『対局』 言葉の予感

先手  タカユキオバナ 後手  春山 

 未だ私たちが言葉を持たなかった頃、感動のあまり胸を割っていでた声が、捉えた世界をたった一音にしてしまったことから、音が世界を内包し、抑えきれぬ感動を響き返す心の化身であることを知った。この感動の一音こそ、発声した瞬間の心そのもの、意識の物質化に他ならなかった。

 言葉はその感動と感動の連続体、心の絆なのだから、本来ならどんな辺境で発せられた痛みも、すぐに我がものとして捉え、癒そうと働くに違いない。

 

 タカユキオバナ(1958年生まれ。佐野市在住)と春山  清(1937年生まれ。桐生市在住)は、互いが持ちよった相手の文章から感じ取った世界観を、彩色した一母音に変換しました。

 彩色は光を、母音は響きを表しています。これは同じ母音のある側面は光であり、また別の側面は響きであるといった光と響きを併せ持つ象徴的な形に変換したということに他なりません。こうすることで音の再変換と言葉としての再統一の可能性を模索するのです。

それまで意味やイメージを発生させていた文章を、強引に彩色した一母音に変換するためには、直感を働かる意外に手立てがありません。答えを導きだしたからといってそれが正しいとも間違っているともいえないし、何故そうしたのですかと尋ねられても、何となくそうしてみましたとしか答えようがありません。抽象化するということは論理的な思考では歯が立たないのです。曖昧で漠然としている不可解で混沌とした精神状態に置かれます。

こうした試みは言葉の大元にある音を再意識するためなのですが、重要なのは、一母音が全ての世界観を呑み込んでしまったというところです。抽象化された世界が一母音で統一されているのです。まだ時空もなく全世界をのみ込んでいるこの母音から新たな世界が生まれる予感を意識することができるでしょうか。

この母音から意味とイメージが生まれるよう音が連なり出すには、どんな流れがあるのでしょう。

オセロゲームによって導きだしたいと思います。

一母音で統一されているのですから、例えば同じ「あ」音の別の側面として「か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ、が、ざ、だ、ば、ぱ」の音が現れてくることにします。「あ」音の別の側面を、彩色によって「」のように表すことにします。この彩色された「あ」音から直感によって別の側面としての「か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ、が、ざ、だ、ば、ぱ」に変換するのです。

栃木美保、菅沼きく枝、山田 稔、佐竹阿爾、加藤直子、安藤順健、川島健二 長重之によって春山 清の四つ文章が、それぞれ色のついた一つの母音に変換されていきます。

そこから派生する音を先手タカユキオバナと後手春山清が上記した方法でひらがなに変換し、オセロゲームの駒の上に記して盤上にうっていきます。

音は互いに影響し鬩ぎ合い、時に自身のものが相手の響きに組み込まれたりしながら、どの方位からも読める歌のようなものを育んでいきます。

  このことからも分かるようにこのオセロゲームは、直感によって音が出現し、変換と再統一を繰り返す意識融合の場として位置づけられています。

 

 優劣や勝ち負けのない戦いが、顕れ出でるものの響きと消え去るものの響きを際立たせているのは、反転された世界にも失われたもの達のもう一つの歌が生り響いているからかも知れません。

 

 平成二十六年 二月                         タカユキオバナ

 

 

 

対局,言葉の予感

『対局』 言葉の予感 先手  タカユキオバナ 後手  春山 

 制作協力者

栃木美保、菅沼きく枝、山田 稔、佐竹阿爾 加藤直子、安藤順健、川島健二、長 重之

会期 2014年 21日(土)~223日(日)

足利市立美術館  特別展示室

 

 

対局,言葉の予感,パフォーマンス

 

 

このオセロゲームは、直感によって音が出現し、変換と再統一を繰り返す意識融合の場として位置づけられています。音は互いに影響し鬩ぎ合い、時に自身のものが相手の響きに 組み込まれたりしながら、どの方位からも読める歌のようなものを育んでいきます。

オセロゲーム

 

 

栃木美保、菅沼きく枝、山田 稔、佐竹阿爾、加藤直子、安藤順健、川島健二 長 重之によって春山 清の四つ文章が、それぞれ色のついた一つの母音に変換されていきます

春山 清の文章 究極根源を見詰める

春山 清の文章 究極根源を見詰める  彩色母音 名前 座表 変換音

 

春山 清の文章 生命は神秘 生態は罪業

春山 清の文章 生命は神秘 生態は罪業  彩色母音 名前 座表 変換音

 

春山 清の文章 死は至福

春山 清の文章 死は至福  彩色母音 名前 座表 変換音

 

春山 清の文章 座して死を待つ

春山 清の文章 座して死を待つ  彩色母音 名前 座表 変換音

 

 

 

「対局」を企画するための諸費用

 

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