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コラム

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私の机の後ろには、息子の机が背中合わせになるように置いてある。
彼の机には、大好きな本だけでなく、ゾイドのプラモデルや恐竜のフュギュアが所狭しと飾ってあるが、その一画に、随分、前から割と広いスペースを占め続けている、ある生き物がいる。


それは、ヘラクレス・リッキーの雄。
名前は「リッキー君」である。


贅沢にも、プラケースの大を居住地として与えられ、一頭だけで悠々自適な快適生活を送り続ける彼。
いつも私の背中をケース越しに眺めては、あいつは何をそんなに忙しそうにしているのかと呟きつつ、のほほんとゼリーをすする毎日である。


現役を引退した余裕というものなのだろうか。
彼の視線は、いつも柔らかく、そして、温かい。(気がする。)


ところで、よくカブトムシはどれくらい生きるのか?という質問を頂くのだが、正直言って、これは非常に答え難い。
というのは、管理方法一つで、まるっきり変わってきてしまうからだ。


国産のカブトムシは、野外品であれば、夏の初めから秋の初めまでが成虫として活動できる期間であり、飼育下でも、ほぼ、同じ程度の寿命となる。


だから、まぁ3ヶ月くらいと言っても差し支えないのだが、うまく飼うと、11月の木枯らしが吹く頃までしぶとく生き残ることがある。
つまり、半年近く生きるものもいるのだ。


成虫寿命が比較的短い国産ですら、このように、3ヶ月くらいの差が開いてしまう。
まして、もっと平均寿命の長い外国産カブトムシとなると、種類によってもまちまちだが、簡単に4,5ヶ月程度の差が出てしまうのである。


例えば、幼虫期間は3,4年もかかるアクタエオン・ゾウカブトは、成虫になると、せいぜい半年が寿命といわれている。
だが、そのうち、旬な時期はわずかに3ヶ月程度だし、若い頃に交尾でバンバン使うと、とても半年なんて生きられない。
このため、私に本種の寿命は?と聞かれれば、まず3,4ヶ月と回答しておくことにしている。


だが、実際には、7,8ヶ月、生存するものもおり、こうなると、あまりに差がありすぎて、本当のところ、どのくらいを寿命とするべきか判断に苦しむというのが実相だ。


寿命云々というご質問が、いかに回答しにくいご質問であるか、お分かり頂けたであろうか。


ちなみに、ヘラクレスはといえば、私の記録では10ヶ月が最長だった。
これは空調の効いたブリードルームで、プラケースの中を使い、一頭だけで飼育したときの記録だ。
普通は、半年程度というのが相場であろう。


さて、後ろの「リッキー君」だが。
息子の世話が宜しいのか、実に長命である。
記録を見ると、なんと去年の6月9日に羽化している。


生憎、角が少々、曲がったため、売りに出すかどうか迷っていたところを息子が欲しいというので、ちゃんと管理するという約束で譲り渡したものである。


その後、息子は、私の言いつけを守って、毎日のように餌を交換してきた。
一日あたり16gのゼリーを餌皿に2個。
食べ難いのだろう、毎度、かなりをお残しするが、息子は律儀にも、ちゃんと交換して、いつも新鮮なものを与えている。


その甲斐あってか、この時点でリッキー君の成虫寿命は既に10ヶ月を越え、いまや私の記録を塗り替えようとしている。


勿論、既に符節や爪はかなり取れてしまっており、相当にご高齢という感は拭いきれない。
だが、冒頭、書き記したとおり、彼は、毎日、有り難くゼリーを頂戴し、誰はばかることなく、気ままな独身生活を営んでいる。
この調子だと、まだまだ生き続けることだろう。


室内とはいえ、特に温度調整もしていない環境で、これだけの寿命を保つというのは、正直、信じられない思いだが、事実も事実、現に今も私の後ろに彼はいるのだ。


これには、やはり、以下の条件が功を奏しているのだろう。


 ・広い空間
 ・新鮮な餌
 ・加湿せず蒸らさない
 ・豊富に止まり木を与える
 ・弄らない
 ・交尾で使わない


あとは、愛情、だろうか?
もしも死んだら、標本にしてとっておきたい!とまで願う息子の気持ち。
これがひょっとしたら、最大のスパイスだったのかもしれない。
その割りに、息子は直接、リッキー君には触れないのだが。


ちなみに、毎日ゼリーを2個、与えるということは、
1ヶ月で約60個、10ヶ月だと600個になる。
50個入りの袋で、12袋がこの一頭のために消費された計算だ。


いや、構わないのだが、まだまだ生きるのかなぁって、ちょっと気になっただけで・・・




どのくらい生きるのですか? と質問されたら、今後はこう答えることにしよう。


「旬は3ヶ月。あとはあなたの愛情次第。」

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