yours(フラテイ)                                           フラウver
「なんだよ、口を開けば『カペラが起きる』って、そればっか」
こいつはオレが押し倒すたびに毎回必ずこう言う。そりゃあ、こんなことしてる隣でカペラとミカゲが寝てりゃね、物音に敏感な子供ならすぐに目を覚ますだろう。だが、カペラは昼間の疲れがたまってたのかベッドに入るなり、カウントダウンする間もなく寝ちまった。ミカゲもだらりと脚を伸ばして眠ってる。ここからはオレらの時間。だから、寝る気配もなく周りをうろついているこいつをオレ様の可憐なテクニックで押し倒したわけ。まぁ、ただ押し倒すだけだったら猿でも出来るけどな。
「だって、ほんとに起きたらどうすんだよ」
テイトは本気で焦ってる。
「お前が心配なのはよく分かるが」
可愛がっている舎弟みたいな存在の子供にこんな姿を見られたくないってのは、よーく分かる。たとえばオレだって、そうだな、あのジジィ……と言ったら天罰が下りそうだが大司教様に、こんなことしてるのバレたらすっげー嫌だ。
「だ、だからフラウ、ちょっと静かに……」
「静かになんだ」
「静かにしろって」
「それはどういう意味かな、王子様」
「そっとゆっくりやれってんだよ!」
「お前、声が大きい」
「ハッ」
顔を真っ赤にして言いたいことを言い切ったテイトは、口を真一文字にしたまま思い切り視線を逸らしている。
「大丈夫だ、今夜は激しくしない」
「う……」
「それとも何か、もう一つ部屋借りて、そこで大胆にやっちゃう?」
「司教の言うことじゃねぇ」
「本音だ。いつでも本心を曝け出すことは人として正しい行いだと思う」
「意味分かんない」
「そういうわけで、続き」
オレはテイトが着ているシャツに手をかけた。言っとくが、こいつが着ているシャツはオレのだ。ぶっかぶかのダボダボで、どこからどう見てもワンピースかドレスにしか見えねぇ。しかも違和感なし。もっと髪を伸ばしたら本気でお姫様でいけそう。
と、オレがじっと見てたら、
「あんまり見るな」
不服そうにテイトが言った。
「ああ、わりぃ。んじゃ、遠慮なく」
「おわ、ばかっ」
一気に脱がそうとしたらテイトが暴れた。
「おいおい、恥ずかしがってちゃ進まねぇよ」
「だっていきなり脱がそうとするから!」
「いきなりじゃなくてどうしろと?」
全く何を言い出すのか、これからすることを考えればオレの行動は妥当だと思うが……。
「もっと、こう、少しずつ」
「チラリズム的な!?」
「な、違……!」
「ったく、我儘だな」
「どこがだよ」
「っていうか、カペラは今ぐっすり眠ってる。目を覚ましにくい時間帯だぜ。あんまりてこずると一番やばーい場面でばっちり目が合うってことがあるかもな」
「どういうことだ」
「さっさとしねぇと、途中で可愛い弟分が起きちゃって、お前のあられもない姿を見てあんぐりするってことだよ」
「わぁ、それは嫌」
「だろぉ?」
シャツがするりと抜けた。細くて突っかかるところが無いぺったんこな躯はいとも簡単に服を脱がすことが出来る。これじゃあ、やっぱり色気もスリルもねぇってか?
だが。
「あー、前につけたやつ、消えてるねぇ」
「?」
「キスマークだよ。前回、右の胸と脇腹につけただろ」
「う、ん。消えちゃった」
「じゃあ、今日はもっと付けような」
「って、あッ」
胸に吸い付けば途端に声を上げる。すぐに翡翠の瞳が濡れて、これは他のやつらには分かんねぇだろうが、切なげなたまらない表情をする。同じ泣くという行為でも、悲しいとか嬉し泣きとは全く違う、性的な快感を得た顔だ。しかも、単にいやらしいっていうんじゃない。護りたくなるような儚い表情はどうやって覚えたのか。なんて、こんな顔をするようになったのはオレのせいで、カストルに余計なことを教え込むなと散々釘を刺されていたが、もう遅い。回数を重ねてやっと、脚を開くタイミングもつかめるようになってきた。
「あんまり……強く……」
テイトが苦しそうに何かを言っている。ベッドでの細かい注文には態度できちんと答えてやるが、小言なら聞かねぇよ?
「ああ? どうした?」
「強く吸われると、声が出る」
「いいじゃねぇか。声出しな」
「駄目だって」
「あー、カペラとミカゲが起きちゃうもんね。それだけならともかく、叫んじゃったら隣の部屋の人まで飛び起きちゃうかも?」
「んなワケないっ」
「折角だから隣人にも聞かせてやったらどうだ?」
ちょっとだけ意地悪を言ったオレもオレだが、途端にテイトは目を潤ませてくちびるを震わせ始めた。
「なんで泣きそうなの。っていうか泣いてんの」
「聞かれたくない。オレがおかしくなってる声なんて、誰かに聞かれたら嫌だ」
「まぁ、普通はな」
当たり前のことを当たり前のように言った。しかし、そんな小さいことを一々気にするのもテイトらしいって言えばらしいんだが。
「カペラにだってミカゲにだって見られるのも絶対駄目」
「はいはい、分かってるよ」
「じゃあ、なんで駄目なのか分かるのか」
何かオレ責められてる?
「恥ずかしいからだろ」
お前は経験もないし、まだ子供だし慣れないし、みっともないっていう先入観があるからな。初々しくてほんとに可愛いやつ。
そしたらテイトは首を振って否定した。
「違うよ」
違うって何が。そしたら、トドメの一発がやってきた。
「フラウにだけならいいんだ。フラウじゃなきゃ嫌。フラウだったらいい」
「……」
「声を聞かせるのも、こんな格好を見られるのも、フラウだけにしたい」
「お……」
「他の人には、絶対嫌」
「お前、この、バカが!」
オレを殺す気なのか? いや、オレは死んでるんだった、そんで今更簡単には死なねぇんだ。っていうか、今にも召されそうなんだが。
「バカって言うな。オレは真剣なのに」
「これからお前を抱くってのに、オレは約束を果たせるかどうか分かんねぇよ」
「えっ」
静かに優しく、そっと。これが今日の課題。……が、どうも無理っぽい。とりあえず努力はしてみるが、出来なかったら出来なかったで言い訳もある。
「誰のせいだ」
「誰のって」
ぜんぶこいつが悪いに決まってる。
「まずはたっぷりキスしてやろう。全身に跡つけような」
「そんないやらしいこと!」
「何とでも言え」
「ちょ、や、やだ、いきなりそこから!」
上からやるんじゃ芸がねぇだろ。まずはココだ、内腿。思いっきり脚を広げてやって何もかも丸見え状態。当然、テイトはバタバタと暴れようとした。
「駄目だって! うああ!」
「自分から静かにそっとやれって言ったくせにガタガタうるせぇな。オレは優しくしてるぜ?」
「うう!」
「オレはもうお前をめちゃくちゃにしたくて我慢の限界なんだ。それをやんわり進めている。今後の抵抗は認めない」
「勝手に決めんな! あ、あ、ひゃああ」
数箇所一気に攻めてやった。濃く残したり淡く色づけたりと好き勝手してたらテイトはピクピク反応してた。
「ほんと、お前の躯はうまそうだ。そそる」
「そんなわけない」
「次は背中かな」
「だから、そこは……」
「お前さ、男のくせになんでウエストカーブしてんの? たまんねぇラインだぜ?」
「知らねぇっ」
「お肌もしっとりしててすっべすべ。お手々も可愛いし」
「嘘つけ」
テイトの声が真剣だった。オレは嘘はついていない。褒め殺しをするつもりもない。真実を言ってるまでで囃しているわけでもない。
そしたらテイトは悲しそうな声でこう言った。
「オレは戦闘用奴隷だぞ。躯は傷だらけだ。こんなのが綺麗なはずない」
「……」
「背中の烙印を見て汚らわしいと思わないのか」
「……」
「オレの手は血で染まっている」
「それはお前の解釈だろ」
「!」
「奴隷だったからって汚い? そういう決まりでもあんのか? たとえ泥だらけになったって、綺麗なもんは綺麗なんだ。元の作りとか、色々ね」
魂については、今は触れない。だけど、こいつは何を言っても難しい顔をして納得しないんだ。強情なやつ。
「そんなの一般人には通用しない。顔が綺麗だって言われることはあっても、裸にすればバレる」
「実は妙な色気があることが?」
「オレはっ」
「さぁ、往生際の悪い王子様、オレを愉しませて下さいませんか」
「なっ」
「黙って抱かれてな」
「!」
四の五のうるせぇから、何も言えねぇようにしてやる。
くちびるを塞いで力いっぱい抱き締めると、テイトは苦しそうにもがいていたが、腕の中で暴れたって痛くも痒くもねぇ。そのうち大人しくなってオレの背中にこわごわ手を回すんだ。
「……ふ、ぅ」
ほら、だんだんイイ子になっていく。
舌を絡めることも覚えたし、角度を変えればそれに合わせて首を傾げる。手はオレの背中へゆっくりと移動して、今日は……どこを……ああ、広背筋ね、背中の筋肉のことだけど、そこをずっとなぞってる。
「お前、筋肉フェチ?」
「え?」
「オレの躯を触るとき、筋肉なぞるの好きだよなって思って」
「だってオレにはないものだから」
「……」
この間は増帽筋……ってのは肩の辺りの筋肉だけど、そこをずっと触ってた。だが一番よく触るのは、いや、触りたがるのは腹直筋、つまり腹筋だ。
「フラウっていやらしい」
いきなり何だ? そりゃあエロ本持ち歩いている時点でいやらしいってのは自分でも分かってるけど、男は元来そういう生き物だぜ。
「悪かったな、でも最近はエロ本買ってねぇよ」
何しろお目付け役であるテイトの監視が厳しいから。
「そうじゃなくて見た目かな。躯が大きくて、男って感じで、全身から色気出てて。やっぱ筋肉って必要だよな。逞しくて、同じ男でもうっとりするよ」
「司教ですが」
「うん、見えない。変な商売してそう」
「なんだ、それは」
耳が痛い台詞にオレは苦笑するしかなかった。ぴったり密着しながら余裕の会話、このまま何をしても、今度こそテイトは抵抗もせずにオレを受け入れるだろう。もう一度深いキスをしてやれば、こいつは無防備で無抵抗の子猫みたいになって甘えてくるんだ。
「そのいやらしい男に何されてるか分かってる?」
「……」
「しかも、お前だって人のこと言えねぇし」
「それはこういう時だけじゃん。オレがいやらしくなってる姿はフラウにだけ見られたいけど、ほんとはフラウの躯も、誰にも見せたくない」
「!?」
「あんまり露出するな」
「ろ! ……一応普段出しちゃならんところはしまってあるが?」
「そっちじゃなく! オレはそのコート一枚ってだけでも許せねぇっつってんの」
「初耳!」
「今度こそマフラー買ってやる」
「は? 何の話?」
「胸元開きすぎだし」
「あ、これが気に入らねぇの? じゃあ、そうだな、Tシャツでも着ようか」
「……」
「白なら爽やか系?」
「……」
「いっそ柄ものでもいいか」
「いや、イメージ的におかしい」
「どうしろっていうんだ」
「分からない。でも、ずるいし、困るし」
「ええ?」
「せめて裸になるのはオレの前だけにしろ」
「……どうしようかな」
「テメー」

これはあれだな、独占欲ってやつだ。だが、お前はオレのもので、オレはお前のものだって、もうこれは決定事項なんだよ。むしろ法律? 聖書にも載ってるから。教典の第何章だっけな。ってなわけで、ここから先は独占欲による独占力の乱用が始まる。覚悟は出来てるのかな、この王子様は。

「早く」

早速催促が来た。そしてこれがまた強烈だったりする。だって自ら脚を絡めてきたんだぜ? 小さいくせに脚力が凄い。

もしかしてオレのほうが先に参っちゃうかも。