I'm yours forever











全てを拒絶し、寂しげに歪む瞳を守りたいと思った
失ったものの代わりにはなれずとも、側に居たいと願った

「小十郎、どうした」

「…いえ、随分大きくなられたものだと思いまして」

「Ha!いつまでもガキじゃあねぇ」

部屋のすみでうずくまり、外に出たくないと言う子供だったとは、
今や威風堂々と不敵に笑う姿からは想像も出来ない

「ええ、御立派になられましたな」

「…御立派な俺は嬉しくねぇか?」

変な面しやがって

不服そうに眉をしかめる顔にはまだかすかな幼さがかいま見える
そんな主に苦笑しながら首を振る

「…嬉しくも寂しい、といったところです」

「Aa?」

「強いて言うならば、娘が嫁に行く父親の心境とでも」

「……Shit!もう少しマシな例えにして欲しかったぜ」

いつからか使い始めた南蛮語も、はっきりとした意味は分からずとも理解出来るようになった
お一人で、独学で学ぶことは大層な苦労だったろうに、それを表に出すことはない

「政宗様、元服おめでとうございまする」

「…ああ、Thanks!」

はにかみ、嬉しそうに笑う笑顔は眩しく輝いている
悲しみの中でも優しさを失わず、前を向き歩き出せた強さ
逆境を耐え忍び、挫けなかった強さ
涙を堪え、膝を抱えていた子供はもう居ない
愛されたいと口にすることも出来なかった子供はもう居ないのだ

「小十郎、俺の背中は預けた
しっかり守れよ!」

「御意にごさいます
この命に代えても、必ずや」

「…駄目だな
それじゃあ何の意味もねえ」

呆れたようため息を吐き、政宗様がやれやれと首を振る

「生きて俺の隣にいろ
お前のいる場所は俺の天下への特等席だ、You see?」

「……御意!」

無邪気に、晴れやかに笑う姿を目に焼き付ける
政宗様の夢を、夢のままで終わらせやしねぇ
そう強く心に誓った

「OK!
違えるんじゃねぇぞ、小十郎」

「この小十郎、政宗様に嘘は申しませぬ」

真っ直ぐに前を向く眼差しのなんと鋭く澄みきったことだろう
伸びた背丈の分以上に、その中身こそ本当に大きくなったのだと実感する

「ああ、そうだ
なぁ小十郎、元服の祝いを貰ってねぇぞ?」

政宗様が期待に満ち満ちた瞳で嬉しそうに見上げてくる
数日前に言われた祝いの品の要望を思い出しため息を吐いた

欲しい物?
小十郎のKissだな!

そう言って、俺の困り顔を見て楽しそうに笑っていた

「……政宗様」

「小十郎が待てっつうから、今まで待ったんじゃねぇか」

拗ねたように唇をとがらせ、
わずかにあごを引く姿は子供の頃から変わらないと思った

いつから政宗様が口付けや抱擁を望むようになったかはもう覚えていない
だが、事あるごとにそれらをねだるようになった

その度に主従のあり方を説き、そんな無礼は出来ないと口にし続けた

「……まだ足りねぇのか?」

寂しさを、悲しさを滲ませた瞳に見上げられる
幼い頃はよくこんな顔をしていたものだと懐かしく思いながら、その柔らかな頬に手を伸ばす

「政宗様は、大切な主君です」

「………そんな言葉が欲しい訳じゃねぇ」

望まぬ病により失った右目
それにより失われた母の愛

初めは父性にも似た感情だった

次第に色付き、気付けば愛に変わっていた
抱き締めたいと、全て奪ってしまいたいと思った
無邪気に、抱き締めろ、Kissしろとせがむ政宗様を汚してしまいたかった

それでも、政宗様を傷付けまいと自分を堪えた

政宗様が大人なったら考えましょう、と言ったくせに、
政宗様がせがむ声を上げなくなることを恐れていた

「…政宗様は大切な主君です
そして小十郎にとって、なにものにも代えがたく愛しい人です」

気紛れでも、錯覚でも、政宗様が望むのならば差し出すだけだ
幼い頃から見守り続けた、心から愛しい方だ

「政宗様がお望みならば、主従の垣根も越えましょうぞ」

驚きに目を見開き、頬を赤く染める政宗様を抱き寄せる
おそるおそる、といった様子で背にぎゅうと腕を回される
その力の強さに愛しさを感じながら、胸元に埋められた政宗様の顔を上げさせる

「I love you,政宗」

初めて触れた政宗様の唇は柔らかかった

「……ご無礼を、お許しください」

そっと唇を離し、政宗様の額に自らの額をつける
密着した体から感じる速い鼓動に胸が高鳴った

「……小十郎、愛してる」

柔らかくほころび、柔らかく笑う政宗様を可愛らしいと思う

「ええ、お慕い申し上げます」

ぐりぐりと胸元に顔を押し付けてくる政宗様を強く抱き締める

「…小十郎、俺を手離すなよ」

「政宗様が嫌だと言っても、もう離すことは出来ますまい
……小十郎も、政宗様をずっと抱き締めたかったのですから」

絡み合う視線は温かく穏やかだ
何があろうとこの方を裏切ることは無い

優しさを、愛情を、惜しみなく捧げたい
温かな道を、美しい道を、進んで行って欲しいと願う

辛いことも、悪いことも、よらないように守りたい

幼さを残す顔で優しく笑う政宗様に心からの忠誠を誓った






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