不幸とはなんぞや?











徳川に誘われ徳川の自室で茶を飲むことになった
気は乗らなかったが、徳川の様子がおかしいので、
これは三成に関することかと思い話ぐらいは聞いてやろうかと思ったのだ

先日までは、三成と恋仲になったと上機嫌であった筈だが、
今は何を悩んでおるのか、嫌に深刻そうな顔をして、
毎日会う度に日課の如くまくし立てる三成への賛辞も疎かだ

「やれ徳川、如何した?」

「…刑部」

茶をすすりながら訊ねれば、
不安そうに瞳を揺らめかせ口ごもる

ぬしのそのような顔は気色悪くて見ておれぬ、と言い掛けて、
そのようなことを言いに来たのではないとため息を吐き気を落ち着かせる

やれ事態は思ったよりも深刻よなァと思いながら先を促す
口にするのを躊躇いながらも話し出す徳川の言葉に耳を傾けた

「三成が、あの、太閤の鎧を持ってくるんだ…」

「太閤の?」

「ああ、いや、太閤の物では無いんだが、
よく似せて作ってある鎧を着せようとしてきてな…」

「鎧ぐらい着てやればよかろ?
ぬしの愛しい三成の頼みではないか、ヒヒヒッ」

「ああ、ワシも最初はそれぐらいなら、と着ていたのだが、
次は竹中殿、次は刑部、ああ、巫女殿の装束も持ってきていたな…」

「……ちと待ちやれ」

「ああ、何だ?」

「太閤と軍師殿ならまだ分かろ、
三成は御二人を敬愛しておるからの
しかし、何故われや巫女の装束まで…」

「着るだけなら、いいんだ
うん、着るだけなら、ワシだって、ああ…」

「徳川?徳川、どこを見ておる」

「着るだけならいいんだ、うん
ただ、話し方や仕草まで真似るのはさすがにワシにはな…」

「………徳川、われはそこにはおらぬ」

「駄目出しも酷いし、違うと激怒されながら刀を出されるのが辛いんだ…」

「………」

「この間のお市様の装束なんて足が丸見えだし、
そもそも女子の着る物をなぜワシに着せようとするのか分からない…」

「……それ程に嫌ならば、嫌と言えばよかろうに」

「言ったさ!
あまりの駄目出しに泣きながらもう止めてくれと言ったさ!
そしたら、うっ、うぅっ……」

「徳川、止めよ、泣きやるな、吐き気を催すわ」

「うっ、み、三成がっ、
『泣き顔とは、そうか貴様もようやく分かってきたな…、
おい家康、這いつくばりこちらを見上げて兄上と言ってみろ!』
と、今までに見た事も無い位良い笑顔でっ、うぅぅっ…」

「…徳川」

「次の日には振袖を持ってきてっ、
『恥らえ!頬を染めろ!貴様は今一国の姫なのだ!』
と、褌も穿かせて貰えず、その上、嫌な笑顔を浮かべながら、
『姫の初めては私が奪って差し上げましょう』
と、言って、ワシの…、ワシのっ………
ワシはっ、もう、どうしたらいいのかっ……」

「徳川、もう何も言わずともよい…
ずいぶんと、辛い思いをしたのだな…」

「うっ、刑部っ…
ううっ、うあぁぁっ、ひっ、あああぁぁっ!」

うずくまり泣きじゃくる徳川の背を撫でてやる

「初めはっ、ううっ、初めは真似だけだった筈なのにっ…
ワシはっ、いつか三成に犯されっ、犯されてしまうんじゃないかと…」

「徳川、もうよい…
もうよいのだ、ぬしは充分よくやったわ…」

「家康ううううぅぅぅ!」

「ひっ!」

勢いよく襖を開いた三成に肩を竦ませたのは、
徳川だけではなくわれも同じことだった

「ここにいたのか、家康うううう!
今日は久しぶりに武将の装束だ!喜べ!歓喜しろ!
上杉の忍の装束を作ったぞ!
拒否は許さない!家康ううううう!」

「っ!……っ……っ!」

声も出ないのか、ぶんぶんと首を振るばかりの徳川に同情する

「刑部っ!」

こちらを見る三成に冷や汗をかいた
こんな経験は二度とするまい、と思う程に苦痛を感じる

「刑部、どうしたら家康は常に私を兄上と言ってくれる?
何かいい案はないものか?」

「…三成、われが言えるのは一つよ」

「何だ?」

「ぬしは最低よ!」

「何がだ!?」

「ぬしは、真に最低よっ!」

「同じことをなぜ言い直した!?
まあいい、行くぞ家康!
刑部、邪魔をしたな」

青い顔をして引き摺られて行く徳川を、
生まれて初めて哀れだと、そう思った



不幸とは?
われは答えよ
それは徳川、と…






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