野点
沢山の悪意に毛穴が詰まるような気がする
ゆっくりと水の中に沈んでいくような
絶望的な息苦しさ
圧倒的な嫌悪の瞳
もがくことすら許されない
底無しの泥沼のようだ
「やれ三成、そのような顔をするでない」
小さな声で囁いてくる形部は
何が愉しいのかいつも以上に口角を上げていた
「…不快だ」
思ったことを口にすれば
聞こえていたらしく、
側に座っていた武将にちらりと視線を投げられる
「折角太閤が茶を振舞ってくれるのだ、
愉しまねばそれこそ失礼にあたるというもの」
「…ああ」
目の前には敬愛する秀吉様も半兵衛様もいらっしゃると言うのに、
形部に向けられる不躾な視線
隠しているつもりだろうが、
ひしひしと感じる軽蔑的なそれが
どうしようもなく癪に障る
「ほれ、茶が回って来よったぞ」
形部の隣にすわる武将から、
触れないように、怯えたように
茶が回される
その動作に眉間の皺が深くなったのを自覚する
何事も無くそれを受け取り
恭しい動作で茶を飲み、
一礼した形部の動きが止まる
形部の目元から、涙のように膿が垂れていた
周りの武将はざわざわと色めき立ち、
形部は苦い顔をしている
半兵衛様はその様子をじっとご覧になり、
秀吉様も何も言わず、周りの武将をただ見ている
私に茶を回すことを躊躇っている形部の手から
強引に椀を奪い取り、
一息で全てを飲み干した
渋く、それでいて甘みのある茶の味に
流石、秀吉様だと深く感銘を受けた
「申し訳ございません
あまりにも美味な茶ゆえ、全て飲み干してしまいました
この処罰は何なりとお受けいたします」
椀を置き、深く頭を垂れる
「いや、良い」
満足気に微笑む半兵衛様と秀吉様に
もう一度礼をし前を向く
「…ぬしは、ほんに」
申し訳なさそうな、困ったような
小さな声に薄く笑んでやれば
呆れたようにため息を吐かれた
未だざわめく武将たちにも
新しい茶が振舞われ、
茶会は無事に終わった
会場を後にし、形部と連れ立って歩く
「三成、感謝しよ」
「何のことだ、私は茶を飲んだだけだ」
「…さようか」
「ああ」
素知らぬ顔をしてやれば
形部は困ったように笑う
本当なら形部に嫌悪の目を向けた輩を斬り捨ててしまいたかった
形部を侮辱した罪を償わせてやりたかった
だが、形部は止めろと言う
いつものことだと笑う
そんな形部は見たくなかった
膿を飲み下したこの体が、
いっそ形部と同じ病にかかればいいと思う
病さえも、形部にもたらされる物ならば
この上なく愛おしく思えるのだ
「三成」
「何だ?」
横に居る形部を見上げれば
触れるだけの口付けが落とされる
「感謝の印よ、ヒヒッ」
可笑しそうに笑い声を上げる形部の、
あまりにも優しく揺れる瞳に見惚れた
去って行こうとする背中に手を触れ、
振り返った形部にニヤリと笑い返してやる
「足りない」
「…ぬしは欲張りよなァ」
もう一度触れた唇を逃がさないように
形部の首に腕を絡めた
触れ合った舌は渋い茶の味がした
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