花冠











佐助が笑うのは嬉しい
でも、今はそれが嫌いでたまらない
なんだかんだと優しい佐助が好き
でも、誰にでも優しいところは嫌い

俺だけを見ててくれよ

ねぇ、俺だけに笑いかけてくれよ

「そしたらさー、かすがのやつまた怒って…
小太郎?どうしたの?」

ふるふると首を横に振り、
黙って佐助の手を握る

それが俺に出来る精一杯

「もー可愛いなぁ」

頬に唇を寄せる佐助からは
あの女の匂いがして、
楽しそうにあの女の話をする佐助に
なんだか泣きたくなった

「かすがもほんと素直じゃないよなー
あんな美人でスタイルもいいんだからさぁ
ニコニコ笑ってればいいのに、勿体無いよなぁ」

確かに綺麗な顔をしていると思うし、
出るところは出ている体をしていると思う
真っ直ぐに軍神を見つめる姿を何度も見たし
佐助に向ける苛立った顔も見たことがある

『…仲いいよね』

「あははー、俺様は仲良くしたいんだけどねぇ」

佐助の言葉にもやもやしたものが胸に広がる

付き合ってるのは俺だろう
いつも好きだって言うじゃないか
体を繋いだのだってもう数え切れないほどなのに
なんでそんなことを俺に言うんだ

『…帰る』

「え、小太郎?」

驚いた声を上げる佐助を振り返ることも無く走り去る
もうこれ以上あの女の話なんて聞きたくなかった




「あ、小太郎」

わざわざ来てくれたのを放って帰ったのは
さすがに悪いことをしたと思い武田に行った

虎の若子が好きな団子と、
甲斐の虎の好きな酒
佐助には何が良いか分からなかったから
もし時間があるなら一緒に何か買いに行こうかと思った

佐助の姿を見つけて、それが間違いだったと気付いた

「…風魔小太郎!?」

あの女の驚いた顔と
へらへら笑う佐助

二人そろって花の冠を手にこちらを見詰めている

『…甲斐の虎と虎の若子に渡してくれ
…邪魔をした』

佐助に荷物を押し付けて
ぺこりと頭を下げ、
何かを言われる前に逃げ出した

見たくなかった
来なければよかった
そんなのは全部後の祭りで…

早く主の側に帰りたいと思った
どうでもいい用事で呼ぶ主が恋しかった
今ならいくらでも腰を揉んだり
肩を叩いたっていい

一人で居たら涙が溢れてしまいそうだった




ひたすら走り続け、
小田原についた頃には夕日が沈みかけていた

(佐助…)

頭の中ではあの女と笑いあう佐助の姿が
ぐるぐると回り続け、
苦しくて苦しくて膝をついて涙を流した

(俺が邪魔になったなら、そう言ってくれよ…)

(佐助が望むなら、この命だって喜んで差し出すのに…)

声の無い喉がひゅうひゅうと空気を吐き出す
焼け付くように痛む喉からは
どんなに叫んでも声は出てくれなかった

(佐助…)

「小太郎、足速すぎ…」

荒い息を吐きながら姿を見せた佐助に
涙を流しながら縋りつく

『佐助、俺がいらないなら言ってくれよ…』

苦しいんだ、と言って唇を噛み締める

「小太郎、俺様がいついらないなんて言ったの?」

優しく涙をぬぐわれながら、
困り顔の佐助が鼻の頭に口付けてきた

「俺様は小太郎をこんなに愛してるのに、
なんでそんなこと言うわけ?」

『…あの人が好きなんじゃないのか?』

ぐすぐすと鼻をすすりながら
そう訊ねて首を傾げれば、
佐助は苦笑しながら抱きしめてくれた

「かすがのことを言ってるなら違うよ
大切だと思ってるけど、
妹みたいなもんだからねぇ」

佐助の体温と穏やかな鼓動に身をゆだね
ぎゅうとしがみ付く

自分の勘違いだと分かってしまえば、
あまりの恥ずかしさに佐助の顔がまともに見れなかった

「でも嬉しいな、
嫉妬してくれたってことでしょ?」

にこにこと上機嫌に笑いながら
いい子いい子と佐助が頭を撫でる

「誤解させちゃってごめんね?」

『…俺が勝手に勘違いしただけだ』

「じゃーこれはお詫びね」

頭の上に置かれたのは
佐助があの女と作っていた花冠

「軍神にあげるから作り方教えろって言われてさぁ、
だったら俺も小太郎にあげようかと思って」

嬉しそうに笑う佐助があんまり綺麗だったから
怒りも悲しさも恥ずかしさも吹き飛んだ

ただ幸せだけが、満ち溢れた

『…ありがとう』

「許してくれる?」

佐助の言葉にこくりと頷き
近づいてくる唇に目を閉じた

佐助の頭の上で光る星が綺麗だと思っていた






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