透 明 な 光
佐助が笑う
それだけで、俺の心に光が差すんだ
小田原の桜を見に来ないかと誘った
来ないと思ってた
だって佐助はいつも忙しくて
休みもろくに無いくせにヘラヘラ笑って
本当に武田が好きだって知ってるから
来ないと思ったんだ
大切にしてる虎の若子から離れることなんて無いと思ってた
「よっ、風魔」
『…来たのか』
「来いって言ったのはあんただろ?」
あきれたようにため息を吐かれる
今この場所に佐助が居る
今なら何だって出来るような気がした
嬉しくて嬉しくて、飛びついてしまいたいと思った
風魔に花見に誘われた
俺たちに、接点らしい接点なんて皆無だ
戦場で刃を交えること位しかない
ずっと見ていた相手だ
伝説とまで言われる風魔小太郎
少なからず興味があった
血のように赤い髪
身一つで軽やかに空を舞う姿
対面した時の圧迫感
その全てに目を奪われた
こんなにも美しい生き物がいるのかと思った
ずっと、声を聞いてみたかった
名前を呼んで欲しかった
休みをもぎ取る為に死に物狂いで働いた
真田の旦那の言いつけに、文句も言わずに従った
俺のあまりの必死さに同情したのか何なのか、ようやく貰えたみ休
朝と無く夜と無く走り続けて、ようやく見えた後姿
抱きついてしまいたかった
でも、真っ直ぐに背筋の伸びた背中は綺麗すぎて、手を伸ばせなかった
「すっごいね〜。俺様感動だよ。桜なんてどこも同じだと思ってた…」
佐助の言葉が嬉しい
俺が綺麗だと思った物を同じように思って貰えることが、嬉しい
同じ場所に立っていることが、どうしようもなく嬉しい
満開の桜を背負う佐助は満面の笑みで、とても綺麗だ
夕焼け色の髪が青い空によく映える
『…お前に、戦以外での小田原を見せたかった』
俺に声があったらいいのに
佐助、と呼んでみたいのに
「うん、ありがと。すごく綺麗だ」
『夢の中に、いるみたいだ』
「そうだねぇ」
佐助がここに居ることが、夢みたいなんだよ
なんて言える訳が無い
好きだと言いたい
抱きつきたい
名前を、呼びたい
本当に、夢みたいだと思った
桜の中に立つ風魔はあまりにも美しくて息が詰まった
真っ赤な髪は朝焼けのように眩しくて
白い肌は雪のように透明で
そんな風魔が隣に居ることが、嬉しかった
俺様にこの景色を見せたかったなんて、最高の殺し文句にしか聞こえない
「ねぇ、小太郎って呼んでもいい?」
『…』
驚いたように口を開け、何度も頷く風魔が愛しい
「…あのさ、小太郎が、好きだよ」
好き
好きとは何だ
俺の好きと、佐助の好きは同じ意味の好きなのか?
ぼんやりとしたままぐるぐると同じことが頭の中を回っている
俺を、好きだと言った
佐助が、俺を好きだと
『…俺も、佐助が好きだ』
思考は停止したままに、唇から溢れた想い
「…ほんと?」
『俺は、佐助に触りたい』
驚いた顔の佐助に向かってぼろぼろと零れる本音
我に返って羞恥が募る
俺は何を言ってるんだ
佐助の好きがそういう意味かなんて分からないのに
穴があったら入りたい
いっそもう消えてしまいたい
「小太郎、抱きしめていい?」
小太郎が俺を好きだと言った
触りたいと言ってくれた
薄っすらと頬を赤らめて俯いた小太郎に気付けばそう口走っていた
『……』
俯いたまま頷く姿の愛らしいことこの上ない
震えそうな手を伸ばして、優しく優しく抱きしめる
思っていたよりも細い体
頬に触れる柔らかな髪
抱きしめ返す小太郎の腕
「この幸せと引き換えに俺様死んじゃうかもしれない」
冗談抜きでそう思った
『…俺が、佐助を死なせない』
恥らったように笑う姿に胸が高鳴る
「小太郎、好きだ」
『俺も、佐助が好きだよ』
小太郎が笑う
それだけで、この心には光が差すんだ
((それは、眩しい程に透明な光))
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