悲喜











手を握った
もう握り返されることは無いと分かっていた

手を握った
恥ずかしそうに頬を赤らめることは無いと分かっていた

手を握った

強く強く、手を握った



返り血に濡れた猿を見つけ睨み付けた

「…生きてたの？
死んじゃってれば良かったのに」

「…Ha!テメェこそな」

笑ってねぇ顔で笑う猿に、
憎らしげに笑い返してみせる

ここにコイツが居るという事
それが指すのは紛れも無い事実

それは、あいつが死んだということ

猿が生き残り
俺が生き残った

これは一体なんて皮肉だ

「…俺は、テメェを憎む」

「…奇遇だね、俺もだよ」

チリチリと空気が震え、殺気混じりの視線が絡み合う

「…痛み分け、か」

「…最悪だね」

感情の無い顔で、それだけを言うと、
互いに視線は逸らさず歩き出す

降り出した雨に濡れながら、言葉を交わすことは無く行き違う

猿の頬を伝ったのが、涙か雨かは分からない

遠ざかって行く足音に、拳を握り締めた



「…小十郎」

固く目を閉じ、地に倒れ伏した小十郎の名を呼ぶ

終わってしまった
終わらせてしまった

こんな結末は、望んじゃいなかった筈なのに

これからも、笑い合っていけると思っていたのに

俺と、真田と
小十郎と、猿と

「…何負けてんだ、小十郎
俺は、勝ったぞ？
……これから、誰が俺の背を守るんだよ」

悔いは無いとでも言いたげな、
満足そうに微笑むその顔に雫が落ちる

生々しく手のひらに残る、愛しい人を貫いた感触

悔しそうな、悲しそうな顔
それなのに、駆け寄って抱きしめれば、
最後は笑って”有難うござりまする”なんて

「…Shit!」

これからも、笑い合える筈じゃ無かったのかよ






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