ないものねだり











小太郎がぎこちなく笑う姿が好きだ

自分の感情が何であるか理解もせず、ただ形作られた笑顔
そうとしか動かせないように、いつだって同じ形にしか作られない微笑み

あまりにぎこちないその笑顔は、まるで嘲笑っているかのようにも見える
少しひきつった口元や、時おりひくりと痙攣する頬

いつまでたっても上手く笑えない小太郎が好きだ

「ふふ、小太は笑顔がヘタクソだね」

そう言って顔を覆う深紅の髪をかきあげてやれば不思議そうに瞳を揺らし、またぎこちなく笑う

「ヘタクソ」

『…どうしたら、佐助みたいに笑えるんだ?』

「小太郎には無理だよ」

『……そうか』

何の感情も浮かばない顔でじっとこちらを見詰める小太郎に笑いかける

「俺ね、上手く笑えない小太郎が好きだよ」

『………そうか』

「うん、そう」

よしよし、と頭を撫でてやれば目を細め肩口に額を擦り寄せてくる
大きな猫のような小太郎を抱き締めて、その赤毛に口付けた

『佐助、俺は佐助の笑う顔が好きだ』

小太郎が甘えるように体を預け、無垢な瞳に惜しみ無い愛情と信頼を映す
能面のような無表情から、数少ない感情を読み取ることにも随分慣れたものだと思う

『佐助が笑うと眩しい
目が眩んで、足元が真っ暗になったみたいになる』

可哀想な小太郎の口は事実しか紡げない

他人の感情の機微なんて察することは出来ないし、
そもそも自分の感情さえ把握出来てはいないのだ

『佐助みたいに笑えたら何か分かるかと思ったけど、俺には無理なんだな』

微塵も残念とは思っていない顔で小太郎が息を吐く
その吐息に揺らされた髪が首筋を撫でるのがくすぐったかった

「うん、小太郎には無理だよ」

小太郎の柔らかな髪に指を通し、くしゃくしゃとかき混ぜる

俺の笑顔で小太郎の目が眩むなら笑い続けてやりたい
真っ暗な中にずっといればいいと思う

何度小太郎がそう思ったって、その先なんてありはしない
羨ましいとか、悔しいなんて、小太郎が思うことはない

そんなのは、狡いじゃないか

伝説の忍に俺はなれないのに
自分の強くなりきれない部分を知っているのに
俺には切り捨てられないものがあるのに

羨ましくて、苦しくて、惨めで、殺してしまいたくなる

俺は小太郎みたいな忍になりたい

俺だって、伝説の忍になりたかったよ!

「…小太郎は、ずっとそのままでいてくれよな」

『……?』

「分かんなくていいよ
そういうお前が好きだから」

『…分かった』

分からないままの顔をして、一つ頷く小太郎の髪を撫でる

俺は、いつまでたっても上手く笑えない小太郎が好きだ






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