ヒーローは不在
戦場ではぐれた三成が、
捕虜になったと聞かされたとき
冗談だろうと思った
だが、事実姿は見えないし
帰ってくる気配も無い
三成ならば大丈夫だろうと
放置したのがいけなかったと
心の底から己の愚かさを悔やんだ
忍びからの報告でどこにいるかは分かったと
軍師殿が言ったが、その顔は渋い
「われに行かせていただきたい」
見失ったのは己の失態だ
そう言ってやれば、
軍師殿は渋い顔のまま
躊躇いながらも一つ頷いた
「…僕も、今回は君が行くのがいいと思う
…三成君を頼んだよ」
「御意に」
手早く身支度を整え、
教えられた場所へと向かう
どうか無事で居てくれと
切に願いながら、急いだ
調べ抜かれた裏道を通り、
どうにか敵と遭遇することも無く
薄暗い地下牢にたどり着く
湿っぽい黴の匂いと
性の匂いが充満していた
一番奥の広い牢の中に、
探していた三成を見つけ
開かれたままの扉を開け中に入る
「三成、生きておるか?」
「うっ、うあ…」
四つん這いの形で縛り付けられた手足
ご丁寧にその手足の爪は剥がされ
指はあらぬ方向を向いている
「あ、あ゛あ゛っ、やめろ、やめろおっ!」
こちらを見ることも無く
怯えたように、逃げ出そうと三成がもがく
その度にぎちぎちと縄が鳴り、
白い肌に血が滲んでいく
「三成、三成、われだ」
震える肩に手を置いて、
優しく呼びかけてやる
尻の間についた赤黒い鮮血
体に、顔にこびり付く乾燥した精液
一人分には到底足りないその精液の量と
どれ程時間が経ったのか、
乾ききった欲と涙と唾液が
ここであった全てを物語っていた
「あ、あ、形部?形部っ…」
「今解いてやるゆえ、しばし待て」
きつく食い込む縄に手をかけ
持たされた短刀でぶちぶちと切り裂いてく
「うううっ、形部…」
安堵したのかぼろぼろと涙を零し
爪の剥げた震える指で手を伸ばしてくる
痛まぬように気を使いながら、
伸ばされた手を握ってやる
「三成、遅うなった」
「ひっ、うっ、形部っ」
泣きじゃくる三成の体を抱え上げ、
持ってきた着流しで体を包む
尻の間からどろりと零れた精液に眉をしかめ
ぐちゃぐちゃになった顔を手拭で拭ってやる
「もう大丈夫だ、早に帰ろ」
ぽんぽんと背中を叩き牢を抜け出す
肩口に顔をうずめ、
まだ震えている三成の体を抱きしめる
怯えたように肩を跳ねさせ、
硬く強張った体に後悔が募った
三成を手酷く扱った者に
如何にして不幸を降らせてやろうかと考える
死などという生ぬるい地獄では到底足りない
生きる限り続く呪いをかけてやろと思った
「形部、形部は無事か?
酷い責め苦にはあっていなかったか?」
まるでわれも捕らえられていた、
とでも言うような口ぶりに首をひねる
「ああ、われは無事よ」
「ああ、ああ、良かった
形部が捕らえられたと聞いて、
あいつらは私一人で来なければお前を殺すとっ」
体に与えられた苦しみを思い出したのか
狂った獣のように唸り、
強く強くしがみ付いてくる
「…すまぬ」
縛られていても、三成ならば抜け出せる程度だった
錠のかけられていない扉は、
三成を蹂躙する兵の為に開かれていたのだ
それでも逃げなかったのは、
われの命を守る為
全てはわれを助けようとした三成を踏みにじる為に
「形部が、無事でよかったっ…
う゛っ、う゛う゛う゛ぅ」
強く噛み締めたせいで、
その薄い唇は裂け血が流れる
「すまぬ、すまなんだ三成…」
「う゛う゛う゛っ、形部っ…
私はっ、助けたかったんだっ
私が、形部をっ、守りたかったっ」
泣きじゃくる三成を抱きしめ、
早くこの場所から逃げ出せるように
この悪夢から逃げ出すように
輿を進める速度を上げる
「ああ、すまぬ、三成っ…」
「ふう゛っ、ぐっ、うううっ」
「すまぬ、すまぬ…」
「私が、形部をっ、ああ゛っ、あ゛あ゛あ゛っ」
「ほんに、すまなんだ、三成…」
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