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今月の一言

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どのような仕事であれ趣味であれ、一意専心の上、これを継続していると、やがて、より効率的に作業を進めてゆくための「ちょっとしたテクニック」が身に付いたり、自分なりの「ジンクス」或いは「予感」が備わってくるものです。
これは、その道を熱心に追求しているプロの方なら、誰でもきっと心当たりのある事柄だと思いますが、昆虫のブリーディングについても同じことがございます。


私の場合、「ちょっとしたテクニック」というものは、例えば産卵セットから幼虫を回収するとき、事前に頭数をカウントしなくても、ぱっと見た感じで、幼虫を入れるのに必要なカップの数が分かってしまうということです。
始めの頃は、最初に幼虫の頭数を数え、それからカップを必要数だけ取り出しておりました。 が、今では「なんとなくこれくらい」でカップを掴み出し、幼虫を入れていくと、ピタリとその数が一致するようになったのです。
これは蓋についても同様で、幼虫を入れたカップの数を数えなくても、ガバっと袋に手を突っ込んで適当と思う量を掴み出し、蓋をしてゆくと、丁度の数で見事に使い終わるのです。
こういったことは、一見、つまらないことのように思えますが、一度に処理する量が半端ではない為(ハナムグリの場合、1種類につき数十〜数百頭)、作業時間の短縮という面では、案外、馬鹿にならないものがあります。


しかしながら、いつでもカップの数が幼虫の数と一致するかというと、実はそうでもない時がたまにあるのです。
そりゃ、人間なんだから外すこともあるさ、と思われるでしょうが、こういうときは、大抵、何かありまして、それは余ったカップの数の分だけ、本当は回収し損ねている幼虫がまだセットに残っているということなのです。 これが私の「ジンクス」であり、もう一度、マットを篩い直してみると、果たして幼虫が発見され、それを入れてゆくと余っていたカップが丁度なくなるという具合になります。


先日も、マックレーツヤカナブンの幼虫を産卵セットから回収しているときに、カップが一つだけ余ってしまったことがありました。
これはてっきり、いつもの伝で、まだ、幼虫が残っているな・・・と、マットをもう一度、篩っていったのですが、どうしても探し出せません。
ジンクスも当てにならんな・・・
ちょっと残念に思いながら、1つだけ余ってしまったカップを片付け、マットを廃棄するために、ざーっと容器に移していると、キラっと光る親虫の姿が一瞬、目に留まりました。
あっ、まだ親が生きていたのか!
そこで作業をストップ。 慌てて探してみると、それは死んでバラバラになった親虫の前胸背部分でした。 が、なんと、そのすぐ横に、小さな幼虫の姿が!


この産卵セットは、あまりにも長い間、放置したため、気が付いたときには菌糸がかなり回り込み、マットがブロックのように固まっていました。 ほぐしてゆくと、独特な非常に強い菌臭が立ち昇り、こうなると、まず、普通はハナムグリが産卵することはありません。 だから、きっと、菌糸が活発になる以前に産んだものが、数十匹、幼虫になって生き残っていたのでしょう。
こういう劣悪な環境でも、精一杯、子孫を残した親虫。
その子が、私のミスにより危うく廃棄されてしまうところを、きっと、この親は死んでからも必死になって守ったのでしょう。
この出来事については、なぜかそう思えてならないのです。

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