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コラム

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子供の頃、空き地で大きい石をひっくり返すと、ダンゴムシやオケラに混じって、必ずといってもよいほど姿を見ることができた「ハサミムシ」。


くねくね曲がる柔らかなボディに、お尻につけた鋏が、妙に小粋でかっこよく夢中になって捕まえたものでした。


ちなみにこの鋏、挟まれても大して痛くもなくて、見掛け倒しかと思いきや、獲物を捕まえるときに使ったり、求愛や♀を争うバトルでも大活躍するなど、本当はとても実用的な道具なのであります。


ハサミムシの仲間は世界中にいて、鋏の形も様々、日本にも数十種類が生息しているとのことです。 私は一種類しか見たことがないのですが・・・


ところで、本種はかなりの子煩悩で、卵を産んだ後も、♀がしっかりと保護するという話をご存知でしたか?
卵がカビないように、しょっちゅう場所を変えてやったり、外敵から守ったりと、実にかいがいしく面倒を看る虫なのです。


昆虫好きな皆さんには、なんだ、それくらい、他にも幾らでもいるじゃないと思われることでしょう。
確かに、タガメの♂や糞虫の♀も、こまめに卵の世話をしますよね。
更に、アリやハチといった高度な社会生活を営む昆虫たちは、卵はおろか幼虫の面倒まで看ますし。


しかし、この仲間のひとつであるコブハサミムシは、もっと凄いのです。
なんと、♀は生まれてきた幼虫たちに自らの体を差し出し、生きたまま食べられてしまうのであります。


あまりにも壮絶で、残酷な話と思われるかもしれません。
はじめてこのことを知ったとき、私もそう思いました。


ただ・・・


「生きる」ことの最大の目的って、命を次の世代に繋ぐということなんじゃないかなって思うのです。


次の世代へ。またその次の世代へと、延々と命を渡してゆくこと。


これこそが、この世に生を受けた全ての「生き物」が果たすべき、基本的な役割なのであって、高度な文明を築いた我々人間とて、例外ではありえないと思うのです。


そして、この命を繋ぐ究極の形の一つに、コブハサミムシの捨身という行為があるのかもしれません。


勿論、昆虫にすぎぬ彼らは、本能の赴くままに、子供たちに己の肉体を捧げているだけなのでしょう。
しかしながら、その本能とは、純粋で、強烈なまでの「愛」なのではないでしょうか。


コブハサミムシは、静かに、何の抵抗もせずに、食べられていくそうです。


ほんの数センチしかない小さな虫なのに、その生と死を知るにつけ、これほど深く考えさせられるものは、他にはおりません。

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