或る夏の日、床の上で荒々しい息遣いと乱暴な仕草で狂ったように絡み合う二人が居た。それは決して愛に満ち溢れた行為には見えず、灼熱のいざないに悟性も自制心をも投げ捨てられ、ただ病的な興奮がもたらす常軌を逸した行動が互いを苦しめているとしか思えない光景が広がっていた。
狂ってしまったのは誰なのか、魔の迷宮に入り込んだのは二人が望んだことであるのか、それとも── 。 「ああッ、イヤー!!」 コナツが部屋の隅で絶叫している。 「コナツ、騒がない、騒がない」 「少佐っ、ひどい! やめて下さいっ」 「やめないよ」 「アッ」 二人が何をしているかというと、暇つぶしに始めた鬼ごっこで、ヒュウガは自分が鬼役、コナツが逃げる役と勝手に決め、ルールの説明もないまますぐに始めてコナツを捕らえたのだった。 「スタート」の合図のあと、反射的にすぐに逃げようとしたコナツだったが、一発目はお互いの距離がなかったためにすぐに捕まり、ただ捕まえるだけではつまらないから、 「犯す」 と言い、勝手にコナツを強姦し始めた。 始めは何をされているのか分からなかったコナツも、ズボンを下げられて異変に気付き、暴れて抵抗したがヒュウガの腕力にはかなわなかった。 「ど、どうして……ッ」 「だって燃えるんだもん」 「そんな!」 準備もせずにいきなりの挿入である。 「うぐッ!!」 当然、まともに入るはずもない。ヒュウガのオスの部分は既に形を変えていたが、乾いた巨大な先端がコナツの狭い後孔をこじあけようとしても、皮膚が突っ張るばかりで双方に激痛が走るのを、ヒュウガが素早く自分の指を舐めて唾液をとると、自身に塗りつけ、次に片方の手をコナツの口に突っ込み、コナツの唾液をすくいとって受け入れる箇所に塗りつけた。 「ひッ」 「何としても挿れる」 「あ……、ア……!?」 どうしてこんなふうに乱暴をされるのだろうと涙が出そうになった。 「ん……挿るかな」 「痛ッ! 痛いッ!」 「だろうね。でもやめないよ」 「いや……いや……ッ」 「泣いても駄目だからねー。お、三分の一……まだか、四分の一まで装填」 「イ……ッ、いたい、いたいっ」 「我慢して。耐えていればすぐに終わるから」 「ぐっ」 痛みで気が遠くなりそうだったが、だからといって速攻で済ませられるのも嫌だった。そんな扱いをされることが悲しい。すぐに終わると言われても、実際は3分以上はかかっている。 コナツは、その間、しゃくりあげながら「痛い」と叫んでいたが、ヒュウガがその訴えに耳を傾けることはなかった。そうして10分も経った頃だろうか、 「あー、中出ししちゃうけど、いいよね」 確認という名の強要である。 「……だ、だめ」 「は? 今更遅いし」 「駄目ですっ」 「無理だよ、もう出そうだもん」 「!」 たとえ断ってもコナツの意見は取り入れては貰えない。抵抗するだけ無駄だと思い、素直にイエスと言えば良かったのかと思うが、中に出されると後処理が大変なのだ。いつもはヒュウガがしてくれるが、今回のヒュウガは狂気じみていて、後処理などしてくれるのか、むしろ、もっと酷い扱いをされるのではないかと怯えてしまう。 「あー、なんだってイイんだろう、コナツの中。絶対他とは違うよね。なんでだろ」 「……少佐……ッ」 こんなふうに適当に欲望の対象にされて、道具としか思われていないのは辛かったが、 「あんまり濡れてないし、きついから奥まで入らないけど、中に出すから、このくらいでいいか」 小刻みに腰を動かしてヒュウガはブルッと震えた。 「!?」 「……出しちゃった」 「えっ」 「待って。すぐ抜くから、抜いたら逃げていいよ」 ヒュウガは愕然としているコナツを尻目に、自身を抜いてしまうと、ほんの少し萎えた自分のものを手に取り、 「まだまだ」 扱きながら半勃ちにさせた。 コナツはその場に崩れるように座り込むと、 「もうやめて下さい」 苦しそうに訴えた。 「なんで? ゲームだよ、ゲーム。ほら、逃げないと捕まえちゃうよ」 「!」 コナツが後じさると、 「遅い。そんなんじゃすぐに捕まっちゃうじゃない」 ヒュウガはコナツに手を伸ばし、腕を引っ張る。捕まったと青褪める間もなく、今度はヒュウガはコナツをドンと押してなるべく遠くへ倒れるように転ばせたのだった。 「ッ!」 何をされたのか理解することも出来ないうちにヒュウガは足早に近付き、 「逃げてくれないから逃がしたつもりなんだけど」 上から見下ろす。 「う……」 弱ったコナツは返答のしようもなかった。そしてヒュウガはすぐに腕を掴むと、 「捕まえた! というわけで、犯す」 また同じことを繰り返そうとするのだった。 「嫌です! 嫌!!」 コナツは恐怖のあまりに全身で拒否するが、 「あのさ、イヤとか、やめてとか、そう言われると燃えるタチなんだよね、オレ」 わるびれる様子もなく言うのを、コナツは涙を溜めながら、 「ふざけるのもいい加減にして下さい!」 負けじと言い返した。 「その台詞もいいね」 「少佐!」 「はい、時間もったいないから犯す」 「!?」 「今度はちゃんと入るかなぁ」 ヒュウガは楽しそうにコナツを床の上に倒し、脚を持ち上げて尻を晒すと、早速挿入を試みた。 「いたいっ」 顎を反らしてコナツが呻いたが、 「さっきから痛いばっかり言って、コナツって痛みに弱かったっけ? っていうか、そんなんじゃオレの子産めないよ?」 何を言われたのか理解できず、コナツはひたすら激痛に耐えた。 「んー、やっぱきついわ。中は濡れてるはずなのに、入り口が駄目。ちょっと待って」 「ひっ」 今度は一気に抜いてしまうと、ヒュウガは寝室からローションを持ってやってきた。 「これ持参で鬼ごっこしよう」 「……そんなばかな」 悪魔だと思った。 ヒュウガはたっぷりとローションをつけ、再度挿入する。 「う!」 どんなに濡らしても、その大きさは変わらないのだ。余りの痛みにコナツは息を止め、全身に力を入れて歯を食いしばった。 「おおお、そんなに力んじゃ駄目だって」 「ど……どうして……どうして」 「あーあ、泣いたら先に進めないなぁ」 「もう、もうやめて……ください」 「嫌。オレ、やりたくってしょうがないの」 「痛くて……我慢出来ない」 「えー、我慢してよぉ」 「ひどい……ひどい、少佐」 「そうだね」 「どこまで私を貶めれば……」 コナツが今まで見たこともないほどの大粒の涙を零し、絶望的な顔でヒュウガを見上げた。 「ん? 何か勘違いしてないか?」 「!?」 「オレ、嫌いなヤツとか憎らしいヤツにはこんなことしないけど?」 「!!」 「そういうヤツはぜんぶ殺してきたから」 「!!」 「うまく言えないけど、こうでもしなきゃやってられないくらいコナツが好きでさ」 奥まで腰を進め、コナツが再び息を止めると、 「あー、もう、このまま死んでもいい」 ヒュウガが呟いた。 「少、佐……」 コナツが時折ヒュウガのこういった異変に気付くのは、狂ったように躰を求められるときである。 もしかしたらセックス依存症なのではないかと疑うが、他の誰かに欲情をしている様子もなく、自分だけが対象になっていることで、それも信じられない。自分に上司が何を求めているのか、一人で考え込んでも答えは出ないまま、力に屈服するだけの立場を悲しく思っていた。 「いいよねぇ、コナツって」 「……どこ、が」 「え?」 「私の……私のどこがいいのです? 平凡で、何一つ秀でるものもなく……」 コナツは謙遜したのだろうが、 「顔も躰も好きだけど? ぜんぶ好きだけど? いいけど? 何か文句ある?」 ヒュウガはその謙遜を美徳とは捉えない。 「……」 そして、痛がるコナツを無視し、強引に腰を進めて、いつもよりも激しく動かした。 「うぐっ!」 今度はローションを使っているから大丈夫だろうと思ったが、 「ん? あれ?」 「ひ……ッ、イタ……ッ!」 裂傷を起こしてしまったのだった。 「あら、流血沙汰になっちゃった」 「ぅ……」 ローションが沁みて、激痛どころではない。叫びたいのをこらえ、なんとか耐えたが、我慢しようとするたびに躰に震えが走る。 「可哀相だけど、やめたくないなぁ」 床に血が滴るのを見て、ヒュウガが残念そうに呟く。 「どうしても……やめて頂けません、か?」 コナツが表情を歪ませて訊ねると、 「うん」 ヒュウガがはっきりと答えた。 「そう、ですか……」 うめき声と共に、諦めの言葉が紡ぎ出されたが、コナツにとっては痛いだけで、まだ快感はなかった。ヒュウガはコナツのイイ所に当てもせず、そして性器に愛撫を仕掛けることもない。まさに、自分の欲求だけのためにコナツを抱いているのである。それが悲しくて、コナツは苦悶し、何度も他を当たってくれと言いそうになったが、ヒュウガは他の誰かでは満足しないのだ。ならばせめて優しくして欲しいと思うが、脱マンネリ化を図っているのか、たまに刺激的なことをしたいと思っているのか、その意図は見えず、ただむごい乱暴を働かせるだけだった。 実質、力では勝てない。口ではどうか分からないが、年上で、仮にも上司であるヒュウガに暴言をぶつけることは出来なかった。反射的に両腕をつっぱって全身で拒否しても、 「この腕はなに」 簡単に取り払われてしまう。 ヒュウガは早漏ではないから、一度嵌入してもすぐに達するわけではない。どうしても数分かかってしまうが、その間、コナツはじっと歯を食いしばって耐えている。 終えて躰を離すと、大量の血が床に飛び散った。 「あら、これは大変」 「うう」 飛び上がらんばかりの激痛に歪んだくちびるからも一筋の血が流れた。耐え切れずくちびるを噛んでしまったのだった。 「おや、思い切ったことしたね」 「……ッ」 自分でも無意識にやってしまったことで、故意ではない。くちびるの痛みよりも、下半身に受ける痛みの方がはるかに大きく、だから、コナツは鏡でも見ない限り、口から血を流していることに気付かない。 「ほら、逃げないと、またすぐ捕まえるよ?」 何の支えもない所でコナツはぐったりと横になったまま定まらない目線で天井を見つめ、躰を震わせていた。それを見たヒュウガは、 「すごく可愛い。可愛いよ、コナツ」 そう言って今度は自身を扱き始めた。 ぼんやりと視界に入った姿に、化け物……と口に出してしまいそうになったが、声が出なかったのが幸いした。この性欲は異常だと思った。 「コナツ見るとね、全然萎えないんだよ。原理としてはおかしいのに、理屈じゃないっていうか? オレ、コナツとセックスしないと不安になるっていう病気なのかもねぇ」 自分でも依存症だと言うところを見ると、自覚しているだけマシなのかとコナツは思う。 「いいの? 逃げないの? 捕まえるよ?」 「……」 もう、腕の一本も動かすことが出来ない。 「どっちかっていうと、逃げるコナツを追いかけたいんだよね……。ちょっと痛めすぎたかな」 床を見ればコナツが流した血で濡れていた。二人ともそれには気付いていたが、その光景が生々しさに拍車をかけ、更にヒュウガは欲情し、コナツは青褪めていくのだった。そしてとうとう、コナツが力を振り絞って逃げ出した。 「おっ、何処へ行くの」 ヒュウガが面白そうに見ていると、コナツは脱がせられてそのまま無造作に捨てられたシャツの所までよろよろとした足取りで辿りつき、そのシャツを拾う。 「ん? どうしたの、コナツ」 ヒュウガはてっきり、服を着て帰ろうとしているのだと思った。だが、実際のコナツの行動は想像とは違っていた。 「!!」 コナツはシャツを雑巾代わりにして血塗られた床を拭き始めたのだった。 「……汚してしまった……ので」 さすがに自分の血がそのままになっているのは嫌だったのか、少しでも綺麗にしようとして力を振り絞っていたが、 「そんなことしなくていい」 ヒュウガは無情にもシャツを取り上げ、そしてそのシャツでコナツの両腕を後ろ手に縛り上げた。 「うっ……」 苦痛で呻くコナツは言葉もなく朦朧としてヒュウガを見上げる。 「いい顔だ。それにしても律儀だね。わざわざ掃除までしてくれるなんて。でも、まだまだこれからなんだよ、悪いけど内臓引きずり出すつもりでやるから」 「!!」 コナツの顔が歪んだが、やがてそれは諦観したように目を閉じ、細く息を吐いてやるせない思いをまた躰の奥へと溜め込んで痛みに耐えるように自身に命じるしかなかった。 「やっぱ男っていいよね。締まり具合が違う。特にコナツはお尻が小さいからなー。オレが挿れると骨盤砕けそうだもんね」 言葉で煽り、コナツの尻や腰、太腿などを撫で上げていたが、その指が爪を研ぐような動きに変わり、鋭い痛みが加わると、 「やめて下さいっ」 コナツが悲鳴を上げた。 「ごめん、ほんと可愛くって黙っていられなくてさ。でも、こんなことされたくないよね、お前がして欲しいのはガンガン突っ込まれることでしょ?」 そうしてコナツを仰向けに倒すと、無理やり挿入し、皮膚が破ける音がしても構わず奥まで腰を押し込んだ。 「あああああッ」 絶叫して仰け反り、コナツはすぐに意識を失った。後ろ手に縛られたまま可哀想なほど痛々しい姿で、 「あれ、なんでー? 駄目だよ、それじゃあ」 ヒュウガが面白くなさそうに声を掛けてもコナツは目を覚ますことはなく、今度はコナツの頬を叩いてやった。 「うーん、こすったら起きるだろうか」 試しに腰を動かしてみたが、出血がひどくなるだけでコナツは意識を失ったまま躰を痙攣させていた。 「起きてなきゃ意味ないじゃん……」 ヒュウガは舌打ちをして再びコナツの頬を打つ。 「ぅ……」 小さく呻いてようやく目を開けると、 「良かったぁ、マジで失神は勘弁して。もっと堪えて貰わないと困る」 容赦ない台詞がコナツの耳に届いた。 「はい……」 正直に返事をしてコナツは朦朧と天井を見上げる。今になってもっと抵抗しておけばよかったと後悔したが、もう拒絶の声も大胆に逃げる行動も何も起こすことは出来なかった。体力が奪われ、精神的なダメージも大きい。 痛みと恐怖で力は出せずとも涙が零れた。 相手が上司だからといって力に屈し、ここまで抵抗しなかったのは自分にも非があるのだと思った。 一方ヒュウガは自身の欲望のために従順な部下をこんなにも酷く追い詰めるのは、そう何度も出来ることではないと思っていた。だからこそ、今なら突き詰められるのではないかと限界を目指そうと決めた。 「セックスで人って死ぬんだっけ」 自嘲気味に呟いたが、ヒュウガがしていることは明らかに殺人行為ではないのか。 「別に薬や道具を使ってるわけじゃないんだし……大怪我くらい?」 だいぶ出血もしているし、そろそろ止血しなければショックで死ぬ場合もある。それでもヒュウガはやめずにコナツを穿ち続けた。 「あー、やばい、普段より数倍気持ちいい」 顎を反らせて快感を味わっている姿は表現のしようのないほどに恍惚としていた。大きくグラインドさせるとコナツが息を詰めて小刻みに震える。かなりの痛みがコナツを襲い、 「や、やめ……て……」 聞き取れないほどの小さな声で懇願するしかなかった。 「やめるわけないでしょ、ここでやめる男は居ないよ。痛いって叫んでもいいから我慢してて」 ヒュウガはコナツが苦痛に呻くのを楽しそうに見ていた。すすり泣いている所を褒め、歯を食いしばっている所も褒めて大層ご機嫌だ。 稽古では、どんなに厳しく扱っても根を上げることなく食らいついてくるいい部下だ。出逢った時からそうだった。初めて見た時から、服を脱がせれば綺麗な躰が見られるだろうという予想は出来ていた。実際に予想を上回る抱き心地のいい肢体と、快楽の虜になるコナツの”中”は手を出さずにはいられないという欲望は間違ってはいないと正当化してしまうほどだった。決して女々しい性格をしているわけではないが、何処か品があり、真面目な所も可愛らしい所もあって何倍もおいしい。一生手放したくないと本気で思った。 「さすがに我慢強いね。打たれ強いっていうのかな。ますます苛めたくなっちゃう」 ヒュウガがぐいぐいと腰を押し付けるとコナツは真っ青になって目を見開いた。限界まで大きなものが躰の中に侵入していて痛みや苦しみだけではなく嘔吐感に襲われて腹と胸を押さえながら、 「う……ぐ……うえっ」 反射的にえずいてしまったが胃の中のものが出ることはなかった。 「うえっ、う……ううっ」 直腸のみならず大腸の部分まで達しており、 「し……死ぬ……死ぬ……」 とまで言い始めたのだ。 「オレも……限界なんだけど」 ヒュウガは達しそうになっているのか顔を顰めて訴えた。 「あ……」 ヒュウガがフィニッシュとなると、更に動きが激しくなるだろうと思われたが、ようやくこれでラクになれるのかとコナツは安堵せずにはいられなかった。しかし、恐らくインターバルが短いヒュウガである、すぐに回復して再びコナツを無残に襲ってくるだろう。それを考えると戦慄を覚え、繰り返される激痛の波に死をも覚悟するのだった。 「く……っ」 歯を食い縛り、やがて訪れる苦痛を待った。今度こそ内臓を突き破られるような激しさで突かれるのを、失神以外で痛みを逃す術を知らず、今すぐにでも気を失いたいほどだ。だが、そう長くは意識はもたないだろう。しかし突然気を失ってしまったらまた叩き起こされる。それだけならばいいが、そのうち道具が出てきたら終わりだと思った。ヒュウガは何度も失神するなと釘を刺していた。 「わ、わた……し……」 「ん?」 「た、ぶん、いし……き、が……もたな、い」 「……」 「す、みま……せん」 「……」 こんな時でさえ申し訳ないと謝るコナツである。ヒュウガにいいようにされて、その無謀な振る舞いを受け入れ、ひたすら耐えながら相手を気遣う。コナツのヒュウガへの想いは想像を遥かに超える深さがあった。 すると、ヒュウガがピタリと動きを止めた。 「しょう、さ?」 「じゃあ、やめる」 「!」 「もうやめるよ」 「な……っ!?」 苦痛から逃れられるのはいいが、途中で投げ出されるのも嫌だった。つまり、ヒュウガは途端にコナツへの興味を失ったということである。 「終わりにしよう」 「!!」 ヒュウガが淡々と呟く。 「オレもここで限界なんだ」 「……まだ、まだ……」 「ごめん、無理」 ここに来てヒュウガが白旗を揚げている。それなのに、 「まだ大丈夫です、続きを……」 こんな状態でコナツの方が懇願することになろうとは。しかしヒュウガは苦い顔で拒絶の言葉を繰り返した。 「無理だよ、無理。もう出来ない……降参させて」 「でも」 「最初から不可能だって言ったじゃない」 「……」 「オレには向いてないんだよ、こういうの」 「そんなことは……ありません」 「とにかく、ごめん、ギブアップだ」 ヒュウガがゆっくりとコナツから離れる。滴り落ちる血を見て青褪めたのはヒュウガだった。 「ああ、こんなになって……」 泣きそうな声でコナツの躰を見つめ、 「だから嫌だって言ったのに。オレを苛めてそんなに楽しいの」 おかしなことを呟いている。これは傍から見れば何が起きているのか分からない状況である。 「もう嫌だ」 ぐったりとしたコナツを抱えて悲痛の表情を見せた。 「大丈夫? 躰痛い? 病院連れて行くよ、さすがにやばい、治療しないといけない」 ヒュウガの声が震え、そしてコナツの返事はなく、ぐったりとしたままうつろな顔をしているのを見て更に涙声になり、 「ああ、どうしよう、どうしてストップをかけないの、駄目だと思ったらゲームオーバーって言う約束だったじゃない、ここまで我慢する理由は何」 ヒュウガがあたふたと呟いてコナツをタオルで包みながら本気で病院に連れて行く準備をしようとした。 「……っ、しょう、さ……」 「あ、意識ある。よかった、完全にやばいと思った」 ヒュウガはコナツを抱き締めると顔色を確かめ、 「これじゃあ駄目だ、病院行くよ。出血が酷い。取り敢えずこれ飲んで」 ヒュウガはタブレットと水を渡そうとするが、コナツには受け取ることが出来ない。 「口移しするから何とか飲んでみて」 そうしてヒュウガはコナツに止血剤を飲ませたのだった。 「あー、こんなこともあろうかと薬準備しといたのは正解だった」 ヒュウガがおろおろとして”らしくない”態度になっている。 「……少し……このままで……」 「いやいや、待てない、ちゃんと治療しに行こう」 「病院は嫌」 「そうも言ってられないんだ、お腹痛いでしょ?」 「……」 「大丈夫だよ、内密に診てくれるから。知り合いの医者には頼んであるし」 「頼んで……?」 「もしオレがやりすぎたら治療して欲しいって言ってあるの」 「そんな……」 「用意周到? 保険はかけとかないとね」 「少佐……」 「こうなったのもコナツのせい……って言いたいけど、例えお前が嫌だと言ってもオレが途中でやめれば良かっただけのこと」 ヒュウガはコナツの頬を撫でながら呟いているが、 「私が……私が悪いんです……それに……本当に大丈夫ですから」 「大丈夫じゃないよ。まだ顔色悪いし」 「寝れば治ります」 「そう簡単に言わないで」 ヒュウガが泣きそうになっている。というより涙を溜めている。こんな顔を見たのは初めてだった。 一体何が起きているのかこれではさっぱり分からないが、事の真相は前日の会話から始まる。 まず、この日から二人には待ちに待った夏休みが与えられていた。休みが少ない参謀部である。特別休暇は文字通り特別に与えられたもので、ヒュウガとコナツは一週間ほど休みを貰うことが出来たのだった。 その前日に二人は休暇の記念にと何をするか話し合うことになり、突然コナツが妙な提案をしたのだった。 「私、怖い思いしたいです」 「は?」 ヒュウガは食べていたりんご飴を落としそうになった。 「休暇を遊んで楽しむのではなくて、せっかく夏なので恐怖体験がしたい」 「お化け見たいってこと!? 心霊スポットに行きたいとか言わないよね!?」 夏の風物詩と言っても構わないが、本当にそれでいいのかとヒュウガが問うと、 「……やっぱりそれではつまらないかも」 「だよね、花火とかしたくない?」 「花火は皆で出来ますし、特に夏休みじゃなくてもいいじゃないですか」 「え! 今だからいいんじゃない」 「違います、二人にしか出来ないことをしたいんです」 コナツは執拗に二人だけという言葉にこだわった。 「オレは鬼ごっことかかくれんぼとかの方が好きなんだけどぉ」 「小学生ですか」 やはり却下されたが、ただの鬼ごっこではなくて何かスリルのある条件をつけたり、大人ならではの遊びという意味で……と付け加えたが、コナツには通じなかったようだ。 「他には……ビニールプールとかで水遊びはどう?」 「ぬるい」 「えっ!?」 「そんな楽しいだけということではなく」 「え、えーっと」 コナツに駄目出しをされて困惑していたヒュウガだが、コナツは怖い思いをしたいと言っていたことを思い出し、肝試ししかないと口を開きかけた時、 「あっ、私、少佐に強姦されたいです」 という台詞が聞こえてきて目玉が飛び出そうになった。 「はあ!?」 「普段しないことをしたいんです。少佐、本物のSになって下さい。Sっていうか鬼畜」 「なっ、な……!?」 「少佐?」 突っ込むことも出来ずにアワアワとしているヒュウガを見てもコナツは意見を変える様子はない。 「無理でしょ!」 「出来ないんですか? 私が犯す側になると言ってるわけでもないのに、いつも私を好き放題しといて今更SMごっこが出来ないとでも?」 「いや、え、ちょ、待っ……SMって、ええええ!?」 「思い切り私を痛めつけてみて下さい。私は簡単には根をあげませんし、少佐がどこまで鬼畜っぷりを見せつけて下さるのか楽しみにしてます」 「待って、待て待て待って!」 「何です?」 「それおかしいでしょー!!」 コナツの提案は理解出来るものではなかった。そんなプレイなど、妄想する分には構わないが実際に出来ることではないし、大体自分から痛い思いをしたいというコナツの思考が分からなかった。普通は逆であり、いい思いをしたいのであって苦痛は欲しくないはずだ。 「いや、何でなの? 何でいきなりこんな話になるの?」 「それは……そうですね、二度と忘れない夏の思い出にしたいからです」 「はあああ!?」 無謀すぎる……とヒュウガは思った。 「いいじゃないですか、少佐なら出来ますよ」 「何が」 「鬼畜なこと」 「出来ない」 「普段通りにすればいいだけです」 「じゃあ、優しくしか出来ない」 「またまたご冗談を」 「大体、夏の思い出に痛い思いしたいって変だよ?」 ヒュウガはもっとな意見で対抗するが、 「だって、それくらいしか出来ないじゃないですか」 「だから、イチャイチャしたりラブラブになったり、せめて旅行とかさー」 「そんなこと、いつでも出来ます」 「暑さで頭やられた!?」 ヒュウガはどんなに考えても考えても納得出来ずに理解に苦しんだ。一瞬、そういったSMプレイがしたいならアヤナミに頼んだ方がいいのではないかと思ったが、アヤナミが部下の頼みとはいえ、そんなことをするはずがないし、まずコナツ自体、アヤナミには頼めないだろう。しかし……。 「奉仕しろとか、たまには言うこと聞けっていう話なら分かるけど」 「そんなこと上司には言えません」 「ええっ、だからって苛めろってのは」 「そうではなくて鬼畜なセックスがしたいだけです。残念ながら私は男役は出来そうにないので、今まで通り少佐に犯す役をやって頂くだけで、どちらかというといつもと変わりないのでは?」 「そんな何度も鬼畜って言わないでよ。ねぇ、どう考えたって、例えば今までと違う立場逆転でオレが受け身でお前が攻める役をやってみるっていう方がよくない? 思い出になりそうでしょ?」 ヒュウガは懸命にコナツを諭そうとした。だが、 「は? だからそれは出来ないと申しているじゃありませんか。私が少佐をどうこうするなど失敗するに決まっているし、私に恥をかかせるおつもりですか?」 「ちょ、失敗とか、やってもみないのに分からないでしょ。それに、女役の方が恥ずかしいと思うんだけどっ」 ヒュウガの答えの方がマシだった。世間一般から見て、男なら普通は男役をしたいと思うものだろう。 「私はされる方に慣れているんです。今更分からないことをしろと言われても無理ですし」 「いやいや、コナツはこれから彼女が出来たらちゃんと女性を抱くようになるわけで、そんな女役がいいとか言わない方がいいと思うよ」 ヒュウガは真剣な顔で訴えた。 「私をこんなふうにしたのは何処のどなたです?」 「え」 それを言われると何も言い返せないヒュウガだった。 「だ、だからこそ新境地開拓ってのはどう? オレがちゃんと教えながらやるから」 ヒュウガは必死である。 「そうですね、私が少佐より逞しくなったら考えます」 「えっ、男同士なんてそういうのあんまり関係ないよ! むしろひょろい方がごっついのを犯すってのも十分アリっていうか、それが醍醐味っていうか」 「うるさいです」 「こわ!」 「少佐、何も分かっていませんね。私をめちゃくちゃにするのも今のうちですよ? そのうち少佐より背が大きくなって逞しくなったら、私が可憐に泣くのを見ることが出来なくなると思いませんか?」 「どういう思考ー!?」 ヒュウガは、むしろ何処から見てもごつい男がさめざめと泣くのを見る方がマニアな世界では楽しいのだと言おうとしたが、コナツの言い分もある……と思いとどまった。 「私もそろそろ少年ではなくなって大人の領域に入りますからね、可愛さなんてなくなっていくと思いますし」 「……そりゃあ……今の子犬みたいなコナツを好き放題するっていうのは出来なくなるかもしれないけど」 「でしょう?」 「いやいや、でも、コナツはMじゃないし、無理だと思う」 「少佐、往生際が悪いですね。そんなに嫌なら結構です」 コナツは諦めようとしたのか、溜め息をついて不機嫌になってしまった。ヒュウガには、たとえ臍を曲げたとしても、コナツの提案には乗り気でなかったため、今の話はなかったことにしたい。すると、 「私、今夜は留守にしますね」 「ん? 出掛けるの?」 「はい」 「一人で?」 「ええ」 「そっか、用事でもあった? 明日なら遊べる?」 「明日は……分かりません」 「分からない?」 という会話を続けてヒュウガが神妙な顔をした。 「お前、まさか変なとこ行くわけじゃないよね」 「変な所?」 「SMクラブみたいな」 「……まさか」 コナツが目を逸らした。そしてすぐに、 「私の年齢ではそんな所行けませんし」 「じゃあ、何処に行くの」 「プライベートですから」 そう言い切ったのをヒュウガがすかさず応戦した。 「……上司命令。外出は禁止する」 「なっ、こんな時に職権乱用ですか! 酷い!」 「お前のその顔はよからぬことを考えてる顔だ。オレが相手にしないからって何か違うことするつもりなんでしょ? 売りでもするの?」 「……」 「どうせ本当はそんな所行く勇気もないくせに啖呵切ってオレを脅そうとしてるんだろうけど」 と、ここに来て売り言葉に買い言葉という状況になった。 「は? 行く勇気? ありますよ? そういうお店って実は若い子も混じってるんですよね? 少年趣味の大人も居るんでしょう?」 「お前に行けるわけがない、尻込みしてトボトボ帰るのがオチ」 「行きます」 「なっ、誰が許可すると?」 「誰の許可も要りませんっ」 「コナツッ」 ヒュウガが叫んだ。本気で叫んだためにコナツはビクリと反応し、ヒュウガを見上げた。ここに来て今更怖いと言うつもりはなかったし、自分はそれ以上に無謀な提案をヒュウガに願い出たのだ。引き下がることは出来なかった。すると、 「怒れば私が収まるとお思いですか」 きつく見返してくるまなざしにヒュウガはため息をつきながら、 「……分かった、言う通りにしよう」 「!」 「で、何だっけ。強姦? 鬼畜なセックス? そんなんでいいの」 「はい」 「そっか、じゃあ、こういうのはどう? オレはほんとは手軽な遊びをしたかったわけで、オレの願いも叶えて欲しいから、鬼ごっことかかくれんぼとかさ、それを交えながらプレイするんだ」 「?」 ヒュウガの妙な提案に首を傾げるコナツだったが、この際何でもいい。 「遊びながらってのはどう? 但し、遊びだと思わないで。鬼畜なことをするんだから」 「……それで構いません」 コナツも意思を覆すこともなく頷く。引くに引けなくなったのかと思いきや俄然やる気で、 「少佐がどこまで鬼畜になって下さるのか楽しみです」 更に煽るのだった。ヒュウガは最初の頃は嫌がっていたが、すっかり諦めて逃げ口実を考えることもなくなり、 「後悔しても知らないよ。但し、これだけは言っておく。本当に嫌だ、やめたいと思ったらはっきりゲームオーバーって言うこと。オレもそうする」 「そうですね、最中にいつもの癖で『嫌』とか『駄目』って言ってしまうこともあると思うので、ゲームオーバーというのが終了の合言葉としましょう。どんなにやめて下さいとかこれ以上無理ですとか騒いでも、それは止める理由にはなりませんからね?」 「へぇ、騒ぐ気なんだ? っていうか本気だねぇ?」 「ええ、本気で演技しますよ。ですから少佐も本気出して下さい」 「そうする」 まるで作戦会議でもしているかのような真剣な表情だが、今から二人が行うことは故意的なレイプである。しかもコナツが熱望しているのだからヒュウガには願ったりというよりも信じられないという驚きの方が大きかった。それでも二人は”演技”をするのだ。ヒュウガは内心で何処まで出来るか、これが本当の肝試しなのかと冷諦するしかなかった。 「じゃあ、行くよ。鬼ごっこ形式だからね、コナツはかくれんぼしてもいい。まぁ、オレの部屋の中でだけだからすぐに見つかるし見つけるっていうか追いかけるけど」 「はい」 「さて、オレは極重悪人になりますかね。その代わりコナツは可愛く泣いてよ?」 「……頑張ります。私を心底怖がらせてみて下さい」 「痛めつけるって言い直して欲しいな」 「……」 この時点で既にコナツの背筋がゾクリと粟立った。ヒュウガは普段はふざけた態度や上司であるアヤナミやカツラギにタメ口をきくなど傍若無人な態度を示すことが多いが、どちらかというとニコニコと愛想よく、決してサディズムを前面に出しているキャラではないのだ。しかし、一歩その世界に踏み入れれば── 。 結局、夜になって暗くなってもやめることはなかったし暗闇の中で喘ぎ声や悲鳴が響き渡る光景は本当に異様としか表現の出来ないものだった。 コナツを血だらけにして最後まで容赦なく性暴力を振るったが、ギブアップしたのはヒュウガが先だった。翌朝になっていよいよコナツの顔色が蒼白から土気色に変化したのが原因だ。ほとんど息をしていないように目を閉じることもなく死人のように動けなくなった躰は、痣だらけで、これ以上は続けられないとヒュウガが降りた。本当はコナツがギブアップと言うまで思う存分恐怖体験という名のレイプをしてやろうと思ったが、コナツが余りに強情だった。 コナツは当然、意識が朦朧としてギブアップと言えなかっただけかもしれないが、しかし、終わってからは、 「少佐、凄く良かったです」 と言ってのけ、 「どういうこと」 これだけ痛い思いをしても懲りていないのかと驚倒するヒュウガに、 「だって少佐、似合ってました」 憧憬のまなざしを向ける。 「そういう問題じゃない。じゃあ、言うけど、お前、Mなの? 違うでしょ? それともMに目覚めたの? いや、それはない、お前、絶対Sだし。隠れSっていうかMじゃないことは確かだ」 「何を証拠に」 「今までの言動」 「……」 「まぁ、可愛いけど」 「何処がですか」 「全体的に」 「……少佐は分かっていらっしゃいませんね」 コナツが力なく呟くと、ヒュウガは物わかりの悪い上司だと言われたことで怪訝な表情になり、 「お前の言い分を聞こう」 あれこれ言う前にコナツが言いたいことを聞いてやることにした。するとコナツは、 「好きな人の前だとMになりますよ」 と言ったのだった。 「えっ」 「たまに”支配されたい”とか”何をされてもいい”って思うんです。思うようになったというか。惚れた相手にはそうなることがあるって気付いたのは最近ですが。その惚れた相手が自分より力も地位も強い人だと尚更です」 「……」 「まして少佐は私が弱ると人が変わったように私を心配しますから、それで少佐がおろおろするのもいいのです」 「そんなバカな」 これではMなのかSなのか判断出来ない。ヒュウガは意表を突かれ、腕に抱いた部下の涙と血の跡に濡れている小さな顔を見つめた。 「楽しかったですよ、私は」 「オレは……」 「……私の反応、つまらなかったですか。すみません、もっと演技するべきでしたが……さすがに本当に痛くて色っぽくはなりませんでした。でも少佐は色気満々でしたね。やっぱりお似合いですよ、S役」 「いや、オレ、Mで」 「普段はそうかもしれませんが、本性は違うと思います」 「だからぁ、そんなこと言ってオレを苛めないでよー」 ヒュウガがまた涙目になっている。弱っているコナツを抱き締めながら、こんな話をしている場合ではないと焦りだけが大きくなり、どうにかして病院に連れて行きたいと考えていた。 そうして結局、コナツは病院送りになったがヒュウガが一時も離れようとせず甲斐甲斐しく世話をしていた。 「また来年もしたいですねぇ」 ベッドに寝かされたコナツがうっとりと呟くのを見て、 「お前……狂ってるよ……」 ヒュウガがりんごを剥きながら言い放った。 「違いますよ、鬼畜な少佐が見たいだけです」 「やめて。もうあんなこと出来ない」 「つまらないですね」 「は? いつもはオレのこと邪険にするくせにどういうこと」 コナツは決して普段からM役を買って出ることはないし、やはりヒュウガには受け入れがたい提案だった。 「どうしてでしょうね、少佐を何としても鬼畜にさせたいと思ってしまうんです」 「意味が分からない」 「何度も申し上げていますが板についているんです。あそこまで徹底したSっぷりが見られるのも貴重ですよ」 コナツは間違ったことは言っていないと堂々と意見を述べていく。 「……とにかく、二度としないからね。逆ならいいかなー。オレのこと縛ったり打ったりしてくれない?」 「絶対に嫌です。気持ち悪い」 「ええええ!!」 ヒュウガはせっかく剥いたりんごを落としてしまった。それに追い打ちをかけるように、 「似合わないし」 コナツが平然と呟く。 「ちょ、酷いよ、めちゃくちゃ傷付いた。立ち直れない……お前、暑さのせいで頭おかしくなってる」 「夏のせいにしても構いません」 「それって……それって……」 いわゆる夏の過ちといったふうだろうか。そして二人は延々と同じ会話を繰り返して埒が明かぬまま夏休みを過ごしたのだった。 どちらが本物でどちらが演技をしていたのかは分からない。どちらが狂っているのかは、躰を合わせた二人にしか分からないことだった。 神以て忘れがたく、そして凄まじく過激な夏の思い出である。 |
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