ほんのり甘くてちょっぴり苦い、チョコレートのような関係


 或る日、士官学校の中で、理事長ミロクのベグライターであるカルが教師と仕事の話をしていた。長い立ち話になっていたが、何処かカルは急いでいるように見えた。
「私は夜半にもう一度学校に顔を出す。その件は私一人で結構」
 どうやら警備についての確認をしているらしく、カルがそう言って締めると、踵を返し、走りだしそうな勢いであっという間にその場を去ってしまったのだった。
 いつもは冷静沈着なカルが忙しない様子を見れば、まるで上司であるミロクに何かあったのではないか、それとも軍で何かが起きているのではないかと察してしまいそうだが、実際はそんなことは一つもなかった。
 その数分後、カルの自室で行われていたことは、ミロクとは一切関係のない、どちらかというと平和的なものだ。
「あいたたた」
「我慢しろ、このくらいの怪我はいつものことだろう」
「消毒液が沁みるんだってば」
「分かったからおとなしくしてろ」
「カルってば乱暴!」
「お前みたいな暴れ馬よりはマシだ」
「ひどっ」
 テイトはミロクの屋敷で殆ど裸にされてカルに怪我の手当てをされていた。
 テイトは14歳になって士官学校の寮に入り、養ってもらっているミロクからは金銭的な援助しか受けていなかったが、それでもたまにこっそりと屋敷に帰る時があった。もちろん、それはミロクやテイトのお世話係であったエレナにも秘密である。つまり、カルがこっそりテイトを”お持ち帰り”しただけで、それは他言無用であったし、そうしていることをミロクに知られてはいけなかった。もっとも、ミロクも伊達に理事長の名を名乗っているわけではないから、もしかしたらテイトやカルの行動のすべてを把握していたとしても、敢えて口に出すことなく黙認しているのかもしれなかった。
「オレ、今日は寮に戻りたくない」
「……外泊届けを出していないだろう」
 何処の世界でも団体に所属する場合は規則が厳しい。特にテイトは監視がつけられるほどだ。
「駄目? カルは忙しいの?」
「ミロク様は今日は休んでおられる。オレは自由の身だが一度学校にも戻らなければならんし、軍にも顔を出さなければならない」
「じゃあ、今は時間あるんだし、一緒に居てくれてもいいよなっ? オレはどうせ戦闘で連れてこられたんだから、このまま外泊することにして」
「オレが手続きをするのか」
「うん。オレよりカルの方がしやすいだろ?」
「ったく、そういう知恵ばかり働くんだな」
 テイトは今しがた他国との戦争に特殊部隊として借り出されていた。
「今日の特攻隊長だったからな、特別にご褒美として許してやろう」
「わぁい」
「お前の洞察力と攻撃のタイミングは見事だった。時間がかからずに済んだのはお前の活躍の賜物だ」
「えっ、そう?」
 報告を受けていたカルがテイトを褒め、テイトはほんのり頬を染めたが、
「でも、建物が崩壊した時に逃げ損ねたから瓦礫に埋もれて死ぬかと思った」
「お前、何か考え事でもしていたんだろう」
 自身の失敗も認め、怪我を負った箇所を何度も見つめてため息をついた。
「もう終わったと思って気が抜けちゃって」
「腹が減って夜メシのことでも考えていたか」
 カルがからかうと、テイトは真面目な顔で、
「違うよ、もっと大事なこと」
「……お前の場合は金でもないだろうに」
「お金? そんなの持ってないよ。現物支給だもん」
「そうか。ならばオレには分からないことだな」
 カルの方が先にこの話を終わらせようとすると、
「オレね、カルのこと考えていたんだ。分かってるくせに」
 誘い球を投げるように訴えた。
「……戦場でまでわざわざご苦労なことだ」
「でもね、本当のことを言うと、四六時中カルのこと考えてるよ?」
 天性のマヌーバーとでもいうように、テイトがペロリと舌を出して呟く。
「それは光栄だ」
 カルは一切動じることなく答えたが、
「どういうことを考えているか知りたくない?」
 テイトはますます追い込んでいくのだった。
「どうだかな。どうせロクなことでもないんだろう」
「ううん、真面目な話」
「真面目?」
「そう。あのね、カルって一体何者なんだろうってさ、ミロクのそばに居てバリバリ仕事こなしてるけど、オレはカルのことよく知らないから」
「……」
「好きな相手のことを知りたいって思うのは当然だろ?」
 テイトがすんなりと告げると、
「そうだな、その通りだ」
 カルは引き続き傷を消毒しながらガーゼを当てて包帯を巻いていく。
「でも、こういう話をするとカルはいつも、知らない方がいい時もあるって言うよね」
「分かってるじゃないか」
「それってずるいと思うんだ」
 そう言いながら首を傾げてくちびるを尖らせる。
「どっちがずるいんだか」
 カルが肩を落とした呟いた。
 さきほどまで戦争をしてきたとは思えぬほどの艶やかさがある。つい数時間前までは戦場で前線に居たのに、帰ってきた途端可愛らしい少年に戻り、しかもやけに色っぽさを前面に出して戦場や学校では絶対に見せない裏の姿を露呈させる。そして、これはカルにしか見せないし、カルの前でだけそうなるという法則があった。
「だって、カルは謎が多いだろ? そこが格好いいんだけどオレは知りたくて焦れてるのに、ちっとも教えてくれないし、いつになったらカルに認められるんだって考えるんだ」
 テイトの頬がだんだん膨れてきた。
「拗ねるな」
 すかさずフォローしたが、
「どんなにカルと話をする機会を作ろうと思っても、こういう時しか会えないしさ」
 テイトは益々へそを曲げるだけだった。
「それは仕方ないだろう」
 お互いの立場で、互いがそういう状況なのだから文句は言えず、頻繁に会ってしまったら辺りに気付かれるし、たまに会うだけだからいいということも知っているはずなのに、
「ねぇ。オレの傷が増える理由、知ってる?」
 今度は誘い球を投げた。
「さぁな」
「うわ、知ってるくせに、また知らない振りもするし。ずるい」
 テイトはプイと横を向くだけでなく、ついに背中を向け、背中にも酷い傷があり、痛々しいほどだったが、
「知らない振りなんかしないさ」
 カルはその傷にくちづけ、そっと舐め上げた。
「ア……ッ、イタッ」
 テイトがびくりと躰を震わせると、
「中々美味い血だな」
 カルが低く呟いたのだった。
「もっと……舐めて」
「ああ、遠慮なく頂こう」
「……ッ」
 そこから二人だけの花の宴が始まる。
 せっかく治療をしたばかりなのに、躰を動かすせいで包帯がずれたり、或いは取れてしまい、生々しい傷跡が露になる。それを見つけるとカルが一つずつくちづけて、よく言う「口で消毒」を抱きながら実行していった。しかし、痛みで顔を歪めるテイトに気遣い、
「やはり抱くのは忍びないものだ」
 と言えばテイトは泣いて訴える。
「嫌だ、何のためにここに来たのか分かってるだろっ。滅多にない機会なのに、たかが怪我でやめにするなんて信じられない」
「……お前の気持ちも分かるが、オレは可哀相で見ていられないんだがな」
「は? オレを戦場に送り出しといてよく言うよ」
「それとこれとは別だ」
「何が別? 戦場で怪我をするのはよくて、それをプライベートで悪化させたら駄目だってやつ? カルって結構いい人?」
「随分反抗するじゃないか」
 食い下がるテイトに苦笑し、
「当たり前だろっ」
 テイトが梃子でも動かないことを確かめると、
「それくらい元気ならば抱けるな」
 ようやくカルが折れた。
「頼むから手加減とか手抜きしないでほしい」
「手抜きはしないが、出来れば優しい方がよくないか?」
「それは終わってから優しくして貰って、最中は激しいのがいい」
「……14の子供の言う台詞とは思えんが」
「年関係ないから!」
 テイトは必死だった。
 寮でも学校でも孤立していて、安らぐ場所がなく、毎日戦うことばかり教え込まれ、奴隷としての日々も長い間、ただ苦患を受けてきた。唯一話せる相手がカルしかいないとなると刷り込み現象にも似た効果が表れて、カルを身内か、或いはもっと特別な大事な人だと思い込んでしまうのも無理はない。
「そんなに怒るな。ちゃんと望むようにしてやるさ」
 カルはテイトを拒否しているのではなく、やはり大切にしているのだ。だからこそテイトを諌めるようなことも言うし、テイトの意見をすべて飲むこともしない。だが、
「オレね、マジで必死なの。今日しかここに居られないし、また暫く会えないかもってなると、もう何でもいいからめちゃくちゃにされたくなるんだ。そうすると忘れられなくなって満足する。痛いのがいいとか、変な癖がついたわけじゃないよ、出来るだけカルとの思い出を濃い目に作りたいだけ。この場合、量より質っていうの?」
「……」
 最後の面白い例えにカルは吹き出しそうになったが、そうやって懸命にしがみついてくるテイトが可愛くて仕方がなかった。
「オレもそう思っている」
 同意し、カルはテイトを押し倒すと、
「どうせ血塗られた関係だ。楽しもうか」
「!」
 目を見開いたあとで安心したように笑ったテイトは、腕を伸ばしながら、
「やっぱりカルって話が分かる。そしていい男」
 どうしても褒めたくてカルの肩に両手を回し、くちづけを促したが、
「よく言う。誑かす相手を間違っているんじゃないのか」
「何言ってるの、ミロクに言えって? それとも学校の先生に? 先生にお世辞なんか言わなくてもいい成績はとってるよ」
「そうだったな」
 会話がやまず、くちびるが合わさることがない。
「無駄話は終わってから寝物語で聞いてやる」
「……そうだよね、ついお喋りしたくなっちゃう。オレから誘ってるのにごめん」
「いいさ、そのうち喋られなくなるからな」
 カルは口を飛ばして耳朶と首筋に回った。
「う!」
 どんな状況でもそこを攻められると弱く、状況が状況なだけにひどく感じてしまう。
「いい反応だ」
「ああ……」
 何度も耳朶と首筋を吸って、しっかりと跡を残す。時には痛いほど噛んでやるとテイトはビクビクと躰を揺らして息を詰まらせる。
「刺激が強い方が好みなんだったな」
「……ぁ」
 テイトはカルを見つめ、何を考えているのか当てようとしたが、包帯で隠されたカルの表情は読めない。だが、さっさと脚を広げて大きな躰を割り込ませた時に、なんとなく察し、
「カル、まさか……」
「ん? いいだろ、たまには」
「え、でも」
 カルはテイトの後ろを慣らさずに挿入しようとしているのだった。
「オレの方はたっぷり濡らしてある」
 先にローションが滴り落ちるほど濡らしたカルの肉棒は、直視出来ないほどに硬く弧峰として、その小さな蕾を穿ちたくてウズウズしている。
「そんなに大きいのに」
 テイトが息を荒げながら言うと、
「大きいからいいんだろ?」
 カルは引くつもりはないようだった。
「……いいけど、好きだけど、いきなりは……」
「やめるか? それともゆっくり挿れて欲しいのか」
 一応聞いてみた。それでもカルはテイトがどんな答えを出すのかを知っていた。
「いきなりがいい。それも、思い切り捻じ込む感じで」
 怖がっていたはずのテイトは、実は挿入前にもかかわらず、かなり興奮し、怪我で躰を痛めていることも忘れて刺激されることを望んでいた。
「だろ? 正直でいい」
「うん」
 テイトの脚先を掲げながら、何度か尻の丸みを帯びた部分に先端を押し付け、少しだけ焦らしてみせると、
「まだ? まだ?」
 テイトは待ちきれずにシーツを掴む。
「……今日は焦らすのをやめておくか」
 そう言って腰にクッションを当てて尻を上げ、力任せに秘孔を目掛けて亀頭を捻じ込んだ。
「アアッ!!」
 期待通りの衝撃に見舞われたテイトは顎を逸らしたが、声は濡れ、嬉しそうに繋がった箇所をきゅうと締め付ける。自然に中の締まりも良くなり、
「随分収縮が激しいな。これでは動けん」
 カルは苦笑いしながら秘部を見つめた。
「い……いたぁ……っ」
 苦痛の呟きも、
「怪我とどっちが痛い?」
 というカルの意地悪な質問によって喘ぎ声に変わる。
「ん、あ……ッ、どっちも痛いに決まってるっ、やだ、まだ動くなっ」
 喰い千切られそうなほどぎちぎちに嵌めているのに、
「もっと奥へいったら止めてやる」
 それでも無理やり動こうとしてテイトを追い詰める。
「うあぁッ」
 カルが懇親の力で腰を進めると、テイトが悲鳴を上げた。
「嫌がっている声じゃない」
「うう! だってカルのが大きいんだもん!」
「……それが理由か? よく分からんな」
「ああ、だめー!」
「何がどう駄目なんだ」
「き、気持ちよくて……だめ」
「……そうか。良かったじゃないか」
 流れるような会話もいよいよここまでで、あとはテイトがわけの分からない声なのか悲鳴なのかわめき声なのか、気がふれたと思えるような乱れた言動が続き、それをカルが宥めながら犯し、注挿を何度も繰り返し、快感を限度まで引き上げていった。
「ううっ、なんでぇ!」
「?」
「なんでだよっ」
「どうした?」
「ああ、中が気持ちいい」
「それはオレだ」
「違う!」
「中がいいのはオレ、カルは外側でしょっ」
「!?」
 実際に躰の中を攻められているのはテイトであって、カルは性器に快楽を感じているから外側がいいだけだと言うのである。
「オレなんか、もうめちゃくちゃなんだから!」
 前立腺をこすりあげているせいで性的興奮は計り知れず、特に直腸への刺激は相当なものだ。そしてテイトはカルによって胸も首も尻も触れば感じるように仕立て上げられてしまった。
「確かに躰じゅう血だらけでめちゃくちゃだが」
「そうじゃなくて」
 怪我をしている時はじっとしているべきなのに、怪我をしているとカルが面倒を見てくれるため、そのまま情事にもつれこむことが多くなったことから、怪我=セックスという図式が出来上がってしまったのである。
 そしてカルも、多少の傷を見てもアジテーションは感じられない。逆に煽情的になり、だからこそ所有の証を小柄な躰に覚えさせたくなる。
「我慢強い男の子に育ったものだ。いい傾向だ」
「……」
「涙もろいところはあるが」
「それだけ?」
「なんだ、もっと褒められたいのか?」
「違う」
「愛の囁きは終わってからしてやる。今夜は泊まるんだろう? 何なら二回目も可能だ」
「……っ」
 テイトは強いとか忍耐力があるとか、そういうことを言われたいのではなかった。泣き虫なのも指摘されたくはなかったし、本当のことを言うならば、
「オレとカルとのカラダの相性ってどうなの?」
 それに尽きる。
「ああ。それを知りたかったわけだ。そんなの分かってることだろ」
 より律動を激しくすると、テイトが身を捩じらせて悶えた。
「あっ、ああっ、あああ!!」
「さぁ、どっちが先かな? 早い方が負けだ」
 先に絶頂を迎えた方が負けだと言い放つと、
「や、やだ、負けたくない!」
 勝負でもないのにテイトは気を逸らせたが、焦る必要はなかった。
 その後、数分ほどただ突き引きを繰り返され、テイトは嬌姿を晒しながら犯される悦びを存分に味わい、自分はいつ解放されるのか、いつ気を許そうかと戸惑っている。
「おい。締めるな」
「してないっ」
「大体、時間が経つにつれ締まりがよくなるって、普通は逆だろ」
「知らないよ」
「中が痙攣してるのか何なのか……」
 カルが性器に感じる快感も強く、その気になればすぐにでも射精出来るが、根比べというように二人とも貪欲に絶頂に近い昂奮を楽しんでいる。
「ああ、うずく、うずく」
 テイトがたまらず声を上げた。
「だろうな、もう、こんなだ。よくここまでもたせた」
 テイトの男の子の印から先走りの液がたくさん流れていた。
「もう……イッちゃう、あっ、嫌っ」
 テイトが小さな声で鳴いていると、
「偶然だな。オレもだ」
 奥まで大きく腰を動かしてから一旦動きを止めると、カルも挿入したまま放った。同時に二つの躰が奇妙な動きで痙攣したが、カルは口笛を吹くほどの余裕があって、テイトは躰から力が抜けずに上体を捩ったまま動けなくなっていた。
「う……ぐ、ひくっ」
 泣きじゃくるように吃逆しながら暫くピクピクと引きつらせ、カルが性器を抜いたと同時にまた射精をしてしまったのだった。
「おいおい、随分お得な躰だな」
 カルは苦笑し、テイトの精液だらけの腹や胸を撫でた。
「……ふ、ァ……」
 まだ話せる状態ではなく、カルはテイトが落ち着くのを待って後処理を行ったが、テイトはぐったりとしたまま朦朧として焦点の合わない目で何処かを見ていた。
「大丈夫か? 頭おかしくなったんじゃないだろうな」
 本気で心配するほどの疲弊ぶりで、これでは寮に帰せないと思う。外泊届けを出すのが賢明である。
「……カル」
 ようやくしゃべられるようになったと思えば声は掠れ、
「意識はあるな。今日は戻りが早い方か」
 安心した矢先に、
「カルは気持ちよかった?」
 そんなことを聞いてくる。
「……」
 今度はカルが返答に詰まり、どう答えていいものか悩んでいるところへ、
「いっぱい出した? オレは? オレはどうだった?」
 終わってからこんなふうに攻撃されるのは予想外だった。
「こりゃあ、夜も続きが必要だな」
「夜もって、もうすぐ夜だよ」
「お望み通り、今夜はここで寝ていけ」
 カルは外泊の申請をするために一度部屋を出なければならなかった。服を着て支度をすると、
「少し外の様子も見てこよう。まだ仕事もあるが、お前はもういいだろう。ここで待ってろ」
「早く帰ってきて」
 ベッドの中で丸くなって呟く姿は猫のようで、今すぐ専用の首輪をつけてしまいたくなる。
「いい子に留守番してろ。眠るのも構わん。ただし、夜は寝かせられないな」
「……カルってば、いらやしー」
「!?」
 どっちが……と突っ込みたいのを堪え、冷静に、冷静にと心中で唱えながら、
「何か食いたいものはあるか」
 と訊ねると、テイトは少し考えてから、
「チョコ」
 お菓子をねだった。
「なんだ? 甘いモンが食いたくなったのか」
「うん。なんとなく」
「そうか。大人ならば酒でも……といきたいところだが、子供だからな」
「子供子供って、こんなことしといて酷い!」
「それとこれとは別か」
「別!」
 テイトはむくれていたが、拗ねた顔は年相応で、やはり可愛い。

 部屋を出ると、このままテイトを匿って二度とここから出さないように独占したいという思いに駆られる。
「あいつは癖になるな」
 そうして行く末を憂惧する羽目になるのだった。
 
 残されたテイトは、ベッドで終わったあとの甘さを小さな躰に感じながら、
「まだ? まだ帰ってこないの? カルー、カルー、まだー?」
 出て行ったばかりのカルの名前を何度も呼んでいた。
「チョコぉ……」
 待ちきれない子供のように、お菓子のお土産を楽しみにしながら。


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