真っ暗だ
いつもいつもいつまでも、出口なんてない
光なんて見えない
底無しの真っ暗闇

「こたろ」

無邪気に笑う佐助が嫌いだ

「愛してるよ」

嫌いだ
嘘つき
大嫌い

「大好き」

『あいしてる』

「うん。愛してる」

冷たい手が髪を撫でる
柔らかい唇が頬に触れる

「小太郎」

穏やかな眼差し
優しい睦言

全部全部、大嫌い

『佐助』

「ん?」

『すきだ』

「ん、大好きだよ」

嬉しそうな笑顔が腹立たしい

佐助は嘘つきだ
俺より大事なものがあるくせに
俺より好きなものがあるくせに

どうして好きだなんて言うんだよ

どうして優しく触るんだよ

どうして帰ってしまうんだよ

武田が大好きなのを知っているよ
虎の若子が、甲斐の虎が大切なことも
いつもいつもこき使われて、でもそれが嫌じゃないことも
知ってるんだよ

武田の話をする時にどんな顔をして笑うか佐助は知らないんだ

あんなに嬉しそうに
楽しそうに
優しく笑うことを、俺は知っているよ

どれだけ佐助が武田を大事にしてるか、知っているんだよ

俺だけを見て欲しい
俺だけの側に居て欲しい

そう言ったらきっと困った顔して笑うんだ

佐助が俺を選ばないことなんて、分かってるんだよ

佐助が一番大事なのは武田だって、知っているんだよ

愛なんていらない
側に居てくれたらなんだっていいのに
佐助は武田に帰るんだ
またねって笑って
少し寂しそうな顔して

何で俺が一番じゃないんだろう

こんなに愛してるのに
愛してるって言ってくれるのに

『佐助、俺を殺してくれよ』

「…こたろ」

佐助の冷たい手が首に触れる
何のためらいも無く力を込められる

僅かに高揚した佐助の瞳
寂しげに笑う顔はいつもの別れ際と同じで

自分の口元が上がるのが分かる
佐助には、俺が笑っているのが分かるだろうか

笑ったまま、見つめあう

「…大好き」

『…あいしてる』

何で力を抜くのか分からない



事切れた俺を抱きしめて、心の底から泣いてくれよ
俺じゃなきゃ駄目だって、泣き崩れる佐助が見たいよ

愛しているなら殺してくれよ

『佐助、あいしてるよ』

冷たい指先に口付けを落とした






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