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今月の一言

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 先月の中頃、八年間、一緒に暮らした雌の犬が死んだ。
 お腹に大量の水が溜まり、苦しそうで歩くこともままならなかった。
 医者にも連れて行ったのだが、原因は不明。
 最後は餌も食べられず、臥せったままとなった。


 あまり苦しまずに逝ってくれたのが、せめてもの救いだった。
 もっと遊んでやればよかった。もっと一緒にいたかった。もっと、もっと・・・・・・その夜、私は嗚咽をこらえることが出来ず、冷たくなった体をさすりながら、涙をこぼし続けた。
 なかなか目を瞑ってくれなかったが、なでているうちに、やっと目を閉じてくれた。その顔は穏やかだった。


 雄犬は連れ合いが逝ったことが分かるらしく、暫くの間、悲しげな声を出して元気がなかった。
 甘えん坊で、体は親犬よりも大きくなったのに、いっかな子どもの気分が抜けない息子の犬は、母犬の死が理解できない様子で、いつもと変わらない無邪気さであった。


 翌日、ネットで調べたペット葬儀の業者に引き取られ、その日の午後には小さな骨壷に納まって帰ってきた。
 祭壇らしきものを作って写真を飾り、線香の代わりに香を焚いて手を合わせたら、少しだけ心の中で何かが落ち着いた気がした。


 悲嘆の底に落ちた我が家だったが、その日の夕方、事態は一変した。
 公園に捨てられていた子猫を、娘が拾ってきたのである。


 しかし、うちには既に犬がいる。
 猫なんて、どうするんだ?
 事情を聞くと、他にも三匹、子猫が捨てられていたそうだが、そっちはなんとか引き取り手を探したとのこと。しかし、この一匹だけは誰も貰い手が見つからず、仕方なく持ち帰ってきたという。
 明日、もう一度、友達と一緒に飼ってくれる人を探す。そう娘は言う。
 ならば、今宵一晩限りだぞ。そう念を押したのだが・・・・・・


 帰宅した妻が、一目見るなり言った。
 「生まれ変わって、もう戻ってきたの!」
 その言葉で、私の心も揺れた。
 もし、翌日、どうしても引き取ってもらえないようだったら、仕方ない、うちで飼ってやるとするか・・・・・・


 それから2週間と少し。
 痩せっぽちで、骨が浮いて見えるような身体だった子猫は、見違えるほど大きく成長し、家の中を駆けずり回っている。
 犬たちは、子猫の姿を見かけると、ワンワン吠えかかるが、少しずつ猫の方も慣れてきたようで、さほど動じなくなってきた。


 悪戯盛りである。
 夜になると布団に忍び込んでくる。
 遊んで欲しくて、しょっちゅう、手足を甘噛みする。
 出かけるとき、一緒に行きたそうな顔をして、玄関で四足を揃えてじっと見送る。


 猫は正直、苦手だったのだが、最近ではすっかり情が移ってしまった。
 本当に生まれ変わりなんだろうか?
 それは良く分からないけれども、家族にまた明るい笑顔が戻ってきたのは確かだ。

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