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今月の一言

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 曇天の日曜日。
 息子と山に登ってきた。
 といっても、標高わずかに305m。
 埼玉は日高市にある山で、その名を日和田山という。
 この高さでは山登りというよりも、ちょっときつめの散歩というべきなのかもしれない。


 男坂、女坂の2コースがある。少しは骨があると思われる男坂を選んだ。
 途中、わりといい感じの急斜面があり、確かに噛み応えがあった。
 木の根や岩場を10分ほどよじ登ってゆくのである。
 だが、標準40分で山頂というコースだ。
 中年の私と中一の息子の、のんびりしたペースでも、30分足らずで到着してしまった。


 物足りない。
 あまりにもあっけない。
 脇の下にじっとり汗をかいたが、それでおしまいである。
 そりゃ、見晴台からの展望は絶景だった。
 曇りの日だったのにも関わらず、眼下に広がる景色は感動的な小さな世界だった。
 夜だったらきっと日高の町の夜景が綺麗だったに違いない。
 だが、いかんせん、短すぎるのである。


 ただ、それでもやっぱり山は山。
 空気が違う。
 行き交う人々の顔つきが、山特有のそれになっている。
 すなわち、みな友達モード。
 普段、絶対にありえない、知らない者同士が「こんにちは」を連発する不思議空間。
 下界でどんな暮らしをしていようが関係ない。
 若かろうが、年寄りだろうが、金持ちだろうが、貧乏だろうが、男だろうが女だろうが、そんなことは一切何の意味ももたない。 ここでは、一人残らず、優しくていい人になってしまう。


 道を譲る。
 端による。
 危ないところでは声をかける。
 我先にと電車に乗り込み、席を確保しようとするような人でも、きっとここでは別の自分になっている。


 だから私は山が好きなのかもしれない。
 人が心の奥底に眠らせている優しさの一端に、少しでも触れることができるから。


 若い頃は、なぜとはなしに登っていた。
 あれから20年もの歳月が経つ。
 すっかり消えていたはずの山への思いが、ふわぁっと掻き立てられたような、そんな気がした。


 息子も山歩きが気に入ったらしい。
 次はもう少し高い山に行ってみよう。
 雪が降るまで、まだ少し時間があるから。


 今の自分は、もうあまり無理はできないと思う。
 でも、まだやれる。
 自分の限界は、もっともっと遠い先にある。

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