over again(ヒュウコナ)                                       コナツver
ベッドの中、行為のあとで私が動けないでいると、
「大丈夫?」
少佐が心配そうに私の顔を覗き込んだ。いつも茶化してばかりの少佐がこういうときは真面目で、私がまた失神寸前だったのを気にしているようだった。
「すみません」
謝ることしか出来ずにいると、
「凄かったねぇ」
今度は嬉しそうに微笑んだ。
「はい。気持ちよすぎました」
正直に答えたが、私は相当な痴態を曝してしまったのだ。
「私、変でしたね。少佐がびっくりしてるの分かりました」
墓穴を掘るのを覚悟で弁解してみたら、
「でも可愛かったよ」
やはりそう言われてしまった。
「抑えられませんでした」
あんなに気持ちよくては、無反応でいることなど出来ない。
「我慢する必要ないでしょ」
「はい」
少佐がそう言ってくれるから安心する。
「オレもコナツのいいとこいっぱい見れて幸せ」
言いながら私の頬を撫でたあと、首をくすぐる。
「あッ」
私はたまらなくなってまたおかしな声を上げたが、
「いい子だねぇ」
少佐は愛護するように私を見るのだった。
「少佐はいつも私を子供扱いしますね」
「そういう勝気なところも含めて言ってるんだよ」
「もう……!」
私が唇をとがらせると、
「ほら、きた。その顔がねぇ」
少佐はまた私をからかう。
「コナツが泣くのも怒るのも好きだよ。ほんといい顔するよね」
「……」
褒められて何も言えないまま固まっている私の髪にキスをすると、ベッドから抜け出し、
「シャワーどうする?」
柔らかい笑みを見せながら訊ねてきた。このときの目つきや仕草がやたらと色っぽくて何度見てもゾクリとするのは何故だろう。
少佐の行動は大人で私には真似出来ないものだ。裸のまま人前に立って、ここまで堂々としていられるのも少佐だからだと思う。
「後からでいいです」
私はまだ躯を起こせそうになかった。それに、今は焦らなくてもいい。
なぜなら少佐は中には出さず避妊具を使ったからだ。私が妊娠することはないけれど、それを使うことによって後処理もらくで、急いで中にあるものを出してしまわずともゆっくりベッドの中でまどろんでいられる。
「じゃあ、お先〜」
少佐は一度にっこりと笑ったあと再度私の髪にキスをして、くちびるにも啄むように触れるとバスルームへ行った。
「……」
私はゆっくりと手を動かして指先を自分の口に当てる。
「少佐のキスは後を引く」
たった今、狂うほど熱く求め合ったばかりだというのに私はたまらなくなって少し上半身を起こし自分の躯を見た。
「わぁ、鮮やか」
胸に付けられた幾つものキスマークは花弁の形をしていた。
「少佐の得意業は剣だけじゃなく、これも? 通常はこんなふうに見事に付けられるものだろうか」
思わず誰かに見せたい衝動に駆られる。
「ていうか吸われてる時に意識飛びそうになるくらい気持ちいいし。もうミラクル」
事後に思い出して浸るのは一人残された空間でのみ許される。だから私は少佐にシャワーを勧めるのだ。
ただ問題なのは、彼が戻ってきたときに冷静になれるかということだ。
「無理……かな。私もシャワーを浴びればいいのだけど」
そうやって暫く一人、さきほどまでの少佐との行為がどのくらい熱くて激しかったかを思い出していると、
「コナツくーん?」
「あ」
少佐は水滴を躯に残したままバスタオルを腰に巻いて出てきた。
それを見た私は、咄嗟に、
「水も滴るイイ男ですね」
思わず呟いてしまった。
言ったあとで、ありきたりな表現だったことに気付き、もっと他に言い方はなかったのかと後悔したが、
「イイ男ぉ? そーお?」
少佐は本気にしていないようだった。
「本当のことですよ」
「……」
「少佐はかっこいいです」
嘘は言ってない。
「……コナツ、いじめられたい?」
「えっ」
「煽るコナツが悪いなァ。シャワー勧めようと思ったけどやめた」
「!?」
少佐はまだ何も纏っていない裸の私を覆った。
「えっ、ちょ……っと」
私が慌てているのも構わず顔を近づけてくる。
「嫌なら首を振って。いいなら目を閉じて」
「……!」
逃げられないと観念し、目を閉じた。そして私は彼からのキスを待つ。
「やっぱり悪い子」
少佐はそう言いながらくちびるを合わせた。
私は腕を伸ばし、その広い背中に手を這わせながら腰まで辿ると、私たちを隔てるものを取り払うように巻かれたタオルを外した。
そしてキスが深くなる。
「……ぅ」
先に反応するのは私で、意識せずともすぐに声を漏らしてしまう。
「甘い声」
「……っ」
「コナツの透明な声って好きだよ」
「!」
「そんなわけで、啼いてもらおう」
「少佐!?」
どんなに褒められても大声を出してはいけないと自分の手で口を塞いでいると、手を取られ、手の甲にキスをされた。そして少佐は私の脚を軽々と持ち上げ、
「ごめんね」
と言った。
次の瞬間には下半身に痛みが走ったが、数十分前には受け入れていた箇所だ。すぐに痛みは消え、少佐が私の様子を見ていることに気付き、
「動いてもいいですよ。さっきよりも激しく」
そう言ってシーツを掴んだ。何かに縋らないとまた少佐を引っかいたりつねったりしそうで怖い。
「なんだか可愛いよねぇ。いちいち可愛い」
「からかわないで下さい」
私が真剣に言うと、
「からかう? オレがコナツにしていることのぜんぶは本音だし本心だし偽りのない真だよ」
「!」
「オレはコナツ狂だからさ、多少はおかしいかもしれないけどね?」
「少佐……」
こんなときにそんなことを言うなんて。
だから、私は少佐には勝てない。
「大体ね、なんでこうバカみたいにコナツを抱きたくなるんだろうね」
そんなことを言われても……。
「このあとでまたシャワー浴びに行っても同じこと繰り返しそうだよ」
「そんなの私も同じです」
思わず言い返してしまったが嘘ではない。
「そう? 珍しく意見が一致した」
「一致って……」

その後のことは記憶にない。少佐が続けて何か言っていたようだけれど聞いている余裕はなかった。そして案の定私は最後に失神した。

朝になって分かったことだが、私が気を失うことで少佐もセーブ出来るようになるとのことだった。さすがに意識が飛んでいる人間を相手にするのは可哀想だと言った。けれど、そのあとの台詞が、
「ぐったりしたコナツも色気たっぷりでたまんないんだよ?」
だったから、答えに困った私は、
「そんなの知りません」
そう言って恥ずかしいのをごまかすしかなかった。
私は損をした気分になるやら申し訳ないやらで嬉しくはないのに。
だけど、あの快感は本当に素晴らしくて言葉に出来ないほど。それを与えてくれる少佐を責めることが出来ないのも事実だった。
気を失ってなければ私もまた、
「もう一度」
と言っていたかもしれない。