ハ リ ネ ズ ミ











三成が長曽我部と呼ぶときに好きだと言われたことは一度もない

つまりはそういうことだ
自分でも分かっている

当たり前だと思う

閉じ込めて、ろうそくに仕込んだ香りで無理矢理に欲をたぎらせ体を繋ぐだけの関係

どれだけ三成の自尊心を傷付けているのだろう
それでも止めることは出来なかった

誰にも見せたくなかった
誰とも話して欲しくなかった
俺のことだけを見つめ、考えていて欲しかった

その為なら、どれだけ憎まれても良かった

俺のことだけで頭を一杯にしてくれたら、そこに愛などなくても良かった

金緑色の瞳が俺だけを見つめる

それはまるで夢だ

美しい三成
雪のように白く、儚い生き物
汚れなき魂

一目見た瞬間に心を奪われた

豊臣の忘れ形見
石田三成
豊臣を神の如く崇める男

貪欲に渇望した

どんな宝よりも輝いて見えた

どうしても自分のものにしたかった
間違っているのも正しくないのも承知の上だ
何をしてでも、あの男を手に入れたかった

何も知らなかった三成
それでも死をもって裏切りを清算しようとする潔さ

純粋で無垢な心

言葉を交わせるだけでよかった
触れ合いたいと、笑い合いたいと思うようになった
三成を想うだけで胸が苦しかった

少しずつ黒く染まっていく心に絶望した

誰かと話しているのを見る度に、目茶苦茶にしてやりたいと思った
真っ白な肌に爪をたてて、引き裂いてやりたいと思った
醜く刻まれた傷跡を残してやりたいと思った
泣きながら悲鳴を上げる三成を見てみたかった

好きだった
愛していた

他の誰かを見るのが許せなかった

本当はそんなことを望んでいた筈じゃあなかった
好きだと言って、笑い合えたらと思っていた筈だったのに

いつからか黒く歪んだ愛情
明るい未来など見失った

三成の憎しみと、哀しみの入り交じった瞳
情欲に流され思考を無くした瞳
そのどれもに愛など無いのだ

考える力を無くした三成に交わる度に名を呼ばせ、好きだと言わせる
そんなことには何の意味もないと、俺が一番よく分かっていた

哀しい
苦しい
寂しい

それでも手放すことは出来なかった
どんどん空虚になるばかりだと理解しながらも、止まることは出来なかった

好きだから、愛しているからこそ、後戻りは出来なかった

今更許される筈がない
ならば死ぬまで繋ぎ止めておきたかった

三成の笑顔が見たかった

本当に望んだのはそれだけだったのに
最早この先に光など有り得ないのだ
俺の汚れた欲望が、美しい三成ごと闇の中に引きずり込んだ

錠を外してしまったら、三成はどこかへいっちまう

そんなのは耐えられなかった

好きだと言ってくれたなら、僅かでも笑ってくれたなら

自由になっても側にいると言って欲しい
そうしたら、こんな哀しみは無くなるのに
その手段も、考えも奪ったのは俺自身だというのに
とんだ茶番だ

自由を無くした三成にすがっているだけだ

いっそ俺が死んでしまえば、三成はまた笑えるだろうか
眠る三成の横顔を眺めながらそんなことを思った

「…好きだ、三成」

自分の頬を伝う涙の冷たさに心が震えた






←三成部屋
←BL
←ばさら
←めいん
←top