「ウィルスの視覚」が立てた仮説

一瞑想と免疫の連立方程式の解は虚-

 タカユキオバナ

 

 光と闇の心底はふるえていた。あまりに圧縮された緊張がしばらく続いて、そいつは水鏡に姿をかえる。永遠がそこに爪をたてると小さな波紋が生まれ、それが宇宙になると・・・

 どの位あそんだろうか。ある者は目の起源として詩をよみ、またある者は言葉の起源として詩をよんだ。ある者は物質の起源として詩をよみ、またある者は意識の起源として詩をよんだ。

 ある日、こうしてできた無数の銀河の小さな系のさらに小さな星の一点から、限りなく小さな響きにもならぬ小声で「ちがうよ」とささやかれたような気がした。

 すると空耳かと思われたその声音に共鳴するかのごとくに、あちらでも「ちがうぞ」こちらでも「あやまりよね」「ちがうわよ」「まちがいだ」

 小さな泡粒はまたたくまに沸騰、津波となりうねって膨張し、とうとう全てをのみ込んでしまった。

 初めて何かを身龍ったような気がして、そいつはふるえていた。

 

 

199723日~11日  SPACEU(館林市)

 床から9種の短冊上の鏡を展示場壁面全体に沿って任意に立ち上げる。さらに目線の位置に遺伝子の塩基記号アデニンA、グアニンG、シトシンC、チミンTを配置めぐらす。

 自意識の仮説

 内なる円環から発する光の形は外に共鳴し、それとは気づかずに根源の響きを括っている。その個体に隣接する今は、たえず個体を成立させてきた歴史に逆転写される。個体の歴史は、隣接する他者をいかにして自己に変えてきたかの歴史である。38億年ともいわれる生命の歴史の中で、環境情報を持っている単位空間の律動するランダムな時空コラージュの内、等しい外が、この塩基配列のどこかの部分と同時に共鳴が起こり、それはたえず今、たえず今とあちこちを刺激し、共鳴現象がこの時空を行きつ戻りつするなかで、次第に円環として閉じるようになる。この円環は、一定の律動や定まった形を持っておらず、たえず躍動し刻々とその姿を変える。「意識する」の質はこの円環の律動と形で決まる。

 

 

1998122日~27日 SPACEU 

 4壁面中央、目の高さに「ここはどこ」 床中央の台座上に透明板ガラス(900×900×3ミリ)を載せ、多種多様なキャンディーで埋め尽くす。MDウォークマンにて参加者の声を録音。ウエ様封筒

 光合成機能を備えたⅩ人種

 例えば、この宇宙のどこかのⅩ銀河にⅩ太陽系があり、その第3惑星に地球が存在するとして・・・。このⅩ地球における生物進化史に、人間と非常によく似た光合成機能が備わったⅩ種がいるとしたら、そういった人々が住む惑星の文化や文明はいかなるものなのでしょう。

 他者を殺して食べるといったことから解放された時、この事に関係する一切の仕事から解放された時、私達は、どんな生活者になるのか。ここに住む人々の日常に興味があるのです。

 想像してみてください。私達の当たり前の欲望がⅩ人種にとってどのくらいの意味を持ち得るのかを。

 彼等の意識に迫りたいのです。

 

 

 39日 前回展の参加者101名の痕跡を情報加工 郵送

 仮説の展開

 自意識 日常 他者の思考上の風景 例えばキャンディー 死を加工して欲でくるむ 情報伝達の起源 食 絶えざる死の補填 ウエの連鎖として閉じる意識 他者の悲鳴の上に成立する自由 ウィルスの限界 自己存在 合鏡 未出現の記述 言葉の光源 夢 虚 身体 意識の書物 意識による統一 虚光 ないの受肉 働きだけがあった

 

 

 313日~22JAZZオーネット(足利市)

 壁面中央、目の高さに「たべればそこがきえてゆく」 天井全体から天蚕糸をたらし多種多様な「つまみ」を吊す。会場奥の柱に「闇のポスト」(133×176×1820ミリ)を設置。

 闇の入口

 満たされない魂、たべればそこがきえてゆく。しばらくするとたべられてしまった他者の痛みによってウエが再生される。痛みは身体的空間を強く意識することに他ならない。つまり死がウエを無限に再生してゆくのだ。

 

 

 622日 前回展の参加者70名の痕跡を情報加工 郵送

 合鏡

 自分をみつめる。

 自分を自身に転写し続けてゆくとやがて、非自己化して他者になってゆく。自分をみてみたいという欲望は、完全に自己を分化してしまう。ひよつとすると私達は、他者化した自己を見ているのかも知れない。

 

 

 77日~12日 有鄭館(桐生市)

 会場を暗室にする。第2回展の時、録音した参加者70名の声「ここはどこ」を会場内にシャッフル再生。床には迷路状に「死のテープ」、その上に任意の間隔で鏡、封筒、さらしの順に重ねて覆う(300個所)。封筒表に名前(参加者、友人、知人の肉筆をコピー)。中身はチューインガム、透明な袋、返信用封筒、ラベルニ片、メッセージ。

 闇の中

 達伝子上を歩いてみる。その律動する螺旋道をゆけば、個体を形成してきた時代のあらゆる環境が幻影化している。それぞれの許容範囲の限界点にサンプルとしての名前がおかれ、命と命を隔てるものの杭として境界線上に立つことになる。この先に行きたいような行けば戻れなくなるような所に至る幸運は、その肉体でのみ意味する精神の模索の限界である。この時空を超越したい欲望にとりつかれたもの達が、その総体の中から必ず出現してしまうということが存在の方向にはある。

 ウィルスの感染の歴史上に時折発芽した美しい名前をみつける。死を交換してきた証にできた光を受容するためのあなたの穴(すみか)である。さがしものはその穴の中にある。

 

 

 77日~820日 噛み終えたガムが前回展の参加者80名中56名から送られてくる。

 自分が自身を食べる。ウエた自身以外に、もはや外に満たすものがない時、ウエは内側に向かうのである。

 言葉の光源

 闇の中で自身の骸をさがしあてたあなたは、そこから封筒に変わりはてた自身のからだを持ち帰ってきた。そのからだには既にウィルス(メッセージ)が進入しており、自身の骸を食べるという行為がガムに託されている。

 非あなた化したあなたは、もう一度あなた自身の中に入り、もはや名状しがたい姿となって再び、あなたの口から眼前にあらわれる。

 この言葉の光源を読み解くためには、夢の中で何かを見ている時のあの目が必要になる。

 まなざしはあちこちに飛火し、重さにばけて僕の所に戻ってきた。

 

 

 91日~9日 寺前荘い室ろ室(高崎市)SPACEit(高崎市)

 木造のアパート寺前荘の二室に御影石(12×12×12センチ)百個を任意の間隔に設置。参加者によってSPACEitに運ばれる。SPACEitでは日替わりで友人たちの行為(展)が行われる。

 あなたの口からあらわれたあなたは、御影石に姿を変えてアパートで眠っている。あなたが来るのを待っている。再びあなたはさがさねばならない。

 魂の重

 日常に夢を演出すれば儀式となる。

 誰かの夢の中に実際に立つことになった実在のあなたは、夢をみている誰かを意識することなどめったにない。しかし誰かは、夢の光源にて確実にあなたをみている。

 誰かの夢に愛しきものの魂をかかえて立つ時、虚の働きがわかる。

 

 

 105日 噛み終えたガムの返信者にテレホンカードを郵送。

 ひふみ

 虚の働きにめざめた声が向かうところ、それは光の穴(すみか)である。

 

 

 1012日~22日 MOVE(赤城村)

 個体内部だとわかるように遺伝子の塩基配列にみたてたチューインガムを配置めぐらし、外部との接点は電話に限定しておく。

 この空間に観客がはいってくると、その人の自意識によってそこに「自意識」が発生するしくみである。外部からの刺激が電話(信号、声、音、響き・・・)によって入ると、そこに発生した「自意識」がとらえ、これを記録する。記録されたメモ(記憶)は、個体にみたてた壁面の塩基配列にはさみ込まれてゆく。

 仮説

 意識するの代替として記憶があり、記憶の代替として個体がある。個体は、意識があるの別の側面であり、虚の働きなくしてこれらのことは成立しない。同時に身体を「意識の書物」として読み解くことを可能にする。

 

 

 1219日~27日 SPACEU

 会場を暗室にする。4壁面、目の高さで穴の空いた鏡を配置めぐらす。

 虚光

 闇の中で鏡に向かい自分をみようとする。闇の一点からかすかに洩れだしてきた光によって自らがそこに映し出される。光源は虚像の中心から発せられたものだった。さらにみようとして近づけば、像は次第にぼやけ視点が光源まで達すると、その小さな穴から再び視界が開ける。そこには自分の本当の名前が浮かび上がって、さらなる奥に光を内在していることがわかる。

 

 

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