コナツを抱いているといつも思うことがある。
ヒュウガは今まで口にはしなかったが、出会ったときにコナツを「ひ弱そう」と表現して怒らせたものの、そのイメージは今でも変わっていないのだった。 あれから3年の月日が経っても、コナツには筋骨逞しい大男に成長する気配は全く見られないどころか、心の鍛錬はともかく、肉体に関しては日々美しく磨かれているような気さえしてくる。 肌の白さは遺伝だろうから日焼けしても戻ってしまうし、食べても太らない体質なのか、筋肉も含めて肉が付きにくく、線が細い。 「ねぇ、コナツ」 コナツを下に組み敷いて、その愛しい躯を欲望で穿ち、切ない顔で呼吸を荒くしている少年を見下ろしながら、ヒュウガは日常会話をするように話しかけた。 「な、んでしょう……」 泣きそうなのか泣いたのか、瞳が潤んでいて上気した頬と合わせて、今、とてもいやらしい顔をしていると思った。 すると、繰り広げている艶やかな雰囲気をブチ壊すかのような発言がヒュウガの口から飛び出した。 「コナツは、いつになったら脛毛が生えてオトコらしくなるんだろうねぇ」 「!?」 一体何が起こったのか。 「ずっと聞こうと思ってたよ」 「は!? は……い??」 想像もつかなかったとんでもない質問にコナツは目をしばたかせた。 「もしかして剃ってる?」 「な……なにを……!?」 言われていることが分からないというより、こんなときに何故そんなことを言われるのか理解出来なかった。いや、裸を晒しているこんなときだからこそ言われるのだろうか、だが、ムードも何もない台詞なのは確かである。 「いやぁ、前から気になってたんだけどね」 「少……佐?」 「昔は幼かったから成長が遅いんだなぁくらいに思ってたけど、そろそろ男くさくなってきてもおかしくない年頃じゃん?」 「はぁ」 「でも、なんで脚なんかこんなにツルツルなの?」 「な、何を仰るんです」 「まぁ、いいや。あとで詳しく聞こう」 聞こうと言われても、何故こんなことを聞かれるのか全く理解できない。そしてヒュウガは真剣なのかふざけているのか分からず、おそらく後者のほうだと思った。 しかし、コナツは言われたことが気になって集中出来なくなってしまった。ひ弱と呼ばれたときと同じく、バカにされているのだろうかと気にしたが、今のような関係になって躯の悪口を言われることはなかったのに。 もしかしたらヒュウガはゴツイ男が好みで、自分は上司の好みからかけ離れていっているのではないだろうか、しかし、アヤナミを気に入っていることから、線の細いタイプを好んでいるのではないのか、など、頭の中はそのことでいっぱいになり、結論が出せずに混乱していた。 「はい、考えるのやめやめ」 ヒュウガが体位を変えてコナツに言う。 「で、でも少佐から話を振ってきたんですよ?」 「そうだけどね」 「わ、私は、……ッ」 後背位を取られるとまともに会話が出来なくなる。 「言っとくけど、けなしているわけじゃないから」 「……」 悪口ではないのか、と安堵するも、 「褒めてるんだけどね」 そう言われても疑問は拭えない。 「……とても、そうには……思えません」 後ろから突かれて背中をしならせながらコナツはやっとの思いで答える。 男ならば誰でも雄々しく逞しい姿になることを夢見る。背が高くなりたいし、バランスのとれた筋肉も憧れだ。まさに、コナツをベッドの上で好きなようにしている上司こそ、コナツの理想であるのに。 「そうだねぇ」 ヒュウガは四つん這いになったコナツの背に胸を近づけて、コナツを後ろから覆うようにすると、耳元で、 「言ったら怒ると思うけど」 そう前置きしながら、 「コナツはここ数年でキレイになったと思うよ」 低い声で囁いたのだ。 「な……!!」 「あ、もちろん、男らしくもなったけどね? 顔の輪郭も顔つきも変わってきたし? 成長中ってのは分かるけど、それを含めて……ね」 「それは……」 答えに窮する台詞である。 それより、綺麗になったという言葉こそ、女性に使うものであり、ヒュウガはよそでいつもそんなことを言って相手の女性を喜ばせているのかと思った。それをここで自分に使わなくてもいいのでは、とも。 今度は嫉妬や悋気でますます頭が混乱する。 ただ、ヒュウガはコナツの能力や剣の腕も認めていて、見た目だけを気に入ってくれているのではないことは分かっていた。 「ま、残念なことにコナツが大男になるのは厳しいだろうけどね」 「……」 ヒュウガはあくまでも事実を述べたまでだ。しかし、ここで諦めさせてはいけないと思い、 「男の子の成長はまだまだ続くから、頑張るといいよ」 そう言ってコナツを励ますのだった。 「そうなると、こ〜んなに綺麗な子が抱けるのは今のうちってことかぁ」 「なんですか、それは」 「もったいないなぁ。そういえば、成長を止める注射があったっけ」 「!?」 ここでも何を言われているのか分からなかったが、明らかにおかしなものだということは予想出来た。 「冗談だから。ホルモン注射はしないよ。人権侵害だ。だから、ボツリヌスかな」 「え!?」 ますます分からない。 「なんてね」 「少佐……怖いこと、しないで……下さい」 そろそろ自分を支える腕に力が入らなくなっている様子で、コナツは荒い呼吸を繰り返していた。 「しないよ、するわけがない」 優しく言いながら、きつい角度でコナツを抉った。 「ああッ!!」 痛みと快楽が同時にやってくる感覚にはどうしても慣れない。だが、今のコナツは精神的にも不安定で、後背位がそれほど得意ではないことも手伝って、放散痛の症状が現れ始めた。 「う……ッ」 顔を顰めて耐えるも、生理的に腰が引けてしまう。 「ああ、やばいかな?」 「……っ、少佐……わざと……」 後ろから犯しているのに上に突き、粘膜を刺激し、内臓を掻き回す。コナツは枕に顔を突っ伏してシーツを握り締め、歯を食いしばった。こうした痛みが生じるのは体格差もあるし、俗言的な言い方をすれば、挿入する側の大きさに原因がある。実際、ヒュウガは交わる際、自身の半分しか中には嵌入しないのだった。とてもすべては収まりきらない。 「ごめん、やっぱりコナツはどんなことしてもいい顔するなぁって思うよ。他の人には有り得ないんだけどねぇ」 人の痛がる顔を気に入られても嬉しくはない。ヒュウガの性癖には驚くことが多いが、それでも許容範囲だと思うことにした。 「もう痛いことはしないから、戻そうね」 ヒュウガはコナツを軽々しく抱きかかえ、繋がったまま体位を変えてしまった。こういうことをされる度にヒュウガが場慣れしていることを思い知らされる。 「……」 妬心を抑えきれずに、目を開けてヒュウガをじっと見上げると、 「どうしたの?」 「……いいえ……」 目が合って微笑まれ、コナツは何も言えなくなった。 「いいですよ、続けても……」 動いていい、という意思を告げると、 「ああ、今度は悦くしてあげるから大丈夫」 ヒュウガはそう言って浅めにゆっくりと一度だけ中を突き上げた。 「!!」 見事に”ソコ”を当てられたのだった。しかも、一発で一番いいところを押されてコナツの腰が跳ねる。悲鳴を上げそうになって一瞬堪えたが、 「あ……ッ、ああ、少佐っ、少佐!」 あとは我慢出来ずに女のような嬌声を出してしまった。 「ちょっとこの構図は……」 ヒュウガが困ったような顔をした。コナツの何もかもが余りにも刺激的すぎるのだった。 感じているとコナツはシーツを掴んだり指を噛んだりと一般的な態度を示すが、かぶりを振って自分を抱きしめる仕草をされると、その姿が可憐なのに、ひどく淫らに見えて対応に困る。 「これは計算なのかなぁ?」 ヒュウガが呟くが、コナツの耳には入っていないため、独り言になっている。 すると、コナツは力なく腕を少しだけ伸ばすと、ハッとしたように手を引っ込めてかぶりを振る。また何度か繰り返し、それが癖になっているのか、時々おかしな行動をとるのだった。 ヒュウガはしばらくコナツの中の熱さをたっぷりと味わうように浅い突き引きを繰り返し、数回に一度は深いところまで圧した。決して無理はせず、乱暴にもしなかった。もっともテクニック共にヒュウガの行為は巧みであり、そしてスローである。舌を噛みそうになるほど激しくすることもあるが、普段の投機的である姿からは想像もつかないかもしれないが、コナツを愛してやるときは、ゆるやかで確実なのだ。 コナツは押し寄せる快感に、気がいきそうになるのをかわすのに精一杯で、完全に呼吸を乱し、行き場のない手を宙で震わせていた。 「このお手々は、どうしたいの」 幼児に問い掛けるようにコナツに尋ねてみたが、 「……ぇ……?」 何か聞かれたか分からないというくらいの意識で、閉じていた目を開けてヒュウガを見た。 「手持ち無沙汰みたいになってるけど」 「あ……すみません……私……」 「変なクセがあるよね」 「えと……」 「さっきから手がふらついてる」 「あ……これは……」 「なに?」 触れたいのだ。 穿たれている間もずっとヒュウガに触れていたい。だが、与えられる刺激に忘我して誤って上司を叩くか捻るか引っかくか……どれか失態を犯してしまいそうだった。そんなことをしたら二度と相手にしてもらえないのではないかと恐れて、だから、無意識のうちに伸ばした手を強靭な精神力で意識的に戻していたのだった。 「なんでもありません。なるべく気をつけます」 無理に笑顔を作ってみせると、 「なんか気になるよね。好きにしていいよ?」 ヒュウガはコナツが思慮深くなっていることに気付いている。 「いえ……」 「じゃあ、命令。オレに触って」 「!」 「一緒にイクまでずっとね?」 「少佐……」 「ほら、命令って言ったでしょ」 こんなときに職権乱用とはずるい、と思った。 「は……い」 コナツは恐る恐る手を伸ばすと、ヒュウガの腕を掴んだ。その体勢のまま深く交わりながら、目的の場所へ辿り着くために性的な興奮を高め、快感を追い、そして更に追い詰めようとした。あとはヒュウガに任せておけばいいだけだった。 少しの睦言が繰り返され、やがて最後の瞬間を迎えようと上り詰めたとき、 「オトコが啼く姿なんてのは、ほんとは見たいもんじゃないんだけど、コナツは綺麗な顔するね」 どうしても言いたいのか、言えばコナツが気分を害するであろうのにわざと言う。果てるのをもう少し先送りするためでもあった。 「しょう、さ……」 コナツはきつくヒュウガの腕を掴み、濡れたくちびるを開いてたどたどしくを呼ぶと、 「私……が、どうしてそうなるのか……分かりますか」 逆に問う。 「どうしてキレイになるかって? ……さぁ」 元々そういう体質なのだろうとしか言えない。すると、コナツは、 「こうして、少佐に抱かれるからです」 はっきりと言い切ったのだった。 自分でとんでもないことを言ってしまったと後から気付いたコナツも、それを聞いたヒュウガも、この後すぐに合図もなく同時に達した。躯の相性の良さが顕著に現れた瞬間だった。 言葉攻めを得意とするヒュウガも、こればかりはコナツにしてやられたと思った。まさかここまで来てコナツの言葉でイカされるとは。しかも、腕に爪を立てられたのだ。触れてもいい、掴んでいいとは言ったが、背中ではなく腕を引っかかれるとは思っていなかった。コナツは何度も謝ったが、”最中の引っかかれ傷”は古今東西”勲章”なのである。ヒュウガも誰に自慢しようかと言い出して、コナツに他言無用を約束させられる始末だった。 それよりも、抱かれる喜びを正直に告げたコナツは本心を述べただけで、事実であることには違いなかったし、それしか考えられないと思っていた。 たとえ恋する乙女のようだとからかわれても、実際に可愛がられ、時間も手段も惜しまずに愛でられていることには変わりない。もともと整った作りの顔や躯が、そうされることによってますます美しく仕上がるのは成り行きなのである。 だが、事を終えてすぐに最初の疑問である体毛が薄いというのも、そのせいなのかという論議が行われたのだから二人とも懲りていないのだった。そして肌を褒められたコナツに「その言葉そのままそっくり返します」と言われ、ヒュウガは、 「オレも肌質は自慢なんだよね〜」 と言って会話は終了した。 最後に、ブラックホークは顔で入隊を決めるのかもしれないという結論に達したのだった。 冗談にしては笑えなかったが、帝国軍随一の実力を誇る彼らだからこそ言えるブラックジョークである。 |
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