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採れないときには

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交尾もさせたし、成熟も十分に進んでいる。
セットもバッチリ組んでいる。
なのに、全然、採れない。
卵のかけらさえ見つからない。


そんな悲しい経験、ありませんか?
一体、何が間違っているのか。
セットを暴くたびに、悩みで頭が白くなってしまう・・・


こんなとき、どこを改善してゆくべきなのか。
分かっているようで分かっていない、採れないときに見直してみるべき項目について、今回は特集します。


まずは、基本的な事柄から。


といっても、実はこれから述べる超基本的なことが、案外、足をひっかける要因になっていることも多くて、ベテランでも時々躓いてしまうくらいです。
だから、基本だといって決して馬鹿にせず、まずはこちらから、しっかりとおさえて参りましょう。


<産卵しない要因 −基本編−>


1.固体の成熟度


若すぎる固体ということはありませんか?
もしくは年寄りすぎているということは?


産卵適齢期というものが、やはり虫にもありまして、この範囲にないものはどんなにがんばっても無駄足になってしまいます。


羽化して間もない♂は、♀を妊娠させるだけの能力がまだ備わっていないことが多く、かりに交尾させても不発に終わってしまうことが殆どです。


例えばヘラクレスの場合、後食して少なくとも2、3週間以上、経過した固体であることが望ましく、それ以前のものは即時ブリード可能とは言い難いのです。こうした固体は、交尾はできても、♀に無精卵を産ませる最たる原因になってしまいます。


一方、♀の場合は後食して2週間もすれば交尾させても差し支えはありません。実際、野生のカブトムシの♀は蛹室から脱出後、早い時期に交尾を済ませることが知られています。
しかしながら、産み始めるのはもっと後になることが殆どであり、やはり、たっぷりと後食した後の話となります。


これは、♀にとって、産卵という大きな行事を行うためには、その前に十分な栄養をとっておく必要があるからです。このため、この期間中には、たとえ♂の精子を受け取っても、体内で保存しておくに留め、産卵に適した状態になってから、ようやく産み始めることになります。


ちなみに♂の精子は、袋状のもので♀の体内に受け渡されます。
どうやら構造的にある程度の保存がきくようになっている模様です。
この♂の精子嚢は、ハナムグリなどでは時折、マット表面に落ちていることがあり、観察することができます。


以上の点から、特に新成虫で手に入れた場合には、いつから後食したのか、その点をしっかりチェックしてブリード計画を立てるようにしてください。
尚、ハナムグリの場合は、後食開始が、即ブリーディング開始と考えて差し支えありません。


次に、年を取りすぎている固体を検証してみましょう。


♂は、それでも交尾意欲があれば、有効な精子を得られる可能性が高く、実際、殆どの場合は良い結果を残しています。


もっとも、あまりに年をとると♂も交尾意欲を失いますので、そうなった固体に鞭打つことはやめて、この場合は♂を交換してやることが本筋となります。


♀の場合、高齢になってくると交尾を嫌がることが多くなります。
また、産卵数が減ってきたり、産んでも小さい卵になってしまったりと、産卵できる時期が終わりに近づくにつれ、今までとは違うシグナルを出すようになってきます。
(稀に最初から最後まで一定量で産み続け、ばたっと死んでしまう♀もおりますが、大方は上述のような傾向で産卵末期を迎えます。)


こうした♀については、もうたくさんの産卵を期待すること自体が間違いです。 飼育者の腕の良し悪し以前の問題なのです。


ワイルドで入手した固体については、特にこうした老化の程度というものが非常に重要なキーポイントになってきます。
現地でどれくらい産んでいるのか分からないため、どうしても当たり外れがでてしまいます。


もしも、幾つかの固体を選択できるチャンスがある場合には、あまりに体重の軽い♀は避け、出来るだけ持ち重りのする固体を選ぶようにしましょう。
産卵後期の♀は明らかに体重が減ってくるため、スカ♀を掴まないためには少しでも重い固体に賭けることが肝要となります。


2.マットの劣化


この頃のマットは、どうも劣化するまでの速度が速いような気がするのですが、皆さんのところではいかがでしょうか?


どのメーカーさんのものも、ずば抜けてよいといえるものがなく、ある点では優れているが、別の点についてはちょっと・・・というものが大半のように感じます。別段、悪口を言いたいのではなく、マット・メーカーさんの更なる努力と奮起を促したいのであります。


いまや、我々、飼育者としては、こうしたマットがもついろいろな「癖」をしっかりと把握して使っていくことが肝要です。


マットの調整方法については、後段で深く述べますが、その前に。
そもそもマットが劣化していないか、チェックしてみましょう。


どんなマットであれ、また、どんな調整を施したものであれ、時の経過とともに劣化が進んでしまったマットには、まずもって昆虫は産卵なんぞ致しません。


ところで、そもそも劣化とはどういう状態をさすのでしょう?


代表的なものは、菌糸がすっかり回ってしまい、マットが一塊のブロックになってしまっているような状態のことです。
こうなっては、全く産卵には不向きで、幼虫が得られたらかなり稀有なことといわざるを得ません。


この他、キノコが生えてきているマットや、線虫が湧いてボロボロに変質してしまっているマット(多少の線虫は問題ありませんが)も、やはり劣化している状態と変わりなく、使い続けることはできません。


こうした状態になっている場合は、即時、マットを全量交換する必要があります。


ハナムグリの場合、卵が小さく見つけ難いため、万が一を慮って普通はいきなりマットを捨てることはなく、1ヶ月程度、別途保管しておくのですが、このケースだけは例外的に全量、廃棄してもまず問題ありません。
劣化したマットには、経験上、99%、卵は産み付けられておりません。


3.容器の大きさと雌雄の同居・別居


カブトムシの場合、小型のもの以外は、本来、交尾を確認したならば、♂♀別管理とし、♀は産卵に集中できる環境を作ってやることが最も好ましい状態です。
特にコーカサスやアトラスなどのカルコソマ属は、交尾を拒否する♀を挟み殺してしまうことがあり、絶対に同居は薦められません。


そこまでしない種類であっても、♀を見れば目の色を変えて交尾したがる♂が、いつも地上をうろうろしている環境で、♀が落ち着いてゼリーもすすれないという状態は、やはり、産卵効率を下げるものといわざるをえません。


少し、具体的に例を挙げましょう。
アロエウスやサイカブト程度の大きさのものならば、プラケースの中や大を使う場合は同居させても問題ありません。
このクラスはサイズが小さめであることと、♂が♀を虐め殺すことが、まずないためです。


国産カブト・クラスになってくると、同居させるのであれば、プラケースの大くらいは使ってやった方が無難です。交尾後、♀のみで産卵に集中させたい場合には、もう一ランク落として中サイズでもいけますが、たくさん幼虫をとりたいのであれば、やはり大以上のサイズが必要になってきます。


大型クラス(ヘラクレスなど)の♀になると、これはもう、完全に、単体でプラケースの大を専有させてやらなければなりません。
超ヘビィ級の♀(ゾウカブトなど)ともなれば、プラケースの大でも事足りず、ジャンボという、更に一回り大きいサイズが好適です。


では、反対に、もしもサイズの割りに狭い容器を与えてしまったら?


それでもなんとか産卵はするかもしれません。
しかし、非常に産卵数は少なく、本来、産めるはずの数は得られない結果に終わってしまうでしょう。
特に♂を同居させたい場合(同居可能な種類に限りますが)、さらに広いスペースが必要となり、無理に狭い所に雌雄を押し込めると、ストレスで短命に終わることも珍しくありません。


実は、案外、この部分で失敗している方も多いので、産卵スペースに関しては、今一度、見直してみても損はない項目ではないかと思います。


産卵時期くらいは、思い切って広い空間でのびのびとさせてやって下さい。
きっと、よい結果が得られるはずですから。


4.落ち着いて産める環境? 弄りすぎてない?


これは実際にあった、お客さまからのご相談。
お話を伺うと、セットの仕方は間違っていないし、固体も元気で、なぜ産まないのかさっぱり分かりません。


「いつみても産んでないんですよ。」


とおっしゃられるのですが、実はここに問題が潜んでいました。
この方は、殆ど、毎日のようにセットをひっくり返しては、産卵を確認していたのだそうです。


これはちょっとオーバーな話に聞こえるかもしれませんが、心配だとて、このように毎日、セットをとっかえひっかえ弄ってしまっては、産むはずの固体も産まなくなってしまいます。


やはり、静かに落ち着いた環境を維持してやること、そして、一度セットしたら、そのまま暫くは様子をみることが大事です。


どのくらいそっとしておけばよいのかは、いろいろな考え方がありますが、当店では少なくとも2週間から1ヶ月程度は餌交換だけを行い、それ以外は極力、触らないでおくようにしています。


「やるだけやったら、あとは信じて待つ。」


ちょっと精神的な話になってしまいますが、ブリーディングには、そういった面も、確かにあると思うのです。
ブリーディングの神様は、信じる者の元に舞い降りるのです。


また、かわいいからといって弄繰りまわすのも、ことブリーディングを目的としている場合には、やはり、考え物です。
いたずらに固体を弱らせる原因になりますし、とくに羽化して間もない新成虫などは、たちまち弱って、短命に終わってしまうことさえあります。


お気持ちはとてもよく分かるのですが、大事な虫だからこそ、あまり触らずにおく。その我慢が後で結果に繋がってきます。


さて、ここから、いよいよブリーディング・テクニックの佳境に入って参ります。本当は無料で教えてしまうのは、あまりにも惜しい!と思うような事も、この際、しっかり伝授しますので、最後まできっちり読んで下さいね。
まずは、マットなど産卵のベースとなる素材について考察致します。


<産卵しない要因 −応用編−>


1.マット


『カブトには、真っ黒に熟成したカブトマット』
これは、いまや一般的な外国産カブトのブリーディングにおける常識といっても過言ではないでしょう。
表現はいろいろありますが、要するに「二次発酵済み」の黒腐れしたマットが、カブトのブリードには欠かせないということです。
このことは様々な文献に記載されており、ちょっと齧ったことがある方なら誰でも知っていることと思います。


実際、殆どの種類がこのようないわゆる「カブトマット」を使うことで成功を収めています。
反対に、クワガタなどで使うような熟成が非常に未熟なマットを使うと、いったいどうなるのでしょう?
幼虫は拒食、成虫は産卵しないなど、全く成績がふるわないであろうことは容易に想像がつくと思います。
また、実際、その通りであることは、当店でも実証済みです。


しかし、この常識、必ずしも全ての種類に当てはまるものではないということをご存知でしたか?


カブトの中には、実は比較的発酵の浅いもの(私は若いマットとよんでいます)を好む変わり者がいるのです。
そして、そういった種類については、反対に、よく黒腐れした完熟マットでは、全くといってよいほど産まなかったり、幼虫が育たなかったりするのです。


この事実に気がつくまで、とても長い時間をかけてしまいました。
はなっからマットは完熟したものを使うと決めてかかっていたからです。
その他のあらゆる要素を排除し、何回もテストを繰り返した末に、ようやくマットが違うということに気がついた次第です。


具体的にどの種類が若いマットを好むのか、その記述は差し控えておきましょう。そこまで明かしてしまっては、ブリーディングの面白さを半減させてしまうと信じるからです。
およそブリーダーたるもの、ここまでの実際を知れば、あとは各々の領分で健闘するべきなのであります。
・・・などと書くと、ちと意地悪に過ぎるので、ひとつだけヒントを。
滅多に入手できませんが、「アリゾナ産の小さなカブト」です。


さて、これと同じことがハナムグリにも共通していえます。
一般的にハナムグリは、カブトよりも更に発酵が進んだマットがよいと考えられていますが、極端な話、全く発酵していない枯木状態のものに好んで潜行する幼虫がいるのです。
そして、その親はやはり若いマットでないとちゃんと産んでくれないということもわかってきました。


大概の場合、幼虫は黒腐れしたマットでもよく育つため、産卵条件はまるで正反対であるということに、なかなか気がつかないものなのです。
いや、それどころか、わざわざ腐葉土を混ぜて更に発酵度合いを進めた状態でブリードをしてしまうこともしばしばです。
なぜなら、普通はそういった状態を好むハナムグリが大変に多いと考えられているからです。
この結果、ベテランのブリーダーが失敗し、始めたばかりの素人が却って成功するといったことも起こってくるのです。


常識と思われることが、実は全く通じない場合がある。
だからこそ昆虫のブリーディングは奥深く、面白いのであります。


ところで、このように書くと、では、クワガタ用の殆ど発酵が進んでいない生木のようなマットを使えばいいのかと曲解されてしまう恐れがありますので、そこのところを詳述しておきましょう。


私がいっている若いマットとは、見た目は黒っぽいのですが、実は短期間に温度をかけて発酵を進めて作った製品を意味しております。
これは乾燥が進むと、妙に薄茶っぽい色になってくるのでそれと分かるのですが、水分を含んでいる状態では一見して分かり難いのが特徴です。


この手のものは、ありていに言うと、急速発酵させた安価な製品に多く見られます。
具体的な製品名をここに掲げることは致しませんが、必要な方にお教えすることはやぶさかではございませんので、その際にはご連絡下さい。


種類によっては、発酵の未熟なマットを産卵床や餌として好むものがいる。


この点を頭の隅っこに記憶しておいて下さい。
いつか必ず役に立つときがくると思います。


2.腐葉土の効用


上記とは反対に、うんと発酵した状態のマットばかりを好む種類もいます。
実は大方の外国産カブトムシは、この部類に属するものが殆どです。
そして、これらの幼虫の中には、発酵度合いがかなり進んだものを与えないと、拒食してしまうものさえおります。
幼虫の食性がこの通りですので、成虫の産卵床としても、やはりよく発酵したマットが要求されることになります。


こうした虫たちには、黒腐れした良好な状態のマットを使うことができたらベストです。
しかし、最近のマットはロットによっても発酵度合いがまちまちであり、そういつも都合の良い状態の物が手に入るとは限りません。


そこで、このような場合の対処法として、マットに腐葉土を混ぜ込むことで好適な状態の産卵床や餌を作ってやるようにするテクニックがあります。


腐葉土はマットの性質を和らげる効果があり、マットの1/3程度の量をよく混ぜてやると、非常に柔らかくフカフカしたものが出来上がります。


こうしたマットは、特に東南アジア産のハナムグリに対しても有効なケースが多く、腐葉土はもっておくと重宝するアイテムといえます。


但し、腐葉土を手に入れるときには、必ず殺虫剤が入っていないものを選ぶようにして下さい。お店の方に聞けば分かりますので、必ずこの点の確認を怠らぬよう心がけて下さい。


尚、殺虫剤が入っていない分、トビムシなどが混在しているケースが散見されます。この場合、夏場ならば日中、表に出して高温処理するなど、事前に一手間を加えると、後々、より清潔に利用することができます。


3.黒土の効用


黒土は、一般的に蛹化を促す材質として重宝されています。
適度な湿り気を有する粘土質の黒土は、蛹室を作るのに大変、適した素材です。何かの条件が気に食わず、なかなか蛹室が作れなくてマット表面で暴れまくっている幼虫も、この黒土を底に厚く敷いてやると、あっという間に蛹室を作ってしまうという「魔法の土」なのです。


さて、この黒土ですが、産卵のベースとしても、なかなか有用に使うことができます。
ただ、カブトよりも主にカナブン・ハナムグリの産卵に適しておりまして生みが悪い難物や、産卵条件が読めないものへの切り札となります。


これはつまり、いざとなったら使うというほどの意味合いなのですが、それは、黒土が一般のマットとは違い、産卵が終わった後に餌として流用することができないという欠点があるためです。


しかし、他への流用が効かず、使い回しに難があろうとも、黒土は産卵を促す効果が高く、当店では、どうしても生まないというケースにおいて、最終的に用いるとっておきの手段となっております。


使い方はいたって簡単で、ケースの底に3〜5cm程度、敷きつめ、その上に軽くマットをつめてやるだけです。
黒土は上から押さえて固めなくとも、ある程度、密度が詰まっているのでざっくりとつめても大丈夫です。


尚、黒土は製品によって品質にばらつきが認められます。
色が真っ黒で、きめが細かく、適度に水分がある(握って崩れない)ものがよいのですが、中にはこれは使えないというほどのひどいものもありますので、お買い求めになる際には十分、注意してください。


4.湿度


よく外国産カブトムシのブリーディングには「握って崩れない程度の湿度」にマットの水分を調整すると記述してあります。私もサイトのノウハウのコーナーにはその通りに表記しています。
これはカブトムシ全般に当てはまる法則といってもいいくらいの、非常に基本的な約束事だからです。


シャーロック・ホームズなら、こう言うでしょう。
「なに、基本的なことだよ、ワトソンくん。」
いえ、それくらい、ベーシックなことのように思われているという意味なのです。


しかしながら、この水分量というものが、実際には種類によって、本当はその好むところが異なっているのだということをご存知でしょうか。
勿論、彼らの適応範囲の中に入っていれば、産卵はするのでありますが、しかし、その種にとっての最適な湿度であるのかどうかは、これとはまた別の議論になるのであります。


そして、中にはこの「握って崩れない程度」の湿り気では、全くもって適応範囲を超えてしまい、まるで産卵できない種類も確かに存在しております。 そういう類のものに当たると、いくらその他の要因が適合していたとしても、やはり産まないままで終わることも珍しくはありません。


もう少し具体的に説明しますと、カブトの仲間には水分量がずいぶんと多いマットに好んで産卵するものと、アフリカ産のハナムグリのように少々水気の抜けたものを好むようなタイプがいるのです。
そうして、これらのタイプのものたちの中には、その好みの極端さから普通程度の湿り気では産卵を嫌がるものがおります。


これはどこの国の出身だから一律こうと決まったものではなくて、産地は同じようであっても、実際に生息している環境の違いから生じてくる習癖によって、産卵に必要とされるマットの水分量が変わってくるのであります。 従って、これはどこどこ産だから、きっとこうに違いないといった程度の曖昧な判断では、往々にして見当が外れてしまうことがあるのです。


キノコを採るときには、同じ種類に見えたとしても、一つ一つ、それが食べられるものか判断しないとならないのと同様に、カブトにしても、本当はどういう湿度が最適なのか、一種毎に検討する必要があります。
「握って崩れない程度」というものは、おおざっぱに産卵条件をカバーする表現であると心得ておいた方が、かえってうまくゆくのです。


さて、それでは更に具体的な例を挙げましょう。
水分量が極端に多いマットを好むものとしては、「キャンデゼ」や「ビロバヒロヅノカブト」などがおります。
これらについては、握るとじゅわぁっと水気が出てくるくらいに加水してやらないと産み出しません。(この特性を生かして、産卵させたくない時には渇き気味のマットで管理するというテクニックもあります。)
しかし、実際にどのくらい加水すればいいのかという計量的な目安を示すことは実はとても難しく、こればかりは各人の飼育環境によりけりでして、例えば乾燥しがちな季節であれば、思いきって水を足し、べちょべちょになる寸前くらいまでに調整してやっても構いません。反対にじめじめした季節であれば、マットの乾燥もさほど進まないでしょうから、湿り気具合はそれなりの手加減を加えてやる必要があります。
感覚的な表現で甚だ恐縮ですが、こんな感じなのだというニュアンスだけでも伝わってくれたら幸いです。そして、失敗を恐れずにどんどん挑戦してみて下さい。自分なりに加湿具合というものを掴んで頂くことが、成功への近道になるとみて間違いありませんから。


「クリイロムナクボカブト」などは、「握って崩れない程度」とこの大量加水マットのちょうど中間くらいの湿り気を好む種類です。
このような種類については、水分調整が少々厄介なように思われるかもしれませんが、決してそのようなことはなく、詳しくは後述しますが、要するにやりようというものがございます。


反対に少し乾燥気味の環境を好むものとしては、「アリゾナツノカブト」がおります。といってもやはり極端な乾燥は駄目で、少し湿り気が薄いかなという程度が好適となります。
但し、この種は少々厄介な側面があり、本当は湿度よりももっと産卵条件として重要なファクターはマットの質にあります。先に記載した内容を思い返して頂けると見当がつくと思いますので詳述は致しませんが、この手のカブトの産卵ではマットの質をいじることに精力を傾けることがむしろ正解になります。


このように述べてきて、恐らくもっとも分かりにくいのは、ではこの種は一体、どの程度の水分量を好むのだろうという部分ではないでしょうか。
特に今までにもあまり飼育された数の少ない珍種については、情報もなくて加水するべきなのか、はたまた乾燥を進めるべきなのか、大いに迷うところと思います。 生息環境が分かれば、多少なりとも想像はつくのですが、必ずしもそういった情報が得られないという場合もあります。それに産地や標高といった情報から推測した湿度では、思い切り条件を見誤るという場合もなきにしもあらずです。
では、こういったケースではどうしたらよいのでしょうか。


この場合に有効な方策としてお勧めな方法が一つございます。
この方式、実は当店の奥の手なのでありまして、今までにもこれを使うことで、産卵条件のよく分からないカブトたちを増やしてきたという実績があるちょっと自慢の手法なのです。
さて、その方式とは何か。


一言でいってしまうと「グラデーション」をつけるということなのです。


なぁんだ、そんなことか、なぞと仰ってはいけませんぞ。
これがいかに凄いことなのかは、いろいろ苦労したことのある方にはきっと分かって頂けるだろうと思いますので、私もあまり強くは書きませんが、どうしても産まないのでお願いしたいとブリードを頼まれた厄介者たちを今までに何回もこの「グラデーション効果」で陥落させてきたのだ、とだけいっておきましょう。


では、湿度のグラデーションをどうつけたらよいのかを説明します。
マットの底面は十分に湿らせ、上部に行くにつれて乾燥を進め、一番上の層は、これはもう思い切り乾燥しているという極端なほどのグラデーションをつけてやるようにします。
これは時間があるときならば、水分を多く含ませたマットで底を普通に固く詰めて、その上に同じ水分量のマットを柔らかく入れてやれば、このまま放置することで上から徐々に水分が抜けてゆき、自然にグラデーションがついてくれます。
しかし、すぐにセットしなければならないような場合には、底は水分を多くして固め、中間には握って崩れない程度、その上には乾燥気味のマットを敷くといった、積極的な工作でグラデーション構造をケース内に作ってやることもできます。どちらにするかは各々の条件に合わせてご検討下さい。


このグラデーションをつけたセットで産ませると、卵の産み付け方は実に様々でしたが、それぞれ好きな湿度の層に産んでいることが分かります。
底面の固めた層の上部分と柔らかい層の境目に産むもの、もっと上部の乾燥した層と中間層の間にばら撒き産卵するもの、勿論、大方のものは一番下の固い層に卵室をこさえて産むのですが、ことブリード困難種といわれるものについていえば、この産み方一つとっても、千差万別なのがよくみてとれてなるほどこれでは普通には産むまいと納得させられるのであります。


皆さんも、ちょっと手強いなと感じる種類にぶつかったら、是非、試して見てください。切れ味は保証つきですから。


5.温度


さて、最後はいよいよ温度です。
これについても、殆どの飼育書には「25℃前後」と記述してあると思います。しかし、これまた、実はほぼその温度帯が、いろいろな種類にとっての適応範囲内であることから、この25度飼育説が生まれているのです。


実際には、これだけいろいろな世界からカブトムシがやってきているのですから、それぞれに本来、ぴったりくる温度があってしかるべきなのです。
そして、これまた湿度と同様、この適応範囲であるはずの温度帯ではどうにも産まないという種類が、こちらは割と多く存在しております。
また、25℃近辺でも産むものの、やはり産卵数は本来好む温度で管理した場合に比べ、著しく少なくなってしまうという種類もおります。
これなどは25℃近辺というものが、適応できる範囲ギリギリにあるということなのでしょう。


温度についていえば、標高の高い、涼しい産地出身のものならば、本当は25℃よりも低い温度が適しているのだということは容易に想像がつくだろうと思います。サターン、ネプチューンをはじめ、クリイロムナクボカブトや東南アジアの小さい種類のものなどは、その多くが実は低めの温度で飼育してやった方が産卵成績は良いのです。


大概の種類は、孵化した後の飼育は25℃近辺かそれ以上でもなんら問題が生じないことが殆どです。
しかし、こと産卵について言えば、22℃近辺、ものによっては20℃まで下げて然るべきということさえあるのです。


どの種類がそうなのか、これは生息している標高や緯度、気温といった情報から比較的簡単に割り出せるだろうと思います。
但し、ごく例外的にこれを裏切るものがおり、Heterogomphusなどは殆どが低温を好むのですが、一部のものは25℃以上からでないと産まないというトリック・スター的なものがおりますので注意が必要です。


少し余談になりますが、どうもこの温度というもの、私には22,3℃で太い線が引かれているように感じてなりません。
そこから上の温度で暮らすもの、それ以下の温度で暮らすものと、大きく二つに分かれているように感じてならないのです。
僅か2,3℃の差だと思うのですが、もうそれだけで、産む、産まないがこれだけくっきり分かれたり、或いは産みが途端に悪くなってしまうことを鑑みると、どうもこの22,3℃という温度を境にして、ブリードの成否が大きく変わってしまう何か得体の知れない分水嶺のようなものが、ここにはあるように感じてしまうのです。
地図にみる赤道の赤い線。あれのように、実際には存在しない線が、この温度という部分にもあって、それが22,3℃というところで黒々と引かれていて、虫たちを分けている。そんな風につい想像してしまうのです。


25℃近辺では産みの悪いカブトムシがいたら、ちょっと温度を疑ってみて下さい。2,3℃下げただけでも、ぐぐっと成績が変わってきますので。


さて、このように産まないときにはどうしたらよいのか、そのテクニックを紹介して参りましたが、実際にはこれらの複合技で決めていってもらうことになります。
例えば、温度は低めでセットは水分多目だとか、温度は高めで湿度はグラデーションをつける。或いは底には黒土を入れ、上部には腐葉土を混ぜるといった具合です。


どの方式がどの昆虫にぴったり来るのか、あとは貴方の想像力にかかっています。経験と知識も大事ですが、ことブリーディングに関しては、想像力というセンス、これが何よりも大切だと私は感じています。


この虫はどういうところに住んでいるのだろう、標高は高いのか、そこは寒いのか暖かいのか、そういったことも、虫を眺めているうちにだんだんと分かってくるようになるかもしれません。
最初は文献や知人などを通して情報を集めるのもいいでしょう。
カブトムシは勿論、何も話してはくれません。でも、じっと観察しているうちに、そのうち文献などに頼らずとも、これにはこういうセットが向いていそうだということが直感的にピンと閃くようになると思います。
これは或る程度の知識と経験を積んだ方なら、きっと誰でもそうなるはずであると私は直覚しております。
そうして、このような勘が働くようになったなら、失敗してもいいから、それを信じてやってみることです。そうやって、新しいブリードの技術が生まれてくるのです。


同じ種類を飼育している仲間たちがいて、その誰もがうまく幼虫を採れていない場合、あとは思い切り突飛と思うようなことをやってみるべきなのであります。なぜなら、常識で思いつくような事柄は、大体が既に他の誰かが試しているからです。それで上手くいかないのですから、何か全く別の視点でものを見る必要があるのです。


そうやって、例えばカブトは高めの温度で飼育するものという一つの定説が覆され、種類によっては20℃くらいでやった方がいいということも分かってきたのです。水分が大目でないと駄目な種類だということも、マットをヘドロ状になる寸前まで加水してみて、あわや失敗というところで産卵に成功しただとか、こういった冒険が成果を結んだりするのであります。
勿論、その裏には失敗も多くありますし、何度も泣いたりもしますけれども、その代わり、成功したときの喜びは、これはもう言葉では表しきれぬものがあり、栄光に包まれた貴方の胸はきっと熱く燃え上がることでしょう。


全てのカブトムシ・ブリーダーに、挑戦者であれかしと願いつつ、この章を終えることに致します。

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