょ、投げんな!」
”ぶぅつ”が入っていた箱を投げられ、堪らないと部屋を出る
それからも、さっさと帰れと言わんばかりに部屋の物を投げ出される
「またなー、毛利!」
「二度と来んで良いわ!」
「おう、じゃあな」
「…………次は、もっと菓子を持って参れ」
「…おー!」
きっと拗ねたようにそっぽを向いているんだろう
俺が帰った後に、一人で”ぶぅつ”を履いているかもしれない
あの”ぶぅつ”はきっと毛利に似合う
身長のことを気にしているなんて、俺が知ってるなんて思いもしないだろう
少しでもお前の劣等感が消え去ればいい
少しも劣っているところなんて、初めからありはしないんだ
だから何にも気にしないで笑ってりゃあいいんだよ
せっかくあんなに綺麗な顔してんだから
お前の笑顔は、お天道さんよりよっぽど綺麗なんだからよ
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