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ペアリングのコツ

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交尾を嫌がる♂や♀に頭を悩ませたことはありませんか?
それも、ここで追い掛けしないと有精卵にならないことが分かっているというときに限って、交尾を拒否されてしまい、やきもきする・・・
これは、少しブリードを齧った方ならば、誰でも経験することなのかもしれません。今回は、そんなエマージェンシーにどう対処したらよいのかを特集します。


まず、広く一般的に、交尾を拒絶する理由を考察してみましょう。
考えられるケースとしては下記のようなものがあります。


A.性成熟が十分でない場合
B.老衰している場合
C.病気を持っている場合
D.先に交尾した際の精子をまだ持っている♀の場合
E.気分が乗らない場合


一番、最後のは嘘だろうと思われるかもしれませんが、他の原因が見当たらず、存外、これが原因だったということが結構あるものです。
そして、このケースが実は一番、ブリーダー泣かせでもあるのです。
詳しい対処法は後ほど、詳しく述べます。


ハナムグリの場合、自分で繭を割って出てきた固体は、すぐに後食し、即時、交尾するという凄まじさです。いや、それどころか、後食などしなくとも、交尾して卵を残すことさえやってのけます。
(「後食」とは、成虫になってからの食事の意。 餌を摂取しない蛹の時を経た後に、食事を再開することから、後食といいます。)


もとより彼らは頻繁に交尾する連累であり、丸カップなどの小さな空間に雌雄を入れておくだけで、勝手に交尾してしまいます。
こと、彼らについて言えば、交尾に応じないことがあるとするならば、それはせいぜい老衰か病気くらいが原因となりましょう。


ということで、本件はカブトムシに絞って検討していきたいと思います。
では、一つずつみて参りましょう。


A.性成熟が十分でない場合
カブトムシは、羽化した直後は蛹室の中でじっとしており、後食も行わないのが通常です。種類により異なりますが、2,3週間して蛹室を脱出し、活動を始めても、まだ、十分に性成熟したとは言い切れない場合が殆どです。
一般的な目安としては、2〜3週間程度、後食した後に交尾というところでしょうか。
一部の小型カブトの中には、後食開始後3ヶ月して、やっと性成熟という実に晩生(おくて)な種類さえおります。


従って、後食して間もない固体が交尾に応じないということは、当然なわけであります。 この場合は、更に時間をかけて、十分に性成熟させてから再チャレンジするということが正解です。


B.老衰している場合
反対に老衰してしまっている固体は、交尾したくても元気が出ないという状態なわけでして、無理に交尾させることはあまりに気の毒といえます。
すっかり晩年を迎えたペアを見ていると、お互い、もう交尾はしたかないね、などと会話しているかのような、まったりとした動きをみせ、何度、けしかけても、匂いを嗅ぐだけで、一向にその気になってはくれません。


こういう固体に、若い相方を組ませて無理やり交尾を成立させるという方法もありますが、これは下手を打つと、ショック死させかねません。
大体、若い固体は、歳をとった固体とは交尾したがらないこともしばしばですし、よしんば交尾が成立しても、その後、卵は0だったなど、やはり老成固体は役に立たなかったんだということが、後になって判明したりするものです。


結論として、このケースは、すっぱり交尾を諦めるべきと考えます。


C.病気を持っている場合
後食は十分にしているし、見た目もとても健康なのに、交尾が成立しない。
観察していると、どうも相手を攻撃したり、すぐに避けようとする行動をとる・・・こういうときは、何らかの病気を持っている個体という疑いがあります。


当店でも、ごく稀に♀においてこれが発生したことがありました。
見た目はなんともないのですが、その♀はいかなる♂も交尾を嫌がり、攻撃さえしかけました。
同じ♂が、別の♀をきちんと孕ませていることから、原因は♂側にはなく、明らかに♀に何らかの事情があると推測されます。


動物や昆虫は、健康な子孫を残すことを本能的な優先事項としており、相方に何かトラブルがある場合、交尾を避けようとするのが一般的なのです。


このケースの場合は、♂・♀のいずれに問題があるのか、複数のペアによる組み合わせで切り分けを行い、病気をもっている固体は、交尾を諦めざるを得ないという結論になります。


D.先に交尾した際の精子をまだ持っている♀の場合
今は精子はいらないのよ! もう、十分なの! という♀は、凄い勢いで交尾を峻拒します。
こういう状態の♀が相手では、いかな交尾上手な♂をもってしても、相当にてこずり、結局は諦めるのが通常です。
とにかく逃げたがり、指で前胸背を押さえつけ、無理やり交尾をさせようとしても、後ろ足で掻き出すように抵抗して、♂の交尾器から身を守ります。


これほどの抵抗を示したならば、無精卵を産んでいないなどの根拠がある場合、精子が十分に足りている状態と考え、無理に交尾させることはやめた方が無難です。


以前、立て続けに連続2回、交尾させ、ショック死させてしまったという苦い経験があります。
♀にとっての交尾とは、本当は激しく命を削る行為なのかもしれません。


E.気分が乗らない場合
上記のどれにも当てはまらない場合、即ち、若く健康的なペアで、性成熟も十分、その上、♀はそろそろ種切れを起こしている・・・
なのに、交尾がうまくいかない、というケースです。
まさに、ブリーディングをしていて、最も悩ましいシーンの一つですね。


虫にもお互いの相性があるのかもしれません。
妹タイプがいいんだけど、とか、頼れるおじさんじゃないと嫌なの、とか。
しかし、現実にはそうそう、とっかえひっかえできるほどの固体を所有しているわけじゃなし、この際、多少のことには目をつむって頂いて、なんとか子孫を残してもらわにゃぁなりません。


そこで、このような場合に有効な方法を幾つか紹介しましょう。


まず最初は、ずっと同居生活していたペアならば、いったん、別居させてやるというものです。
1週間程度、お互いの匂いも嗅げぬように別々に管理してみます。
その後、もう一度、めあわせてみると・・・


「離れてみて、改めてあなたの良さが分かったわ。」
「お前っ!」
「あなたっ!」


  ・・・失礼しました。
冗談はさておき、私の経験では、意外にもこれは結構な効果がありましたので、まずは試してみて下さい。


次は「♂はやるき十分なのに、♀が交尾を拒否する場合」の対処法です。


本来、♂は交尾前に、口で♀の前胸背を舐めたり、触覚で優しくタッチしたりと、♀を徐々に「ソノ気」にさせていく愛撫を行うものです。


その過程で逃げ出す♀ならば、逃げ出すだけの事情があるわけで、また、いざ挿入となったときに逃げる場合にも、♂の愛撫がヘタだったとか、何らかの原因がある場合が殆どです。


では、その原因の最たるものとは、一体、なんでしょう。


『花より団子』


そう、♀とは、そういうものなのです。


まず、そもそも、『♀はおなかいっぱいじゃないと交尾したくない』という習性があることを押さえておかねばなりません。


ちなみに、これは何も虫に限った話ではありません。
若い男性諸君は、必ずメモリにインプットしておくべきですぞ!


つまるところ、このケースに対する対処としては、♀にたくさん餌を食べさせてから、ということを前提にしないとなりません。


特に一通り産卵を終えて餌を食べに上がってきた♀は、かなりお腹がすいている状態です。
まずは数日間、十分に食わせてやりましょう。
その上で、そーっと♂を♀の上に乗せてやると、あっさり交尾が成立することがしばしばです。


大方の失敗は、♀がまだお腹がすきまくっているうちに、もう、交尾、即ち、次の出産の準備を迫るということにあります。
どのような場合であれ、「せっかち」は嫌がられるのであります。
・・・なんだか、少々、耳に痛い話ですが。


ちなみに、♀が餌に夢中になっているときに♂を乗せてやるとよいなどと言われていますが、♂が乗ってきた後でも、のんきに食べているような♀を私は殆ど見たことがありません。


交尾に適した大きめの材や、しっかり足がかりとなる台を用意して、そこでちゃんと交尾させた方が、より確実な結果を残します。
狭い餌皿の上での行為は、交尾器がきちんと挿入されているかの確認も不十分になり、あとで痛い目に遭わないとも限りません。


さて、それでも、尚、交尾をしたがらない♀の場合はどうするか。
こうなったら、もう、介添えが必要です。
頭と前胸背を指で押さえつけ、逃げられないようにして無理やり・・・


うーん、もともと、カブトやハナムグリの交尾は、かなり強姦のイメージが強いのですが、こうなると益々ですね。
この場合にも、あまりに♀が嫌がるようであれば、また、後日にしてあげて下さい。


♀の足を輪ゴムで体にグルグル縛りつけ、緊縛プレーで交尾を成立させるという超荒業もございますが、これはもう、こういう奥の手もあるのだという知識だけに留めておきたいものです。


続いて「♀はやる気があるのに、♂にやる気がない場合」です。


♀の背中に乗っかったまま、匂いを嗅ぐだけで、一向にソノ気にならない♂というものは、見ていて実に不甲斐ないものです。
その上、途中でやる気を失い、愛撫ひとつもせんで、所在なげにしている様子をみると、同じオトコとしては、


ええい、そこをどけっ! オレに代われ!


と、いっそ怒鳴りたくなる・・・わけないか。


若さの盛りを過ぎ、下り坂に差しかかった♂や、反対に若すぎる♂というものは、往々にして「ソノ気」が続かず、もういいやという、少々、投げやりで、アンニュイな雰囲気を漂わせがちです。


こういう♂の風上にもおけぬ輩を奮い立たせる効果的な方法とは・・・


『ベリーダンス』


はい、♂とはそういう生き物なのです。
これに反論できる♂は人類を含め、この世にいないものと私は確信していますので、もしも反論してきても、一切、耳を貸すつもりはございません。


さて、その具体的な方法は、♀の体を指でぶるぶる震わせてやるというものです。まるで、嫌よ、嫌よといわんばかりに。


すると、なんたることでしょう。
先ほどまで、眠っていたような♂の目の色が、俄然、変わり、奮起してくるではありませんか。
嘘のような話ですが、実際に試してみると、魔法のように効果的で、その鋭い切れ味にきっとビックリされるでしょう。


尚、この方法でも、全く興奮を催さない♂は、もはや♂ではありません。
ベリーダンスをみて、なんとも思わなくなったときは、静かに回顧録でも書く季節になったと考えて差し支えないのであります。

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