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今月の一言

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14日のホワイトデーに、オペラを観にいく。
作品はドニゼッティの名作「愛の妙薬」。地元ソニックシティで夕方5時からの開演だ。


ところで、昨今の若い女性の間では、バレンタインデーに、男性にではなく、自分自身にチョコを贈ることが密かに流行っていると聞く。メーカーの戦略にうまうまと乗せられているといえばそれまでだが、ならばホワイトデーに私が自分へのご褒美としてオペラを鑑賞してもよいのではないか? 理屈の上ではいいはずだ。と、妻には説明しておこうと思う。


実は生まれて初めて、オペラを生で観る。
今までに数回、ビデオで眺めたことはあるのだが、どうしてもオペラってものが好きになれなかった。
まして、ホールに足を運んでまで観ようなんて気には、到底なれなかった。


オペラでかかる曲やアリアには、大好きなものがいっぱいある。
自宅にいるときは、しょっちゅう、CDを大音響でかけて聴きまくったりもしている。
モーツァルトの魔笛「夜の女王のアリア」、サン・サーンスのサムソンとデリラ「あなたの声に私の心も開かれていく」、ウェルディのアイーダ「清きアイーダ」、フェラーリのマドンナの宝石の間奏曲・・・・・・ううっ、なんだか無性に聴きたくなってきた。


音楽的にはOKなのに、では、なにゆえオペラ自体は観たいと思わないでいたのか。
一つには、オペラが原作の言葉で演じられるということにある。今回の場合は、イタリア語で台詞が話され、字幕で日本語が流れるらしい。


なぜ日本語で演じないのか。歌はイタリア語でもいい。いや、下手な日本語訳で歌われるくらいなら、わけのわからんイタリア語の方がずっとマシだろう。でも、台詞部分くらいは日本語でもいいじゃないか。
映画だって、この頃は日本語吹き替え版が上映されているのだ。原作の味が損なわれるっていう、マニアックなご意見もあるだろうが、しょせん、庶民が楽しんでなんぼの芸能ではないか。変に気どってみたところで、屁のツッパリにもなりゃしない。わかりやすく、親しみやすい方が、観客の入りだっていいはず。興行的な成功あってのオペラであり、いかに高尚で芸術性が高いものだったとしても、お客が少なきゃ、そりゃ失敗なんだから。


モーツァルトだって、イタリア語のオペラには辟易して、だからドイツ語でオペラを作った。
007を演じたショーン・コネリーの吹き替えは、若山玄蔵に限る! いや、オリジナルのコネリーさんの声より、むしろ玄蔵さんの声の方がぴったり来る! という世代の私にとっては、日本語でオペラを演るってのもよいアイデアだと思うのだが・・・・・・オペラ業界の方には、ぜひ一度ご検討頂きたいと心から願う。


だが、これはまだ我慢できる。字幕を追いながら劇を楽しむことは、疲れはするが、やってやれないことではない。
問題は、ビジュアル的に許容できないということにある。


大体、世界的に高名なオペラ歌手というのは、肉体的にも世界的な方が多い。身体を楽器とする商売なのだから、基本、やせっぽちじゃぁ務まらないってことはわかる。
バイオリンやチェロをご覧あれ。
深みのある音を奏でるには、それなりのボディってもんが必要になるのは、自明の理ではないか。


天は二物を与えずという。歌声の美しさという才能に恵まれたオペラ歌手に、だから容姿端麗であることを求めるのは、そもそも天をも恐れぬ無体な要求ってことになるのであろう。
まぁ、ルックスは仕方ないよ。人のことをとやかく言えたもんじゃないし。諦めもつこうってもんだ。


ただ、やはり絵的には、どうしても納得できないんだなぁ。
おなかの出っ張った闘牛士が、私の胴回りの二倍はあるであろう、豊かな体型のカルメンに愛を囁くことが。
素直に共感できないのだよ。
どうみても女性にモテそうにない油ギッシュな中年男と、20年前には可憐だったであろう、今では白粉ばかりが目立つ女が、若い男女の役柄で、激しい恋に落ちてしまう、などというシチュエーションが。


優れたオペラ・ファンというものは、こうした事柄については当然のこととして脳内処理することが求められるという。また、その処理に優れているからこそ、彼らはオペラに浸れるのであろう。
ってなわけで、オペラを観る場合、歌手の外見については、「それを言っちゃぁ、おしめぇよ」という暗黙の了解事項ってことになっているらしい。


そりゃまぁ、ルックスと若さが売りのアイドルに、オペラ歌手が務まるはずもない。
だが、ビジュアル的には、やはり若い子がヒーロー、ヒロインを演じた方が、観る側としては心地よいに決まっている。
このあたりの機微をオペラ業界も敏感に感じ取っているのであろうか。最近の試みとして、オペラを映画館で公開するという動きがあるが、生の舞台ではない、作り物の世界という要素をうまく逆手にとって、主役は若い役者が勤め、歌はプロのオペラ歌手が吹き替えで歌う、なんていうのが出てきた。
いっそ、すっきりしたやり方ではないだろうか。少なくとも、これなら観る側に、無理な脳内処理を強いずに済むわけだし。機会があったら、ぜひ一度、観てみたいと思う。


さて、話を戻すが、ことほど左様にオペラを忌避してきた私なのだが、とうとうその禁を破る。
なぜか。
理由は簡単だ。
この土曜日に観にいくオペラは、主役が美男・美女なのである。
ヒロインのアディーナは森 麻季、ヒーローのネモリーノ(ヒーローというには、ちと役柄がコミュカルだけど)は、あの錦織 健なのだ。
誰も文句のつけようがないだろう。現在の日本オペラ界で、美貌と実力を兼ね備えた最強のコンビといっても過言じゃないのだから。


という次第で、もう、何ヶ月も前から楽しみで仕方ない。
きっと最高にハッピーな時間になるに違いない。
特に、情感あふれる男心を切々と歌い上げる、第2幕の「人知れぬ涙」。この一曲を聴きたいがために、行くようなものなのである。期待してやまない。


席は奮発して、1F9列目の特等だ。
もうすぐ開演のときがやってくる。
私の耳には、早くも、オーケストラの音合わせが聞こえはじめている。

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