ハ リ ネ ズ ミ











なぜ、私はここに居るのだろう

座敷牢のような、それにしては広く、豪華な装飾品で溢れた部屋に閉じ込められてから、一体何日経っただろう
部屋の角に置かれたろうそくからは甘ったるい香りがする

この香りはいけない
考える力は無くなり、体が熱を持つ
ふとしたことにも雄が反応してしまう

閉め切られた部屋は昼夜の感覚を麻痺させ、扉には錠が掛けられ外に出ることは叶わない

「よぉ三成、いい格好だなぁ」

愉しそうに笑いながら長曽我部が入って来た

大きな手が優しく頬に触れ、その感触に腰が疼く

「…辛れぇか?」

僅かに寂しさの滲む瞳に見据えられ息が詰まった

「…これを外せ、長曽我部」

昨晩から縛り付けられた手首は、外そうともがいたせいで薄く血が滲んでいた
その痛みすらも快感にすり替えられ、浅ましく雄が反応した
乱れた衣を直すことすら出来ず、ただ長曽我部を待っていた

「駄目だ。好きにしていいっつったのはあんただろぉが」

頬を撫でていた手がゆっくりと降りてくる
微かに肌をなぞる指に歯を食い縛った

ここに連れてこられてから数え切れない程に触れられた体

自らも知り得なかった部分まで、長曽我部は暴いた
全てを晒され、貪欲に快楽に溺れた
羞恥も理性も無く、ただ獣の如く交わった

この部屋に長曽我部以外の者は来ることがなく、世界中に二人だけしか居ないような錯覚を覚える

「…私が憎いなら、殺せばいいだろう」

震える声を絞りだし長曽我部を睨む
辱しめを受けているのに、何度も触られた体はそれすら快楽だと思ってしまう

いっそ殺して欲しかった

「殺す訳がねぇ。やっとあんたを手に入れたんだ、誰が手放してなんかやるかよ。一生俺のもんだ。死ぬまで、死んだ後まであんたは俺だけのもんだ」

恍惚とした表情で笑う長曽我部に寒気を感じた

力の入らない手を握られ、指を一本一本舐められる
丁寧に執拗に爪の先から指の間までをなまあたたかい舌が何度も何度も往復する

「…んっ、うっ」

頭では気持ち悪いと思うのに、湿った舌の感触や温かい吐息がまるで情事を思い起こさせ、下肢が震えた

早く触れて欲しいと願う自分と、いっそ殺して欲しいと願う自分
甘い香りに惑わされ、蒙昧した頭ではどちらが本当の願いかも分からなかった

「触って欲しいか?」

にやにやと笑いながら長曽我部が問い掛ける
歯を食い縛り頷く

こんな屈辱には耐えられない、舌を噛みきって死んでやる
どれ程頭でそう思っても、はち切れそうな雄はもう限界だった

「おねだり、出来るよなぁ?」

下卑た笑みを浮かべながら長曽我部が目前の床に腰を下ろす

「上手におねだり出来なきゃあ、触ってやれねぇなぁ」

おかしそうにケラケラと笑い濁った瞳を向けられる

仲間思いの、実直で活発な男はもうどこにも居ないのだと思った

毛利が、刑部が、私が、壊したのだ
家康が攻めたということすらも、策の内だった

私も知らなかった真実
遅すぎた露呈

許されない裏切りを死をもって償おうと思った

だがそれは拒否され、与えられた結果はただの性奴隷だった
いつまで続くか解らない、この肉欲ばかりの世界が私への罰なのだと、受け入れた

「おら、さっさと煽ってみせろよ」

「うあっ!」

荒っぽく雄を握られて涙が滲む

痛い程の刺激に一瞬で達してしまいそうになる
けれど持続性のない快楽はそれを許してはくれない

必死で涙をこらえ長曽我部を見上げた
にやにやと笑う顔からは何の感情も読み取れず、強く目を閉じ俯いた

「…………触って…ください」

顔に熱が集まる
こらえ切れない涙が頬を伝った

「なに泣いてんだ?もっといやらしくおねだり出来んだろぉ?」

大きな手に顎を掴まれ俯くことさえ許されなくなる
ギラギラとした長曽我部の瞳に私が写っている
紅潮した頬も、涙をこらえた顔も、情欲を煽る遊女のようで、見ていられなかった

秀吉様の為にと日々尽くした私
刑部たちの裏切りを知らず長曽我部に手を取れと言った私
家康の裏切りに気付けなかった私
長曽我部を裏切っていた私

全てが遠い過去だった

手足を縛られ、死を思い、雄に貫かれることを望むのが今の私だった

「…長曽我部のを…私に…突っ込んで、ください…」

目を瞑り、どもりながらも言い切る
長曽我部は試すようにじっと私を見つめ顎から手を離した

「…俺ぁもっと上手におねだり出来るように教えた筈だぜ?今さら猫かぶってんじゃねぇ」

快も不快もない声音
能面のようにのっぺりとした表情
ただ恐怖が募った

上手く出来なかった
体の内を抉るあの熱を貰えない
どうしよう、どうしようと軽い錯乱状態になる

「三成、俺が好きか?」

「もとちか、すき…すきだ…」

早く触れて欲しかった
長曽我部の言葉にオウム返し何度も頷く

靄のかかった頭ではもはや自分が紡ぐ言葉さえ意味を持たない
早く早くと体が訴える

「…触って、ください。いやらしいお尻に、もとちかのおっきいのを突っ込んでぐちゃぐちゃにして欲しい!お願いします、早くもとちかとまぐわりたい…」

涙が溢れた
頭が朦朧とする
満足したように笑う長曽我部に安堵する

「やりゃあ出来んじゃねぇか。…だが、最初っから上手に出来なかったんだから俺のはやれねぇなぁ」

長曽我部の言葉に嫌々と首を振る

辛かった
限界まで高まった、行き場のない熱
声もなく泣いた
きつく目を閉じ、荒い息を吐いた


シュルリ――長曽我部の手が私の腰ひもをほどく

触れられることを期待して顔を上げればそのまま目隠しをされた

突然奪われた視界に狼狽する

「もとちか…?」

見えないことへの恐怖
何をされるか分からない現状に敏感になる

「ふっ!?」

冷たいものを穴に宛がわれた

「お仕置きだ」

ほぐされてもいない穴には大きすぎる質量
みちみちと自分の穴が裂けるのが分かった

「っ、ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!」

冷たい

熱い

苦しい

痛い

痛い

痛い

「ひっ、いっ、い゛だい゛ぃっ!」

無理矢理に奥まで差し込まれぐりぐりと動かされる
痛くて堪らないのに、それが良いところに当たる度に快感が生まれた

「痛くねぇと仕置きになんねぇだろ?だがまぁ、淫乱な三成はこんなんでも良くなっちまえるんだなぁ。もうパンパンだぜ?」

「ぅんっ!い゛っ、うぁ…」

指先で軽く弾かれて体が震える

「俺とまぐわりたいとか言っときながら、こんな玩具でも感じてんだ」

「ふあ゛っ」

根元をきつく握り込まれ息が詰まった

「誰だっていいんだよなぁ、変態で淫乱な三成さんはよぉ」

「っ、い゛だっ!んっ、いたい…」

尻の中で異物を擦られる
ほぐれていない穴は固く、出し入れされる度に傷口が広がっていく
自分の血が伝う感覚に背筋が粟立った

「そこに心が無くたって、あんたぁ気持ちよくなれんだもんなぁ」

長曽我部の声は笑っているようなのに、泣いている気がした
握り込まれた雄も、長曽我部の言葉も、ひどく苦しかった

「もとちか…泣くな…」

必死で声を絞り出す

「…うるせぇっ!」

「あ゛っ!」

「誰だっていいくせにっ、そんなこというんじゃねぇっ!」

勢いよく穴から異物を取り除かれ、代わりに長曽我部の雄が強引に押し入ってくる
硬く熱い長曽我部の雄
容赦なく激しい腰の動き

「い゛っ、いた…」

「痛ぇじゃねぇ、いいっつうんだよ!」

「いっ、ん、いいっ!う゛ぁ、いいっ…もとちかっ!いぃっ!」

自分の血が潤滑油代わりになり滑りはいい
それでも穴はぎちぎちと痛み、長曽我部の雄に圧迫される

「…三成っ、俺が好きか?」

「はっ、すきっ、すきだ…ん゛っ!」

腰の疼きを満たす為だけに、恥じもなく長曽我部に雄を擦り付ける
機嫌を損ねないように、熱を貰うためだけに、長曽我部の言葉も気持ちも理解せぬまま愛を呟く

少し我慢していれば痛みはいずれ快楽に変わる

優しさも愛情もなくとも、欲は満たせるのだ

「三成、三成、三成、三成っ…」

まるで呪詛のように何度も名を呼ばれる
哀しさばかりが、堪え切れずに溢れ出ているようだった

繋がっているのに遠くに感じる

長曽我部との交わりはいつだってそうだ
本心など一つも見えない
哀しさと空虚と情欲ばかりが淫靡で退廃的なこの空間を彩っている
肉欲だけが、今この瞬間の何よりも真実だ

「あ゛っ!い、いいっ、もとちか、いい゛っ!」

「…好きだ、三成ぃっ」

「ふっ、んあっ!あ、ああっ!いくっ、出るっ!」

「…っ、三成っ!」

長曽我部の熱を感じながら欲を吐き出す
荒い息を吐きながら、靄のかかった意識はそのまま闇に落ちていく
何か言おうと思ったが、頭も体も重く、瞼を開けることさえ出来ずに完全に意識を手放した

全てが、酷く哀しかった






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