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カブトムシの選び方(通販編) |
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「なに、基本的なことだよ、ワトソン君。」
紫煙の向こうからシャーロック・ホームズに言われてしまいそうですが、あえてその基本的なことを、今一度、押さえておきましょう。
というのも、そもそも現在の昆虫の購入方法というものは、必ずしも店頭で、目で見て手にとってというものばかりではないからです。
高度情報化社会の申し子たる皆さんは、通信販売での購入だって、今ではごく普通のものとして行われていることと思います。
現に私のお店もインターネットの中にのみ存在していますし。
しかし、通販で虫を購入する際の手引きなどというものはなく、時折、実に痛ましい事故が起きているのも事実なのです。
そこで、もし私が買うのならという視点から、昆虫の選び方(買い方)を解説してみたいと思います。
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あぁ、これ、かっこいい!
この虫、欲しい!
そう思ったら、すぐに注文・・・?
いえいえ、ちょっと待って下さい。
その前に、幾つか重要なチェック・ポイントがあるんです。
まず、一にも二にも、そのショップの信頼度を確かめましょう。
信頼できないと感じたならば、どんなに良いようにみえる生体であっても、どんなにお手頃価格に思えても、絶対に買ってはいけないということは、商品が虫だからというだけでなく、ネット売買では、もう常識と言っても過言ではないでしょう。
では、その信頼度とは、一体、どういうものなのでしょう?
「訪問販売法に基づく表記」があること、なんていうのは、今時、あったり前ですよね。ここでくだくだと解説しても、無意味と思いますが、一応、少しだけ触れておきます。
ネットで商売をする場合、どんなお店でも「訪問販売法に基づく表記」を明記しておくことが法律で義務付けられています。
販売者の情報(代表者の名前や住所、電話番号など)、商品の受け渡し方法や支払いの方法など、取引上、重要な情報は全てここに記載しなければなりません。
これは消費者保護の観点から作られた法律であり、この記載がないようなショップとの取引をお考えでしたら、それなりのリスクを背負う覚悟をして頂く必要がございます。
さて、この部分で、もっとも確認しておくべき事はなんだと思いますか?
私なら・・・『死着保証の範囲』
最低限、ここだけは絶対に目を通します。
生体の売買の場合、最もお互いに嫌なことは、死着してしまうこと。
残念ながら、商品が生き物である以上、死着の可能性は常につきまとうリスクなのです。
従いまして、まず、この部分がどういう補償になっているのか、そこを確認しておく必要があります。
大概のお店では、夏季と冬季は、出荷日翌日の午前中到着ができる地域についてのみ、死着保証の範囲に定めていると思います。
ご自分のお住まいが、この範囲に入るかどうか分からないときには、お店の方に確認してみて下さい。
死着保証をきちんと書いてあるお店ならば、万が一の場合にも、誠意ある対応を期待できる場合が多いのです。
蛇足になりますが、到着日のうちに死着の連絡を下さい、と明記してある場合には、間髪いれずに連絡して下さいね。
蛇足ついでにもう一つ。
一番、判断に迷うのは、一応、生きて到着したが、どうも元気がなくて・・・まさに虫の息、というときだと思います。
こういうときも、すぐにその旨をお店に伝えるようにして下さい。
翌日に死んでしまった場合、死着じゃないから保証しませんと言われないためにも。 稀に死着ではなかったのだから保証はしないという強硬な姿勢のショップもあるようですが・・・私ならそういうお店とは、以後、一切、お付き合いしません。
例えば冬季であれば、寒さで弱ってしまったということもありますが、温度を上げてやれば回復するなど、経験豊かなショップの場合、適切なアドバイスを返してもらえる可能性が高く、生体の命を救えるケースも多々あります。 こういった観点からも、早期に連絡をいれることが重要になってくるのです。
逆に言うと、そういったアドバイス一つできないようであれば、それはいかに名が売れていようとも、全く信頼できないショップなのではないでしょうか?
ショップの信頼度を測る物差しとして、次にあるのは、過去のトラブルの有無です。
もしもあなたにクワ・カブ仲間がいるのでしたら、そっと聞いてみるのもいいでしょう。勿論、公の場所である掲示板で聞くのは甚だ失礼にあたりますので、これは厳禁です。
このとき、トラブルがあったお店だから・・・といって、引いていってしまうのは短絡過ぎです。 どんなショップでも、実際に経営しているのは人間であり、多かれ少なかれ、ミスは避けられません。
それが尾ひれ背びれをつけて、より大きなトラブルがあったように伝わっているだけなのかもしれませんよ。
一番、確認しなければならないのは、そのトラブルがあったとき、どういう対処をしてくれたのか。
ポイントはここです。
ピンチのときに、ショップとしての本当の真贋が顕れるのです。
それから、飼育する上での適正なアドバイスやヒントをくれるかどうか。
これもウェイトが高いチェック項目です。
ワイルド固体なら、どういう環境に住んでいるのかなど、ショップならではの情報を教えてもらえると、それが後にブリーディング・セットを組む際、非常に役に立つ情報になることが多いのです。
勿論、はじめたばかりの方でしたら、基本的なことを嫌がらずに教えてくれるお店がベストです。
その場合、サイトに書いてある飼育方法などは全て目を通してから質問して頂きたいと思いますが、丁寧な対応を心がけるショップというものはどんなにベーシックな質問であっても、きちんと対処してくれるものです。
そういうお店であれば、買った後で疑問がわいた場合にも、きちんと回答してくれることでしょう。売るまでは熱心に回答するが、売ってしまえばそれまで・・・というようなお店では困りますものね。
さて、一般論はここまでにして。
いよいよ、本当に深い部分、即ち、実際に昆虫を買うときの私なりの選択基準をお話していきます。
まずは、ワイルド成虫を買う場合から。
一つめのポイントは「現地の発生時期のどこに相当しているのか?」です。
発生初期に近い時期に入ってきたものであれば、産卵数も大いに期待できる良い固体に恵まれるチャンスが大きいでしょう。
しかし、もしも発生時期の終わりの方の固体だったら?
残念ながら、既に現地で産卵を済ませてしまった可能性が高くなってしまいます。
カブトムシやハナムグリは羽化後、暫くは蛹室や繭で時を過ごし、十分に成熟してから地上に姿を現します。彼らはすぐに後食を開始し、早い時期に交尾・産卵します。つまり、現地でキャッチャーが捕まえることができる固体というものは、早い時期ならば未産卵、或いはまだ少ししか産卵していない可能性が高いのですが、後期になるにつれ、産卵を終えた固体が混じる割合が多くなってしまうのです。
元気もあり、よく餌も食べるし符節もしっかりしている・・・
しかしながら、時期的に終わりの固体は、見た目はどうあれ、実際にはどんなに努力しても全く産まないケースが多いのです。
シーズン初期に入ってくる便は、多少、お値段も高いのが通常です。
しかし、どうあっても確実に累代したい場合には、一番最初の便を押さえることを強くお勧めします。
もちろん、2便目、3便目であっても、必ずしも悪い固体とは限りません。
これはリスクの問題なのです。
後発の便ほど値段も下がる傾向にありますが、その分、産まない個体である可能性も高くなっていくことは覚悟しておく必要があります。
次のポイントは「入荷してからどれくらい経過しているか。」です。
特にハナムグリについては、旬が短いものが多く、売れ残っているうちに歳を食ってしまうと、もう産まなくなってしまいます。
いつ入荷したか記載がない場合には、ショップに確認してみましょう。
もっとも、ショップの側も売れ残ると困りますから、ワイルド生体は早く捌きたいのが本音です。入荷後1ヶ月も残るようなことはまずないだろうと思いますが、そういった固体は幾ら安くても避けた方が賢明です。
「B品はどれくらいリスクを背負えるかで判断する」
A品、B品という表記を目にすることがあると思います。
前者はどこのパーツもかけていない、完全な状態のものを意味し、後者は符節が取れているなど、どこかに欠陥がある固体を意味しています。
当然、B品の方がよりお値段もお安く設定してあるのが通常です。
但し、A品といっても、ワイルドの場合、多少の爪先の欠けはA品扱いになることが殆どです。また、その程度ではブリーディングになんら支障はなく、どうせブリードしているうちに爪や符節は欠損していきますから、気にするまでもありません。
できるだけA品を買いましょう、ということは当たり前の論ですし、勿論、私もそれをお勧め致します。
問題はB品と表示されているものを購入するべきかどうかという点です。
大概は「爪」或いは「符節」が完全に欠損している場合、B品になります。
(そのほか、喧嘩による傷がついているものもB品扱いになります。)
こういったパーツは、輸送状態が悪くて欠損してしまうこともありますが、普通に考えると、やはり死が近くなったためにパーツが取れ始める傾向が強いと思われます。
つまり、B品というものは、やはり既に産卵を済ませてしまっている固体である可能性がグンと高くなるのです。
それでも、貴重な種類で滅多に手に入らないものだから・・・ということであれば、これはもう賭けです。分が悪いといってひくか、思い切って逆張りするか。
まずはショップにB品の程度をよく確認して下さい。
尚、♂の後ろ脚欠損は交尾時に踏ん張りが利きにくく、前脚は♀を押さえつけにくいため、できれば中脚欠損の固体を選ぶのがベターですが、元気のよい♂ならば、その程度の欠損もなんのその、しっかり交尾してくれることが殆どです。
このため、私はむしろ♀に欠損がある場合を非常に気にします。
「画像で生体の姿・色を確認する。」
例えば、文章による説明では「青固体」とあっても、実際、手にしてみると、緑がかっているような・・・
つまり、青といっても、個人の主観によって、かなりの差が生じてしまうのです。
画像とて撮影条件によりいろいろと変わりますが、店頭販売とは違い、実際に見て買うことが出来ない以上、念の為、画像で固体をみて、失敗を最低限に抑える慎重さをもつことも必要ではないでしょうか。
ムニスゼッチとだけ聞いて、買ってしまったら、自分が思っていたものではなく、別種のムニスゼッチだったという悲惨な実例があります。
ちょっとオーバーな話に聞こえますが、これなど、画像で確認できてさえいたら、避けられたミスなのです。
次は新成虫を買う場合です。
この場合は、「羽化した時期」と「後食を開始しているか」の確認が最も重要です。(後食とは、成虫になってからの食事という意味。)
羽化してから時間が経ちすぎている固体は、幾ら新成虫とはいえ、旬を過ぎてしまっていることがあります。
これでは流石にブリードには使えません。
特にハナムグリは、羽化後、割と早めに後食を開始する傾向にあります。
産卵に使える時期も限られていますので、羽化時期の確認は重要です。
ハナムグリはまさに「旬が命」なのです。
カブトムシの場合は、後食までに相当に時間がかかる種類がおり、後食しているかどうかが重要なポイントになります。
ネプチューンは、羽化後3ヶ月は後食しないこともざらです。
ティティウスシロカブトは自然環境下では、羽化後、なんと半年も寝たままといわれています。(ブリード固体はもっと早く後食をはじめます。)
つまり、羽化してから随分時間が経過した場合でも、後食がまだの固体であれば特に問題は無いわけです。
尚、即時ブリード可能固体という場合は、勿論、後食を既にはじめていることを意味するのですが、こういう場合にこそ、後食してからどれくらい経過しているのかを気にする必要があります。
ちなみに当店ではカブトムシなら後食開始後2週間程度を目安に交尾をさせますので、それくらいまでの期間内のものならば買い、それを超えるものは慎重に検討します。
くれぐれも新成虫だから大丈夫、と誤解しないで下さい。
売れ残りでトウが立ってしまったものは、安物買いの銭失いということもあるのですから。
次に幼虫を購入する場合です。
「種親を画像で確認しましょう」
幼虫売買のトラブルで一番困る筆頭は、羽化したら別の種類だったということでしょう。専門ショップでも、幼虫を右から左に転売している場合は、残念ながらこういう問題が発生しかねません。
この手のトラブルを未然に防ぐには、必ず親の画像を見せてもらうことです。
良心的なショップの場合、幼虫を仕入れてそのまま販売しているとしても、この時点で、ちゃんとその旨、告げてくれるものです。
もしもショップが自分でブリードしていない場合には、その取引にはそれなりのリスクが発生することを覚悟しておいて下さい。
大手だから。名が通っているから。ここなら絶対、大丈夫・・・
脅すようで申し訳ありませんが、そういう神話は、とうに崩壊しています。
「若令で購入しましょう」
3令幼虫を購入する場合、重さを気にされる方が多くいらっしゃいます。
一番、重いものを。一番、大きいものを。
そう要求されるわけですが、ショップとしては一番、よい個体を売りに出すとは限りません。
3令にもなれば(ゾウカブトでない限り)もうじき成虫になるわけで、当然成虫の販売の方が分がよいことは自明の理です。
一番優れた幼虫を販売に回すのではなく、2番手・3番手を売りに出すことの方が通常と思って差し支えありません。
これはずるでもなんでもなく、ショップとしてはむしろ当然なことです。
この部分を勘違いしないでくださいね。
ショップ経営とはボランティアでは決してないのです。
私から皆さまにお勧めしたいことは、できるだけ、はじめから初2令で購入するということ。
これが一番です。
初2令は価格的にも割りと安く、なによりも自分自身の手で大きく育てる楽しみがあります。
人の手で3令まで育てられた固体を、お金の力でえいや!と買うことも時間の短縮という意味では良いでしょう。
早く親の姿を見たいということも、また、正しい欲望と思いますから。
しかし、趣味として楽しまれる一般の方には、できるだけ、若令で手に入れ、時間をかけて少しずつ大きくしていく喜びを味わって頂けたら・・・と思うのであります。
最後にもう一つ。とても大事なことを。
「メールの返信が早く来ること。」
通販はメールでのやり取りが主なコミュニケーション手段となりますが、このレスポンスが小気味よくなされることが大事と思います。
勿論、ただ早いだけじゃなく、内容もしっかりとしたものであることが必要ですが、安心できる取引の基本は、なによりもコミュニケーションをきちんととることだと確信しています。
どんな商売も、最後は「人」なのです。
いろいろと述べて参りましたが、或いはこれが一番大切なことなのかもしれません。
<まとめ>
1.ショップの信頼性を確認
@訪問販売法表記(これが無い通販ショップは法律違反)
特に死着保証の範囲
Aショップの評判
過去、トラブルがあったかどうか/その対応は真摯だったか
仲間うちでそっと聞くこと。(掲示板で聞くことはご法度)
B飼育上の適正なアドバイスやヒントをくれるか?
2.ワイルド品
@発生時期のどこに相当するか
A入荷してどれくらい経っているか
BB品の場合、どのくらいの程度なのか
C画像で固体を確認
3.新成虫
@羽化した日にち
A後食の日にち
4.幼虫
@親虫を画像で確認(幼虫を転売しているときは要注意)
Aできるだけ若令で買いましょう。
5.メールのレスポンスの速さ |
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