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昆虫王邸 潜入ルポ

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居酒屋にて

H17.11 さいたま市大宮駅周辺の某居酒屋にて。
左:昆虫王 長畑氏  右:大宮の金之助


プロローグ

テレビチャンピオン(TVC)昆虫王・長畑 直和氏。
他の追随を許さぬ該博な昆虫の知識で、ライバルたちをまったく寄せつけず、圧倒的な強さで昆虫王の座に輝いたことは、未だ記憶に新しい。
ユニークなキャラクターと、なによりも虫が大好き!という、純な少年の心の持ち主である。颯爽としたその雄姿を、ブラウン管の向こう側に目撃したことのある方も、きっとたくさんいらっしゃることだろう。
テレビへの出演ばかりではない。氏は、講演や雑誌への記事掲載など、昆虫の面白さを伝えるための様々な活動を第一線で行っていらっしゃる、まさに現役バリバリの昆虫マニアなのである。
勿論、その活躍の本領は、啓蒙活動ばかりにあるのではない。
フィールドこそ、氏の最も得意とする分野であり、国内はもとより、海外にまで、その長い長い捕虫網を伸ばし、美しくも可憐な昆虫たちを片っ端からかき集めてきた、我が国が誇る昆虫界屈指のエース・コレクターなのである。
所有する標本の数は、平成18年時点で、ゆうに11万を超えているという。TVC昆虫王の称号は、決して伊達ではないのである。


さて、仰々しい前書きはここまでにして。
はじめて長畑さんとお会いしたのは、何年前であったろう。もう十年くらいはおつき合いしてきたように感じてしまうのだが、実際にはおそらく三年ほどではないだろうか。


あるとき、私はマットを買いに来たいというお客様からの電話を頂いた。その一本の電話が、長畑さんとの最初の出会いであった。
当時、私は、見ず知らずの方にあまりブリードルームを覘いてほしくないと考えていた。ノウハウの漏洩が心配だっただけなく、実際に不幸な事故も起きてしまっていたからである。だが、なぜか、このときは、自分の方から「見てゆきますか?」と誘ったように覚えている。
長畑さんとは、最初からピーンと胸に響くものがあった。犬が一目で犬好きな人間を見破るように、私もまた、この人は虫が心底、好きなのだなと、不思議なテレパシーで感じ取っていたのである。


この勘は的中した。
これほど、熱心に当店の虫に見入るお客さんは、今までに数えるほどしかいなかった。
話し込むうちに、私は、この方とは、この先も相当に長いお付き合いになっていくのではなかろうかという、熱い予感に襲われた。長畑さんが、このとき、私に対してどう感じていらっしゃったのか、それは分からない。だが、私の方では、このままお別れしてしまうのは、なにやら惜しいという気持ちにさえなっていたのだから、人との出会いというものは、つくづく奇態なものだと思う。


何年、つき合っても親しくなれない人もいれば、出会った途端に百年の知己のようになれる人もいる。フィーリングが合ったのだといえば、いかにも簡単なことだ。だが、この歳になると、若い頃とは違い、単なる雰囲気や外見だけで、知らない人とそう親しくなれるものではない。お互いの価値観のみならず、もっと深刻に、お互いが生きてきた間に、営々と積み重ねてきた『人生観』とでもいうべき、深い部分での性質の一致が必要なように思われてならない。
大袈裟なようだが、少なくとも、私は誰とでも簡単に親しくなれるわけではない。商売人である以上、表面はいかようにも繕えるのであるが、私の心の奥底にまで踏み込んでくることを許せる人間は、ごく僅かなのである。
だから、このような出会いは、私にとって、とても珍しいことであり、はっきり椿事といっても差し支えない。男が男に惚れるとは、こういうことなのであろう。


その後、しばらくして、大宮駅東口にある、とある居酒屋で私たちは再会を果たした。言うまでもなく、酒の肴は虫の話である。実に有意義な、楽しいひとときを過ごしたのだが、実を言うと、このとき、私ははじめて、彼がTVC昆虫王であることを知った。迂闊といえば、これほど迂闊な話はない。普段、私は殆どテレビを観ないのである。頂いた名刺から、あれ、この方は?と、ようやく見当をつけたのであるから、大変、失礼なことであったと、今から思うと顔から火が出る思いである。
だが、長畑さんにしても、自らの王冠を自慢するような方では決してない。このため、私はこのときまで、ずっと彼のことを、熱狂的な昆虫マニアの一人だくらいに思いこんでいたのである。


さらに驚くべき発見がもうひとつあった。
長畑さんは私よりも少しばかり年長だったのである。
あまりにも若々しい風貌をしていたため、私はすっかり、彼を年下だと勘違いしていたのである。
(・・・ひょっとして、化け物ではなかろうか?)
驚愕のあまり、甚だ失敬な感想を抱いてしまったことを告白しておく。それくらい、長畑さんは若くみえるのである。


「虫をやると歳をとらなくなるんですよ。あなたもきっとそうなります。」
このとき、彼はさりげなく、このようなことを私に告げたように記憶している。
この予言は恐らく当たっている。
以来、私は、時が止まったかのように、虫屋を始めた頃と変わらない容貌のまま、今に至っている。少なくとも、私をよく知る人からは、そのように言われている。これは、虫に親しむ者だけに許されたマジックなのであろうか? それとも、長畑さんが密かに私にかけた魔術だったのであろうか・・・


こうして、長畑さんとの交友が本格的に始まった。
彼は標本が趣味という、いわば「死に虫屋」の雄である。一方、私はブリード命の「生き虫屋」稼業である。虫に対するこのスタンスの違いは、時に激しい対立を生むのであるが、幸いなことに、私たちの関係は、お互いのプロフェッショナルを尊敬しあえる間柄に発展していった。
実際、長畑さんと話していると、このようなスタンスの違いなど、実にちっぽけな、つまらないものであることがよく分かる。長畑さんと飲むお酒は、いつも私の限界量を軽くオーバーし、酩酊の坩堝に叩き込まれることが往々にしてあるのだが、それは彼と過ごす時間があまりにも面白いからなのである。長畑さんのもつ、昆虫全般に対する深い知識と洞察、興味深い昆虫に関するエピソードの数々、また、フィールドで実際に体験した者でしか分からない、昆虫の生態に関する詳細な考察は、私をして、いつも旨いお酒を多量に飲んだ後のような、うっとりとした状態に陥らせる。私もまた、心ひそかに誇るブリードの技術や、これまでに培ってきた昆虫育成に関する知恵で、多少なりとも長畑さんに感銘を与えてこられたように思うのだが、今のところ、お互いに対する影響度という点でいえば、圧倒的に私の方が長畑さんに負うところが大きいように思われる。


長畑さんは、私の昆虫に関する師匠であり、心を許せる大切な飲み友達であり、更に、無味乾燥にひび割れた、中年の私の心に、昆虫への夢と憧れという魔法をかけた「安部清明」ならぬ「蟲の清明」様なのである。
そういえば、あの有名な陰陽師は、狐から生まれたそうであるが、長畑さんも顔立ちにどことなく、狐に似た雰囲気がある。いや、これは私の勝手な邪推であろうが、しかし、ひょっとすると、あの凄まじいばかりの昆虫収集癖は、狐につかれたとか、或いはご本人が狐の化身であるとか、何かいわくがありそうな気がしないでもない。


そんな長畑さんが、とうとう自宅を建てられたという。
今までのアパート暮らしとは違い、今度はたくさん収納できる。
長畑さんはいたく喜んでいる。
それはそうだろう。なにしろ11万からの標本である。一体、どのようなことになっているのか、想像もつかない。私はひところ、3千頭の虫を、狭い四畳半で飼育していたが、それとは桁が違うのである。
その上、新居には、虫専用のブリードルームも用意したという。無論、エアコン完備だ。


これは、ぜひとも拝見せねばならぬ。
ついでといってはなんだが、当方の虫もこちらに引越しさせて頂き、系統の維持ができれば幸いというものだ。
もとより、見学した後は、また大宮で大いに飲もうではないか、という下心もありありなのだが、ともあれ、敬愛する長畑さんの隠れ家に、カメラを持って潜入し、この極めつけの昆虫フリークが、一体、どのような昆虫ライフを満喫しているのか、広く世の中に知らしめるのも、この際、非常に有意義な一挙のように思われる。少なくとも、私には重大な関心事である。このチャンスは、到底、捨ててはおかれない。
数度のメールのやり取りの後、訪問の日取りは決定した。


2月4日の土曜日。
大風が吹き荒れる寒い冬の日の夕方、わざわざ自宅まで車で迎えに来て頂き、大量の虫を積み込むと、彼の運転で、私は胸を高鳴らせて長畑邸へと向かった。


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1.邸宅の概観及び庭

車を走らせること10数分。長畑邸に到着した。土曜日のせいか、道が混んでいたため、少々、時間がかかったが、空いているときには、10分かかるかどうかの距離ではなかろうか。恐らく自転車でも30分。このくらいの距離にある町は、私の感覚では全てご近所である。
くねくねと細い路地を入ったところに、長畑さんの新居はあった。
時刻は既に17時に近い。陽が落ちかけていたが、弱々しい太陽光線のもとでも、真新しい、汚れ一つ無い綺麗な壁が、いかにも清潔そうに輝いており、美しい家であることがみてとれた。

長畑邸・横面 家の右側面。
道路に面したこちらサイドの一階部分に、ブリードルームへの入り口が設けられている。
長畑邸・ブリードルーム用玄関 ブリードルームへの外からの出入り口(拡大)。
搬入に便利なように、わざわざ設けたそうである。今回、この出入り口が大変、役に立った。
車を横付けにして、このドアから、大量の虫を一気に搬入したのであるが、海に注ぐ大河のように、たくさんあった荷物は、あっという間も無く、全て飲み込まれてしまったのである。
長畑邸・正面 家の正面。
駐車場の隣には庭がある。
よく見ると、玄関の脇に、木製の妙な立て札が下がっている。
空手の道場とかお琴の教室などで、よく見かける看板に似ているが・・・一体、このでっかいものは何だろう? まさか、表札?
画像をクリックして拡大してみよう。
庭 この庭の有様は一体、何事であろうか?
寒さよけのために全ての木に養生をしてやっているようなのであるが・・・そうか、これは長畑さんの、木たちへの愛情の現われなのであろう。なんて優しい方なのであろうか。
「これは全部、蝶の幼虫の餌になる木です。ここには、それ以外の目的の木は一本もありません。南方のものだから、寒さに弱くてね。ほら、そこに倒れているのはバナナだよ。」
そうだった・・・長畑さんの専門分野は蝶だった。

2.ブリードルーム

さて、お次は室内であるが、さすがに新築だ。新しい家に特有の新鮮の香りがする。早速、先程、外から見たブリードルームにお邪魔した。三畳ということだが、ファングルを3つほど組んであり、立体的にプラケースが置かれているせいか、機能的な配置となっていて、なかなか居心地が良い。
エアコンの風がうまく床まで届かず、ファングルにぶつかって途中で巻き上がってしまうため、床近辺の温度が思うように上がらないのが悩みなのだそうである。扇風機で強制的に暖気を下方に送り込んでいるようだが、これはファングルの位置を変えたり、クーラーの吹き出し口の角度を調整することで、だいぶ解消できそうな気がする。

ブリードルーム ブリードルーム。
ファングルにプラケースがすし詰めに置かれ、いろいろな成虫や幼虫がうごめいている。マニア垂涎の光景である。
長畑氏 幼虫の入ったカップを手に、満足げな長畑氏。
今回、当店から持っていった虫たちを収納するために、わざわざ場所を確保してくださったとのこと。しかし、あっという間にその場所も埋まってしまったような・・・
長畑氏 床に何段にも重ねて置いてあるプラケースの大。実はこれも、今回、当店から運び込んだもののほんの一部。
ビロバヒロヅノカブト新成虫♂ 長畑さんが羽化させたビロバヒロヅノカブトの♂。ここまで角が出てくれれば立派なもの。私が作出した固体は、全て角が♀なみに小さく、貧弱だった。なかなかどうして、大した腕前である。
蝶の幼虫や蛹 「ここでは蝶もやってます。」そう言ってみせて下さったのがコレ。蝶って、丸カップで羽化までもっていけるとは知らなかった。なんとも興味深い限りだ。

3.標本部屋

続いて2階にお邪魔した。引越しの荷物がまだ片付けきっていない様子だが、それ以外は、がらんとした、何も無い部屋に見えた。しかし、壁に据付けてある、大型の収納庫の扉を開けると、そこにあったものは・・・上から下まで、何段にもずらずらぁっと並んだ大量の標本箱であった。しかも、ここにあるのは、まだ、全体のほんの一部にすぎないという・・・
以下は長畑さんの真髄を、ほんの少しだけ紹介するに留まるが、なにとぞ、これでお許し頂きたい。何度も繰り返すが、この家には11万の標本が眠っているのである。

標本コレクションと長畑氏 ご自慢の標本と長畑氏。
次々に標本箱を引っ張り出しては、熱のこもった解説を繰り広げる。
標本固体は、どれも実に美しく、爪の先まで綺麗に整えられており、まさに芸術的な仕上がりである。長畑さんのこだわりが垣間見られる一品がところ狭しと並んでいる。
雑虫標本 この標本箱は、長畑さんの守備範囲の広さを物語る一例であろうか。
よく見て頂くとわかるのだが、そこには実に様々な昆虫が保存されている。蝶、蛾、バッタ、ナナフシ、カマキリ。なんとゴキブリまでいるのだ。
カブトムシ標本 こちらは大型甲虫の代表 カブトムシの標本箱である。
ヘラクレスやコーカサスといった、代表選手の姿が見られる。その中でも、特に目を引く固体が、画面中央のアクタエオン・ゾウカブトである。
アクタエオン標本 これがその標本。画像では、この巨大さが伝わり難いのが非常に残念なのだが、これがなんと130mmもあるのだ!
最初に拝見したときには、プラモデルではないかと疑ってしまったのだが、間違いなく本物のアクタエオンである。私はこれを見て、思わず笑ってしまった。人間は、あまりにも大きな生き物を見たときには、もう笑う以外に反応が出ないのかもしれない。そして、この固体は大きいなんて、生易しいものじゃないのである。これはすでに虫とは言いがたい。この迫力は神の領域である。おそらく博物館でも、これほどの固体は所有していないだろう。こんなのが、生きて動いていたのだと思うと、鳥肌がたつ思いがする。凄まじいほどの一品である。
サタン標本 ボリビアの山中で、長畑さん自らが採集に成功したサタンである。この大きさはワイルド固体では大変に貴重である。だが、特に注目して頂きたいポイントは、胸角である。私は今までに、ワイルド・ブリード取り混ぜて、10固体程度のサタンを目にする機会に恵まれたのであるが、これほど、角がぶっとい固体というものを見たことがない。これまた、実にとんでもない代物である。
蝶標本 ここからは長畑さんのもっとも得意とする分野「蝶」である。まずはこちらをご覧頂こう。誠に遺憾ながら、この分野に対して、私はまったくの門外漢であり、ここにあるものが、なんという種類なのか、皆目わからない。主に南米に生息する蝶の仲間のようである。日本にはこのような色彩のものは皆無であろう。どうして外国の蝶は、このように美々しいのであろうか。
蝶標本 モルフォチョウの仲間が収蔵されている。なんという美しいメタリックなブルーであろうか。こんな蝶が空を飛んでいるところなんて、想像もできない。作り物みたいだが、すべて本物なのである。
蝶標本 最後は、世界一美しい蝶の仲間である、ミイロタテハの標本である。この色彩変異の見事さはどうであろうか。まるで三色スミレのようである。本種の図鑑を取り出して、あれこれ説明して頂いたのであるが、驚くべきことに、その図鑑に掲載されている固体が2つも、この箱に収蔵されている。どうしても欲しくなって、買ってしまったのだそうだ。コレクターとは、そういうものであると分かっていたつもりであるが、いやはや、長畑さんの狐も、どうやらまだまだ健在のようである。

エピローグ

長畑邸を出たのは、夜の7時過ぎだったであろうか。私はいささか、陶然としていたような気がする。今回、長畑さんに見せて頂いた標本は、コレクションの中のほんの一部、まさに氷山の一角にも満たないくらいのものなのである。それでも、私の脳では処理しきれないほどの、膨大な質と量であった。あまりの情報の多さに、私は溺れかけていたのかもしれない。なにしろ、出てくる標本一つ一つに、詳しい解説がつくのである。
「この虫はこういう特徴がある。その生態はこうこうで、これはどこどこに生息しているが、この辺りでは一年前から見なくなった。だが、まだどこそこでは棲息が確認されている。そのトラップにはこういう工夫が必要である。」
或いは、
「この蝶はどこどこ原産のものである。食性は何々という木であり、この仲間の羽の特徴はこうこうで、これとこれは別種に見えるが、実は同じ種なのである。」
といった調子で、一体、長畑さんは、どうやってこれほどの知識を保持し続けているのか、機会があれば、ぜひ一度、脳味噌を探査してみたいと思うほどである。彼の標本を全部を拝見しようと試みたならば、幾日あれば足りるのであろうか? それは無謀な挑戦というものなのかもしれない。


その後、私たちは電車で大宮駅まで出て、沖縄料理を食べさせる居酒屋でとぐろを巻いた。オリオンビールで乾杯し、度数の高い泡盛を一本、あっけなく空にした。さらに度数の高い泡盛に挑戦し、気分よく酔っ払った。酒の肴は、ミミガーのピーナッツ和え、海ぶどう、ゴーヤチャンプル、そしてお決まりの虫談義である。
ちなみに長畑さんの得意分野は昆虫だけでなく、特撮ヒーローものからアニメーションにまで及んでおり、こちらについても実に造詣が深い。今度、放映される仮面ライダーは、「カブト」というのだそうで、これを皮切りに、ひとしきり、ライダー談義をぶちかました後、今度は30年以上前の特撮ものに関する、私のおぼろげな記憶を鮮明にして頂いた。


このようなデータに至るまで、とことん保存されている長畑さんの頭脳は、やはり、特別製なのであろう。酔うてますます意気盛んな長畑さんは、酔眼朦朧とした私の目に、いよいよ狐でもついているように見えてきた。
この先も、長畑邸はますます昆虫の数が増え続けていくことだろう。来年は12万を突破するのではないだろうか。このペースでいくと、数年を経ずして20万、いや、30万にまで登りつめてしまうかもしれない。


「死に虫屋」とは、げに恐るべきものだ・・・
トイレに立ったとき、そう呟いた私は、ふと鏡に映った自分の顔をみて、どきりとした。そこに赤い顔をした狸を見出したからである。
そうか、生き虫屋には狸がついていたのか。
妙に納得した私は、あらためて飲みなおそうと泡盛を手に取った。


夕方からの大風は収まりそうにない。空は晴れて、星が綺麗だ。
千鳥足で家路をたどる私の脳裏には、様々な昆虫の姿態が駆け巡っていた。
標本もいいものだ。
長畑さんを見ていると、素直にそう思えてくる。
私は、いつの日にか、また、長畑邸を訪れてみたいと願っている。

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