お題No,06「舐める」
※お題N0.08「突き上げる」を先にお読み頂くようお願い致します。


「コナツ」
「はい」
「どうしてオレのほうが多いんだろうね」
「そ、それは……」
「おかしいなぁ。コナツはオレにこんなことしちゃいけないんだけどなぁ」
「すみません」

獣のように交わって互いの想いを確かめ合った、その翌日の会話である。数時間に及ぶ行為による性的興奮が異常な行動へと誘い、二人は躯に噛み付いたり、爪を立てたりと、無数の傷を残す結果となってしまった。
その傷跡を、まるでホクロでも教えあうかのように数えると、ヒュウガについた傷が多いという事実が明るみになった。
「もうオレ、仕事出来ないよ」
「ですから、私は……その……夢中になっていて」
「だろうね、オレもイカれてたけど、コナツはもっと凄かったもんね」
「あまりよく覚えていないのですが……ただ気持ちよくて……申し訳ありません」
「コナツに負けたのって初めてかも。っていうか、これって嬉しくないよねぇ」
「はい……」
「どうしよう」
「そもそも少佐のほうが躯が大きいからです。面積が大きければ付く傷も多くなるのは当然です」
「わぁ、そんなこと言っちゃっていいのかな」
「す、すみません」
「ほんと、コナツって気が強くて参っちゃう」
「申し訳ありません……今後このようなことのないように気をつけますので」
コナツが本気で反省しながら俯くと、
「だから、そこがいいって言ってるんだよ」
ヒュウガは面白そうに笑うのだった。
「いいえ。私は部下としてあるまじき行動をとってしまい、罰を受けるのは必至です」
「……そう。そこまで言うなら、そうしよう」
ヒュウガは冷静になって答えた。
「あ、あの?」
「オレは傷が痛むから、暫く奉仕に専念してもらう」
「は?」
「この可愛らしいおクチに活躍してもらうんだー」
オヤジくさい言い方で笑いを誘ったが、コナツの顔は少しも崩れず、むしろ固まるばかりであった。
(く、くち……ということは……)
コナツはすぐに理解した。
以前も挑戦して途中でヒュウガ本人に遮られたことがあるが、それをまた、今度は強要されたのである。
「私は……っ」
「出来ないとか言っても駄目だよー。コナツが自分から罰を受けるって言ったんだから」
「それはそうですが……」
「イヤなの?」
「そうではなくて……」
自分は決して巧いわけではない。それでもいいのかと確かめたかった。
「なんか乗り気じゃないね。じゃあ、鞭で打たれたほうがいい?」
「えっ!? そ、それは!」
「もっとイヤだよね〜」
「はい」
コナツは正直に答えた。
どうしてもそういった拷問系のプレイは苦手である。
「ほんとはね、試したいのがあるんだ」
「は?」
「エネマグラのマッサージ器具なんだけど……」
「!?」
一度では聞き取れず、コナツは目を丸くしたまま呆然としていた。
エネマグラとは前立腺攻めのことである。そのための器具をコナツで試したいという意味だろうが、ヒュウガは敢えてすべてを口にすることはなかった。
「どうしようかなぁ」
「あ、あの、最初の提案の件で宜しいと思いますっ」
コナツは慌てて言ったが、その言い方がまるで仕事のようで、
「そう? なら、任せるよ」
ヒュウガは部下に命令するように肩に手を置き、満足そうな笑みをもらすのだった。
(口で……最後まで出来るだろうか)
経験がない。
それは致命傷のようにコナツを不安にさせた。
(出来なかったらどうしよう)
(やはり撤回して鞭で打たれたほうがいいのかもしれない。痛いのは我慢して)
(いや、あれは嫌だ。怖い)
(そもそも罰というのは、もっとこう、掃除当番が増えるとか、奉仕するにしても肩叩きとか、そういうのでは駄目なのだろうか)
(これなら仕事が倍に増えたほうがまだマシだ)
コナツは一人でぐるぐると考え込んでいた。
もっとも、自信があれば迷うことはない。その行為自体が好きなら喜んで跪くだろう。だが、コナツには、してやりたいという気持ちはあれど、まったく自信がないのだ。前回もそれでうまくいかずにヒュウガに断られた格好になるのに、またあんな惨めな思いをするのかと思うと目の前が真っ暗になった。
(どうしよう。練習しなければ)
前もそうだったが、そう思っても練習する術もないのが現実だった。

その日の夕方、早速ヒュウガから誘われた。
「えっ、今日ですか!?」
「そうだよ。いつだと思ったの」
「もっとあとかと……」
「やだな。鉄は熱いうちに打てってね」
「なんの話ですか!?」
「こっちの話。というわけで宜しく」
「少佐……!」
「返事は?」
「分かりました」
「宜しい」
(練習する暇もなかった)
と言いながら、練習台など何処にもありはしないのに、そう言って一人で焦り、せめて何処かでテクニックは盗めないものかと本気で考えたが、コナツはそういった雑誌や情報を持っているわけではなかった。
(なるようにしかならない……か)
コナツは潔く諦めて、どうしても出来なければ鞭で打たれてもいいとさえ思うのだった。

そして夜、深夜に近い時間帯である。
顔を真っ赤にしてヒュウガの下腹部に顔を埋め、必死で口を遣っていたコナツは、息をするのもやっとで、難渋にただ時間だけが過ぎてゆくばかりであった。あとどのくらいすれば「もういいよ」と言ってもらえるのか分からない。もしかして、許してはくれないのかもしれなかった。
ヒュウガも、こうして、ああして、と指示を出さない。いつもならうるさいほど条件をつけるのに、今回に限って何も言わないのだ。
「あ、あの……少佐」
コナツが言いかけると、
「駄目だよ、喋ったら」
にっこりと笑って先を促す。
「でもっ、私……」
最後まで出来そうにないと言ってしまおうかと思った。そこまでのテクニックはないのだ。
「いいから、続けて」
「……はい」
コナツはそのまま深くヒュウガの雄を飲み込んだ。以前、するなと言われていたが、喉まで使って少しでも多くの部分を奉仕することが出来れば、それに越したことはないと思ったからだ。
「それは駄目だって言ってるでしょ」
さすがにヒュウガがとめると、
「でも……これだけじゃ」
「コナツが喉を使っても半分くらいしか入らないんだから、無理することないって」
「……」
「もしかして、勝算あるの?」
「え?」
「出来そう?」
「それは……」
「経験あるのかってこと」
「ありません!」
「なんだ」
「すみません、経験不足で」
「あったらビックリだけどね」
「……はい」
「じゃあ、練習は?」
「ないです」
「ないんだ」
そもそも相手がいない。
「こういうのは、練習しないとね」
「そ、そうです……よね」
ということは、コナツに誰かと寝ろと言っているのだろうかと首を傾げていると、
「喉使いたかったら、食べ物で練習するんだよ」
「えっ!?」
「食べ物なら、口に入れるのに違和感ないだろ? 喉使ってむせても、最後は食べちゃうこと出来るし」
「……そ、それは……知りませんでした」
「知らなくていいんだけど。知ってたら怖い」
「はぁ」
食べ物を喉に押しやることで、慣れさせる。嘔吐感さえなくしてしまえば、少しずつ出来るようになるのだ。
「でも、コナツはそんなことしなくていいよ。プロじゃないんだから」
ヒュウガはコナツの頭を撫でて呟く。
「しかし、それでは最後まで出来ません」
「いいよ、最後までしなくても」
「……」
ヒュウガが気を遣ってそう言っているものだと思い、コナツは顔を上げることが出来なかった。
「続けて」
「はい」
「ああ、そうだ。今からはオレの言うとおりにしてもらうから」
「……?」
「ね」
「はい」
そうして、コナツはぎこちない動作で再びヒュウガの欲望を口に含んだ。
舌を何度も往復させ、ほんの少し歯を立てる。きつく噛むことはしなかったが、その代わり刺激を与えるために指を使った。出来ることはぜんぶしたが、その間、ヒュウガは愛しそうにコナツの髪を撫で、頬を支えたりもした。
「いやらしい、コナツ」
自分のものを咥えた少年の健気な姿を見て、そう揶揄するも、実際にはとてつもなく湧き上がる欲望を必死に抑えているのだった。
今すぐにでも失神させるほど激しく抱いてしまいたいのに、生傷の残る細い躯が痛々しく、たとえ本人がいいと言っても、ヒュウガはコナツを組み敷くことは考えていなかった。
「コナツ、ちょっとしんどいだろうけど、我慢してね」
「?」
そう言われてなんのことかと思っていると、
「そのまま、いい子にしてて」
ヒュウガはコナツの顔を押さえた。
「目を閉じて」
「?」
言われた通りにする。
「あとは動かなくていい」
ヒュウガがわずかにコナツの口の中で蠢動した。
「飲んじゃ駄目だよ」
「!!」
浅い位置のまま、ヒュウガが果てようとする。
「……!」
コナツは、ソレが感覚で分かった。舌に当たっている張り詰めた皮膚がドクンと動き、せり上がるのを感じ、
(来る!)
構えたのだった。
その瞬間、ヒュウガは短い息を吐き、たっぷりとコナツの口の中……しかも舌の上に劣情を放った。
「飲まないでね」
数秒、その状態のまま動きをとめて、コナツのくちびるを長い指でなぞったあと、自身に手を添えながらコナツの口からゆっくりと引くと、
「そのまま、舌を出してみせて」
顎をとって自分のほうに向け、命じた。
「……」
コナツは訳も分からずに、言われた通り、舌を出す。
自分が放ったものが舌の上で溶け、量も多かったために口の端から溢れ、それはとろりと流れてコナツの胸まで落ちた。
「うっわ、最高にいやらしい」
その時のヒュウガの愉しそうな顔は、コナツを驚かせるほどだった。
名前を呼びたくても、この状態では喋ることも出来ない。
「あ、あ……」
かろうじて赤子のような声を上げると、
「待ってね。こうするから」
舌の上にあるものを指ですべてすくい、
「これは、こっちに使おうね」
恐ろしいほどの早業で、しかも片手でコナツが下半身に身に着けていた衣服をはがすと、コナツの後ろの秘部に塗りつけたのだった。
「あッ!」
「このまま、指を遣うから」
「ちょっ、少佐……何を!」
「うん? 後ろを指だけでイカせてあげるよ」
「な、な……っ」
「指だけでも痛いよねぇ?」
「あ、ぅ……」
「どっちにしようか迷うけど、コナツにはもっといいものをあげよう」
ヒュウガが言うのは、射精をさせるか、精液を出さずに快感を得るというドライオーガスムを狙うかだった。
ヒュウガは後者を選択した。こちらのほうは、射精するより何倍も強い快感をもたらし、それが継続するのだ。これを覚えてしまったら、通常のセックスでは満足出来なくなると言われている。
「しょ、少佐……ッ」
「コナツの躯は知り尽くしてるよ。ほら、ココでしょ」
「!!」
中指で前立腺を押さえられると最初は疼痛を感じる。だが、ゆっくりと繰り返されることによって、少しずつ変化していくのが分かる。
「う……」
「少し、このままで。呼吸をラクにしてね」
この行為には時間がかかるため、ヒュウガもそのつもりでコナツを扱う。
「少佐……なにを」
「前は弄らないよ。コナツも自分で扱いたりしちゃ駄目だからね」
下手に刺激すると射精を伴い、ドライオーガスムは得られない。
「……」
ただ、コナツはその説明を受けていないだけに、ヒュウガに何をされているのか分からなかった。
「さぁ、続けようか」
何度か繰り返していくと、コナツの状態がみるみる変わっていった。
「っと、太腿痙攣してる。大丈夫? きちゃう?」
「少佐、少佐ッ! なんでしょう、これは……これは」
「うん、いいんだよ。そのまま」
「分からない……、あ、もう、キます、あ、あ……ッ」
ガタガタと震えて、ヒュウガを掴む手に力が入る。
「思ったより早いね。敏感ないい子だ、コナツ」
「あぁ……駄目……っ」
ヒュウガの躯にしがみつき、想像も出来なかった凄まじい快楽にすべてを支配され、コナツは気が狂いそうになっていた。
「いいよ、どうぞ?」
そう言われてようやく、
「あああああッ!!」
溜めていた性的快楽をその禁断の頂上に叩きつけたのだった。
「う、あ……」
「おっと!」
コナツはそのまま気を失った。

目を覚ましたとき、裸のままベッドに寝かせられていた。
「あ、あれっ」
いつもこのパターンである。
「私、またですか!?」
「お。目が覚めたんだね」
「あの、あの……!」
「大丈夫だよ、きちんと出来たでしょ。お口でも、後ろも」
ヒュウガがにっこりと笑う。
「……」
自分一人では得られないものだった。
口で奉仕したのは覚えていたが、その後の記憶が定かではない。しかも、口でしたのだってまともに出来た試しがなく、今回もヒュウガの指示なしでは出来なかったのだ。しかも、あとから与えられた快楽は、恐らく普通ではないもの。
「すみません。まだ全然出来てなくて」
コナツが申し訳なさそうに謝る。
「なにが!?」
「せめて私にもっと経験があって、少佐を悦ばせることが出来ればよかったのですが……自分の経験不足が悔やまれます」
コナツが悔しそうに言うと、
「ちょっと待って。それは駄目だよ」
ヒュウガが真顔で答える。
「でも、少佐はちっとも面白くないじゃないですか。あんな程度で気持ちがよくなるとは思えません」
「いやいや、そうじゃなくて、コナツが他のヤツと経験済みで、何人もの男と寝てるとかだったら嫌だから」
「えっ」
「そういうもんでしょ」
「そう……ですか」
「別にお手付きでもコナツなら仕方ないと思うけどね? それでも、何も知らなくてウブで分からないコナツがいいに決まってる」
「よく分かりません」
「当たり前だよ。男なんて、自分は遊んでも好きな子には何も知らないでいてほしいと思うものさ」
閨房でのあしらいが上手な者が嫌いだというわけではないが、やはり純情という言葉に弱いものである。
「あの……私にはそういった感覚が分からなくて」
「いいの、いいの。男なんて勝手なもんだよ」
「私も男ですが」
コナツが言うと、ヒュウガは当たり前のように、
「コナツはオレの奥さんでしょ」
真面目な顔と口調で言い切るのだった。
「ベグライターです!」
奥さんと言われて納得できるはずもなく言い返すが、
「そうとも言うね」
あっさりと払われてしまう。
「幹部補佐ですよ!」
コナツも負けない。
「はいはい」
そしてまた払われる。
「でも、私が下手でもいいと仰って下さるので、助かります」
「オレ、コナツのこと下手くそだと言った覚えはないよ?」
「そうですが……でも、心の中ではそう思っているのだろうと」
「ないない」
「よかったです」
コナツが顔を綻ばせて笑った。そして、
「そのうち慣れて、上手に出来るようになりますから、飽きないで下さいね」
なんとも素直に努力をしようとする姿勢が堪らない。
「あんな顔しといて飽きるとかないよ。悶絶死するとこだったのに」
「え?」
「いや、なんでもない」
コナツの小ぶりな口から白濁としたものが溢れ出た光景を思い出してヒュウガが頭を抱える。
「でも、少佐が私にしてくれたのは……あれは一体」
「えー? 嫌だった?」
「ちょっとあれほどのものは経験がなくて……」
「そうだろうね」
「私、おかしくなかったですか?」
コナツが顔を真っ赤にしていた。
「あー、きちゃうきちゃうって叫んでたとこ?」
「ちょ、そんなこと言わないで下さい! もっと言い方あると思います!」
「なんで。いいじゃん、ホントのことだし。でね、ホントはオレの指じゃなくて、エネマグラを使ってみようと思ってたんだよ」
「……昼にも聞きましたが、なんですか、それは」
コナツが真顔で尋ねる。
内容を知らないのだから、真剣になって当たり前である。
「えーと、簡単に言うなら、オレがコナツに指でしてやったのと同じことが出来る器具があるんだ」
「そ、そんなのがあるんですか?」
「うん」
「まさか、それを持っていらっしゃるわけではないですよね?」
「……」
「どうして無言なんです」
「コナツの想像に任せたいから」
「って……!」
「持ってたら使ってもいい?」
「嫌です!」
コナツが叫んだ。
「うわぁ、全身で拒否された。上司のお願いだっていうのに」
「そんなこと言われても……嫌なものは嫌です! 私は少佐のがいいんです!」
「へ」
「機械だか器具だか知りませんが、私は絶対に嫌ですから! もしまたあのようなことをして下さるとしても、少佐の指じゃなきゃ嫌なんです!! たとえ器具のほうがいいと言われても、少佐のじゃなきゃ駄目です!!」
「うわぁ」
「はっ。すみません、命令だとしても、本当に嫌なんです」
「いや、オレのじゃなきゃ嫌だと言われたオレの身にもなって」
「?」
「キュン死にしそう」
「?」
「っていうか、実は、新しく出たローションを試したかったんだ」
「ローション?」
「うん、マッサージ用のローション。かなりいいらしいよ」
「……」
「それなら、どう?」
「嫌です」
「即答!」
「少佐のじゃなきゃ嫌ですっ!」
「えっ」
「またさっきみたいに、私の口の中に出して、それを使えばいいじゃないですか」
「コナツ、何言ってんのー!?」
ヒュウガが倒れそうになっていた。
「私は少佐のじゃなきゃ嫌なんです! 他の誰でもなく、他の物でもなく、少佐じゃなきゃ一切受け付けません!」
「コ、コナ……」
「私の気持ちは、きっと少佐には分かって頂けないと思います。でも、私がそう思っていることだけは忘れないで下さい」
ヒュウガはただコナツを見つめていた。そうするしか、出来なかった。

コナツを眠らせて、少し経ってからのこと。
ベッドの中でヒュウガはまた独り言を呟いていた。
「コナツじゃなきゃ嫌だって駄々こねてたのはオレなんだけどね〜。3年前にね〜。オレのほうが先だったね、コナツ」
コナツが士官学校を第一位の席次で卒業したときにコンタクトを取った。そもそも、コナツには知らされていなかったが、ヒュウガは士官学校時代からコナツに目を付けていたのだ。だから、なんとしても自分の傍に置いておきたくて、無理やり話を通したのだった。
「もちろん、今でもコナツじゃなきゃ嫌だって地団駄踏めるけどね?」
そう言って笑うと、コナツの金色の髪にキスをして、
「おやすみ」
幾度も繰り返されてきたこの言葉を、この光景を、愛しさが募る思いで包み込んで、夜の闇へ投じるのだった。

「離さないよ」

永遠に。


fins