Conclusion @(ヒュウコナ) コナツver |
私が少佐を尊敬するのは、出逢ったときから私が勝手に決めたことで、勤務中どんなに不真面目な態度を見せたとしても少佐に対する憧憬はいまでも変わらない。 けれど、一緒に居るようになって分かったことがたくさんある。 いい加減なのに強いのは周知の事実で、最近私が少佐の行動を見ていて気付いたことは、普段はあんな言動でも少佐は私を大事にしてくれているという意外な事実だった。仕事の終わりには必ず私の顔を見て声をかけてくれるし、疲れていると疲れを取るために食事を奢ってくれたり、何らかの褒美がある。 それに、私は知らなかったことだけれど、少佐は私がどの程度の仕事をしたのか、すべて把握している。私が何をしているかなんてデスクワークが嫌いな少佐は全く知らないと思っていたから、一日の終わりに私がしていたことを口頭で当てられると、ちゃんと見ていてくれていたのかと驚く。少佐は昼寝ばかりしていて参謀部の仕事には興味がないと思っていたのに、やはり周りをよく見ている……というよりも見抜いているようだった。 そして今日も夕食を終えて参謀部に戻り、私はしばらく集中して書類をまとめていると、 「コナツ、そろそろ切り上げよう」 少佐に言われて時計を見た。21時を過ぎていたが、 「もう少しかかります」 残りの書類を数えながら答えた。恐らくあと1時間もすれば終わるだろうと思った。けれど少佐は、 「もうやめなさい。これ以上は躯にさわる」 そう言ったが、それは私の一日の仕事量を比較して引き際を示してくれているのだということも最近になって分かったことだ。 けれど、仕事が終わらなければ、 「大丈夫ですよ。まだ出来ます」 そう言うしかない。中途半端にしたまま帰るのは嫌なのだ。 「若いからね、無理算段したいのは分かるし、コナツはきっちりしてるからやり遂げないと気が済まないだろうけど」 少佐は腕を組んで真面目な顔で私に言った。 「ですが……」 この仕事は急ぐのだ。私個人に頼まれたことで、こればかりは他の人に手伝ってもらうわけにはいかなかった。それでなくても、書類を溜めるのはよくない。明日になればまた他の部署から山のように書類が運ばれてくる。参謀部に事務仕事が付き物なのは知っていたけれど、これほどハードだとは思わなかった。3年経っても書類に追われる日々だ。 私が迷っていると、 「オレ、帰るよ」 少佐はそう言って帰り支度を始めた。 「あ、はい」 私は慌てて机の上を片付け、 「少しお待ち下さい。お送りします」 今の日課は、少佐が仕事を終えて戻る際に、私が少佐を部屋まで送りながら業務連絡をすることだった。そして翌日の予定を知らせる。 最近は大きな出来事もなく物騒な連絡事項はなかったが、会議だけは数多く行われた。 「平和だと穏やかでいいねぇ」 「それは誰もが願っていることです」 「そりゃそうだけどさ。で、コナツ」 「なんでしょうか」 部屋に着くと少佐は私を手招きし、中に入れた。報告が長引いたせいもあるけれど、それだけはないようだった。 「また参謀部に戻るの?」 「はい。あと少しで終わりますから」 「……いいよ、もう。今日は残業しないで終わりにしなさい」 少佐の命令は絶対で、私は従うしかなかったけれど、 「明日までに仕上げないとアヤナミ様にご迷惑をお掛けすることになります」 状況を説明してみた。決して口答えをしたわけではない。 「あぁ、あの書類、アヤたんに提出するんだっけ」 「はい」 少佐は軍服を脱ぎ部屋着に着替え、私はそれらをクローゼットに片付け、 「シャワーにしますか? 準備します」 できるだけのことをしてから部屋を出ようと思った。 「うん、浴びる。でもコナツも一緒だよ」 「えっ」 私はその時初めて少佐に誘われているのだと気付いた。だから私に参謀部に戻るなと言ったのだ。私は相変わらずこういうことには鈍感で、気付くのが遅かったことを失態だと思った。 私は書類を片付けるのを後回しにしようと考え直し、 「分かりました」 と答え、バスルームにお湯を張った。 「あー、疲れた。オレも年だな」 「何を仰るんですか。今日は外で何をされていたんです」 振り返って少佐を見るとソファに寝転がり、サングラスも外して、すっかりリラックスムードになっている。 「千人斬り」 あくびをしながら答えていたけれど、私は耳を疑った。 「千人!?」 冗談のように言うから本当かどうか疑ってしまう。でも、少佐は事実を冗談のように言い、冗談を事実のように言うのだ。少佐が殺伐とした仕事をしてきたのは嘘ではないと思った。 「結構体力要るんだよ」 何の仕事かと思ったが、少佐がしていることは複雑な事情が絡んでいることが多い。 「それなら私や中佐もお手伝いしましたのに」 「コナツは忙しいし、内密だから他言無用」 詳しい場所を聞いて大体の内容は把握出来たが、私はそれ以上のことを聞かずにバスルームの様子を見に行った。 「もう入れます、どうぞ」 そう言うと少佐は起き上がり、大股でバスルームに向かった。その姿をボーッと見ていると少佐は突然振り向いて、 「おいで」 私を呼んだ。 「は、はい」 私の頭の中は仕事の続きをどう処理するかでいっぱいで、少佐に誘われても集中出来るかどうか自信がなかった。ここでも私が迷っていると、 「いいからおいで」 強引に呼ばれたのだった。こうなれば何を言っても少佐は力ずくでも私に言うことをきかせるだろう。私は黙って従った。 人前で裸になるのが恥ずかしく、少佐のように堂々と服なんか脱げない。 「ためらうと余計恥ずかしくなるよ」 「えっ」 「そんなじっと見たりなんかしないから、気にしないで」 「……」 今日に限って少佐が優しい。 シャツを破られる覚悟でいたのに、私の予想を反して少佐は穏やかだ。一体なぜ。 「コナツの頭の中は仕事でいっぱいなのと、オレがいつもと違うから調子が狂ってるって感じかな」 当たってる。 私は内心ヒヤリとしていたけれど、今度はもっと深いところまで追及された。 「やることやったら参謀部戻って仕事しようと思ってるね?」 最初は何を言われているのか分からなかったが、その意味を理解し、私はギクリと反応してしまった。やることやったらって……その表現はあからさまです、少佐。 でも本当にそう思っていたから、頭の中を読み取られて驚いた。 「夜中に仕事するなんて、頑張るなぁ」 少佐は笑っていたが、その笑顔の裏には違う何かが潜んでいると思った。 「……私を引き止めますか」 「うん、そのつもり」 「えっ」 「オレより仕事優先するなんて許せないねぇ」 「それは少佐が中々書類を見て下さらないから進まないわけで! なんなら今ここに仕事を持ち込んでもいいんですよ!」 私は思わずそう言ってしまったが、 「そうか。コナツはオレに抱かれながら仕事をすればいいわけだ。一度で二つのことが同時に済んじゃう。凄いね」 「その通りです!」 そんな器用なことが出来るかどうかは分からないけれど、気持ち的にはまさにそんな感じだ。 「なーんて、出来るわけないでしょ」 少佐が顔つきを変えて低く呟いた。 「……!」 「っていうか、オレがそんなことさせない」 私は今度はゾクリとした。この段階で少佐がこう宣言するということは、ただでは私を帰さないだろう。 「まさか……私を酷く扱って動けないようにするつもりですか?」 拘束? 監禁? お仕置き? 私は何をされるのか。 「どうしようかな、色々手はあるんだけどねぇ」 「……」 少佐はやると言ったら本当にやる。それは私が喚いて抗議をしても意思を変えることはない。 「酷くされるのは嫌だよねぇ」 「当たり前です!」 「んじゃ酷くしよう」 「意地悪しないで下さい!」 思わずそう言ってしまったが、これも冗談だということは分かっている。分かっていても大声を出してしまうのは、私自身、少佐とのこういったやりとりがストレスではなく、逆にストレス解消になっているからだ。 そして、私が何か言ってみようと口を開きかけたとき、 「……コナツ」 少佐が真面目な顔で私を呼んだ。その声が深みを帯びて、いつもの感じと違っている。 「はい」 それでも真意は見えない。すると、 「オレが何をしたいか分かる?」 少佐はゆっくりと私の手をとった。 「えっ」 思わず息を飲む。少佐の一挙一動はすべてに意味があって、普段軽口を叩いているけれど、本当は、たった一言でも重みがあるのは知っている。だから、 「分からなければ教えてあげるよ、この躯にね」 そう言われたとき、私は怯えたが、見上げると少佐がゆっくりと微笑んだ。 「少佐……」 「コナツ、いい子だからね、こうしてあげたいんだよ」 「!」 その時ようやく気が付いた。少佐が私にしたいこと、それは── 。 |
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