Conclusion A(ヒュウコナ) ヒュウガver |
オレがコナツに何をしたいかっていうと……。 「ちょっと遊ぼうか」 って、オレが遊ぼうっていうと変な遊びに聞こえるかもしれないけど、違うからね? 特に変わったことじゃない。オレはただ、コナツと無邪気に遊びたかっただけ。子供みたいにふざけて、笑って、難しいことは何も考えずに一緒の時間を過ごしたかった。ただそれだけなんだ。他に意味はない、まったく、これっぽちもない。 そりゃあオレがコナツにしたいことって言ったら数え切れないくらいある。もちろん、ベッドの上でのことじゃなくて。まぁ、ベッドでしたいことのほうが多いかもしれないけど。 で。 オレは今、コナツを素っ裸にしてバスルームに連れ込んだわけだけど、服を脱ぐまで駄々をこねてイヤイヤして、赤ん坊より梃子摺るったらない。「恥ずかしい」なんて男が言う台詞か? コナツはオレを手のかかる赤ん坊みたいだって言うけど、それはコナツのほうだと思う。赤ん坊のほうがおとなしく裸になるよ。 ここまでくるのに、オレはまずコナツの右手をとってキスをした。コナツの右手は甲は綺麗だけど手のひらは剣で鍛えた独特の跡が残っている。初めて手合わせをした日に倒れたコナツを介抱したオレは、最初にコナツのてのひらを見たのは今でも内緒。右手右腕だけは傷付けずに残してやったんだ。けれど血豆が潰れて、この若さで皮が相当厚くなってたことには驚いた。それは刀を握るオレも同じ。そしてこのてのひらはオレにしか分からない痛みがある。 右手にキスをすることは、オレたちの絆を確かめ合う行為でもあるから、大体コナツはここでおとなしくなる。「お利口だね」って言うと、黙って俯いているけれど、オレはコナツに無抵抗の状態にさせておいて何かを強要したいわけじゃない。 ただ、コナツを休めたかった。 小細工もごまかしもなしで、コナツに優しくしたかっただけ。それが偽善だとか大きなお世話だと言われても仕方がないと思っている。オレはコナツに厳しくあたるときがあるからね、急に真面目になったらコナツも驚くだろう。ただ、最近はさすがに疲れてるようだから、きちんと休ませてやりたい。でもコナツは理解出来ないようで、 「少佐?」 案の定、不思議そうな顔でオレを見た。 「いいから、おいで」 「……」 まず、オレはコナツの髪を洗ってやった。泡だらけにしたあと頭からシャワーを浴びせてコナツは息が出来ないだの目に水が入るだの暫くもがいてたけど、そのあとすぐに躯も洗ってやった。ここでも素肌が見えないほど泡でいっぱいにして、雪だるまを作るみたいに遊んだ。コナツは自分だけが遊ばれるのを怒って同じことをオレにもしてきた。コナツはオレの躯がデカすぎて洗えないって騒いでたけど、そんなの今更じゃん。 バスタブ泡だらけにして雪合戦ならぬ泡合戦して投げてたらコナツは負けず嫌いだから自分が劣っているとなるとムキになって仕返ししてくる。やりすぎて初めて、オレが上司だってことを思い出したように急にかしこまって謝ってくるんだ。 そんなの関係ないのになぁ。 さんざん遊んだあと、風呂から上がってコナツの髪をタオルでごしごし拭いてやったら、コナツは途端に黙り込んだ。 「どうしたの」 「こんなふうにされたことがないので……少し緊張を」 ああ、そうか、そうだろうねぇ。普段は人に甘えることなんてしない子だから、優しくされることに慣れていないんだ。 「緊張しなくていいから、普通にしてて」 「はい」 「あ、でも今日はコナツを抱かないよ」 コナツが構えなくてもいいように最初にそう言ったら、コナツは顔色を変えた。 「そんな顔しなくても、安心していいよ?」 「私を抱かない……のですか?」 「うん」 「そうですか。あっ、分かりました、では、私はそろそろ失礼しなくては!」 「は?」 何言ってるの、コナツ? 意味がよく分からないんだけど。 コナツは慌てて躯をタオルで拭いて髪をびしょびしょに濡らしたままシャツを着て軍服を手に取った。 「何やってんの?」 「えっ、少佐は出掛けられるんですよね?」 「なんで? この格好で?」 有り得ないだろ。オレ、今、裸よ? 「い、いえ、服は着て行かれるでしょうが……ハッ、もしかして来客があるんですか?」 「ええええ?」 コナツ、もしかして……。 「私を抱かないのなら、どなたかと約束があるのではないかと」 「やっぱり! コナツ、思考が飛んでる!」 「違うのですか?」 「違うも何も、ここまできてなんでオレが出掛けるとか来客があるっつう展開になるのさ。おかしいでしょ」 「……」 「うん、とりあえず、こうね」 一から説明しよう。 「オレが仕事をしてるコナツを引き止めたのは裏があって、それはオレがコナツ抱きたいからだって気付いてくれてコナツは渋々仕事を中断した」 「はい」 「オレの言うとおりにしようと思いながら一緒に風呂に入って、コナツはその後オレに好き放題される覚悟をしてたんだよね?」 「は……い」 「でも、オレがコナツを抱かないって言っちゃったから、コナツは瞬時に自分が欲求の対象にならないのなら、オレがどこか違う人のところに遊びに行くと思ったわけだ」 「そうです」 「一緒に風呂入ったのは何のため?」 「躯を綺麗にしてから出掛けるためです」 「コナツにオレの躯を洗わせて? オレだってコナツを洗ってあげたじゃない」 「それはそうですが」 「あのさ、オレがコナツを抱かないと他の人のところに行くんじゃないかって考えるのやめたほうがいいよ」 「でも、そうとしか考えられなくて。それに何度も申し上げますが少佐が何処へ行かれようと少佐の自由です。悪いことではありません」 「……」 引きとめようとも思わないのかね。もっと、こう、しがみついて行かないでって言ってくれてもいいのに。コナツがあまりに素っ気ないからオレほうが切なくなっちゃうよ。 「少佐は大人ですし、お付き合いも色々あるでしょうから」 「気の利いた台詞だね。さすがだ。だけど、オレと二人きりになったときは、そんなこと言わないように」 「はい。すみません」 「コナツは先回りしすぎるよ」 「つい……」 だろうねぇ。まともな恋愛経験もないから、これでも精一杯勘を働かせてるんだろうなぁ。たとえ話が噛み合わなくても仕方がない。そんなコナツも可愛いと思ってるけど。 「じゃあ、私はここに居てもいいのですか?」 「オレは何処にも行かないし、誰も来ないよ」 「本当に?」 「嘘ついてどうするの」 疑われてる。オレ、どんだけサイテーな男だと思われてんの。まぁ、普段あれだけ好き勝手やってるから仕方ないよね。するとコナツは、 「……良かった」 胸に手を当ててシャツをぎゅっと掴んで泣きそうな顔をした。 「コナツ?」 「安心しました」 ほんの少し頬を赤らめて俯いて。 「可愛いんだけど」 「えっ」 「何処に行こうがオレの自由だって言ったよね? でも、ほんとに出掛けちゃったら嫌?」 オレはコナツに本音を問いただそうとダイレクトに聞いてみた。そしたらコナツは……。 「少佐が私を抱かないと仰ったとき、てっきり私の躯に飽きてしまわれたのかと思ってしまいました」 なに? 「覚悟をしてきたのに少佐はその気がないようだったので、その原因は私にあるのだと」 「コナツ〜?」 だから、違う。違うんだって。 でも、素人だったらそう考えるのかね。もっとポジティブな子だと思ったんだけど、こういうことになるとかなり疎い。まぁね、この年で経験豊富で恋愛の駆け引きに慣れてたら変だし。 だけどコナツは意外なことを言って来た。 「でも、もう一つだけ理由が考えられました」 「何、そのもう一つの理由って」 「確率的には一番低くて、当たらないと思っていたことです」 「なんだろうな」 とりあえず、外れてるか当たってるかの確認はしたい。そしたら、 「私に何もしないこと」 そう答えた。 「何もせず、私を……」 そう言いかけたのを、オレはコナツの口に人差し指を当てて止めた。続きはオレが言うべきだと思った。 「そばに置く。なんにもしないで、ただ、そばに居く」 「でも、それはないと思ってました」 「どうして」 「少佐が何もしないなんて」 だろうねー。オレがただでコナツを帰すわけないもんね。 「たまにはアリだよ」 「じゃあ、これからはそれも考えておきます」 「そうして」 というわけで。 何もしないって言ったからには何もしなかった。コナツはさっき眠ったばかり。一人にしておいたらきっと遅くまで仕事するだろうし、放っておけないからとオレの部屋に連れてきたとしても激しいことをするつもりもない。二人でベッドに入って「おやすみ」って言ったら目を閉じてすぐに眠っちゃった。でもね、目を閉じる前に恥ずかしそうに笑って「ありがとうございます」って言ったの。可愛いかったなぁ。 それよりも、軍服しかないからオレの部屋着を着せたんだけど……これがまたサイズが合わないからブカブカで、そのアンバランスなところが何とも言えなくて理性が飛びそうになった。けど、抑えた。服を着ているはずなのに肩とか見えて脱ぎ始めのようにも見えるし、なのに袖が長いから手は指先の爪の部分しか見えないしで、これを目の前にして平静を装うのは至難の業だった。だがオレは耐えたよ。でないと何のために休ませようとしたのか分からないからね。 でもさぁ。 今日我慢した分、明日激しくしそうで怖いんだけど。さて、どうなることやら。 |
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